蜃気楼の向こう側

貴林

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3 帰郷 旅立ちの前に

南雲家にて

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南雲家 母屋
「はい、温かいミルクよ」
潮香が、俊にマグカップを差し出す。
「ありがとうございます」
「気にしないで、自分の家だと思ってね」
「彩花、お布団出しておくから、敷いてあげてくれる?」
「うん、わかった」
お茶を啜りながら、伝助も
「大変だったの、なんなら、ほら、部屋が開いてるだろ?」
潮香が、身を乗り出す。
「悟の部屋は、ダメですよ」
伝助が手を振る。
「いやいや、そっちじゃなくて、ほら、あまり帰ってこないやつの部屋があるだろ?」
「え?」

叶家にいる隼太が、くしゃみをする。

「お、お父様ったら」
ぷっと、吹き出す潮香。
「法律だの、事件だの、物騒な書物しかない部屋だがな。よかったら、使うといい」
俊が、お辞儀をする。
「ありがとうございます。でも、お気持ちだけ、頂きます」
「ほお、他に当てがあるのかな」
「あ、あの」
俊が言いかける。
「拙者が、お引き取りしようかと」
忍が、真顔で言う。
「俊ちゃんは、それでいいのかね?」
「はい、シノ・・忍さんなら、安心できます」
真希乃も、賛同する。
「シノさんなら、財力もありますし、大丈夫です」
「しかし、独身男性の・・」
伝助を睨む、四つの目。
彩花と潮香が、んっと、目で訴える。
「お、おおお、そうか、まあ、二人が決めたことなら、いいん?」
冷めるような、親父ギャグを発すると、お茶をズズズと啜る伝助。
静まり返る南雲家。
潮香が、伝助に釘を刺す。
「お父様、こんな時に不謹慎ですよ」
「いや、面目ない・・」
お茶をズズズと啜り小さくなる伝助。

ぷっと、たまりかねて吹き出す俊。
それに、釣られて、忍も、吹き出した。
皆が、呆れながらも、笑い出す。
こんな雰囲気が、俊には、とても、暖かく感じていた。
自然に溢れる笑顔で、俊が、忍の腕に寄りかかる。


彩花の部屋に来た五人。
部屋の中は、淡いピンクに包まれていた。
ぬいぐるみや、男性アイドルのポスターなどが貼られ、女の子の部屋そのものだった。
一部、空手で名を馳せた人物のポスターも貼られ、彩花らしさが象徴されていた。
肩身が狭そうにする、真希乃と忍。
彩花と俊は、ベッドに腰掛ける。
蓮華と忍は、座卓のそばに。
真希乃は、彩花の勉強机の椅子に、背もたれを抱えるように座る。
「まずは、よかったですね、俊ちゃん。怪我もなくて」
蓮華が、口を開く。
「ほんと、大志が教えてくれなかったら、どうなっていたか」
真希乃が続く。
「それにしても、大志の声が聞こえてきた時は、驚いたわよ」
彩花が、身を乗り出す。
「拙者も、兄上殿の声が、聞こえた時は、天の声かと平伏する次第で」
忍が、手を合わせて天を拝む。

「なんだったんでしょうか。あれ」
蓮華が顎を摘む。
「うん、あれも、ミラージュゲートが影響しているのかもね」
彩花が、真希乃見る。
真希乃は、頷きながら
「それも、大志に会えばわかることだけど」
「さすれば、行くに限りますな」
うんと、皆が頷く。
階下から、隼太の声。
「真希乃!」
「あ、はい」
コンコン 彩花の部屋のドアを叩く音。
「入るよ」
「お父さん、どうしたの?慌てて」
走ってきたのか、息も絶え絶えになる隼太。
「知らせておこうと、思ってね」
真希乃が、隼太を見る。
「実は、病院に運ばれた犯人なんだけど、入院先から忽然と姿を消したらしい」
えっと、皆が隼太を見る。
(ミラージュゲートか)
真希乃は、唇を噛んだ。
迂闊だった。まあ、もっとも、ミラージュゲートを使われたら、聞き出すことも難しいだろう。
もう、こうなったら、一刻も早く裏に行くしかなかった。

明日は、調書のため、警察に出向くことになった。
ともあれ、志織の葬儀が済むまでは、どうにも動けない。
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