蜃気楼の向こう側

貴林

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4 恐頭山

口移し

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真希乃、彩花、麗美、京介、珍毛大ちんもうたい美蝶華びちょうからが、ここ恐頭山きょうとうざんに顔を連ねていた。

「なんじゃと、白神蛇はくしんじゃを倒したのかえ」
美蝶華が、予想以上の展開に驚き喜んでいる。
珍毛大も、驚いている。
「いやはや、初日からあれを倒すとは、わしが見込んだだけのことはあるのぉ」
自慢げに髭を撫で下ろす毛大。
「何を申すかえ。真希乃は、妾の弟子じゃ、珍には関係なかろうぞよ」
「なな、なんじゃと、いつわしが弟子入りを許したのじゃ」
「珍は、引き止めなかったぞよ」
「いや、それはじゃの」
麗美が、二人を割って入る。
「お二方、まずは真希乃くんをなんとかして頂けませんか?」
毛大が、真希乃に向き直る。
「そうじゃった。まずは、真希乃の内功を鍛えねばいかんの」
蝶華も、それには同意した。
「なれば、早々に座禅を組まねばの。平静を保つことが先決ぞよ」
肩で息をし始める真希乃の身体が熱くなる。
真希乃を支えている京介。
「師匠、真希乃がすごい熱です」
ドクン
目をカッと見開く真希乃。
胸をかきむしり、悶え苦しみ始める。
「うがあああ。がはっ」
目が血走り、どす黒い血反吐ちへどを吐く。
体中の毛穴から血が滲み出て全身が赤く染まる。
「こりゃ、いかん。京介、桃を早く」
「あ、はい」
京介は、飛んだ。
「妾が、気を送るぞよ」
真希乃の背中に掌を当てる。
蝶華は、目を閉じると掌に意識を集中させる。
大気がそこだけ揺らぐ。
真希乃の体内に、揺らぎが注がれるように見えた。
彩花も、この環境に不慣れであった為、肩で息をしてしゃがみ込んでしまった。
京介が桃を抱え、戻ってきた。
一つを麗美に。もう一つを毛大に渡す。
毛大が、彩花の口に桃を運ぶとそれにしゃぶりつく彩花。
咳き込む真希乃に、麗美が桃を口に押し込むが吐き出してしまった。
これでは、ダメだ。と、麗美は、自らの口に桃を含むと、真希乃の頭を抱え口移しに真希乃の口の中に押し込んだ。
傍目はためには、二人が口付けを交わしているかに見える。
彩花は、平静を保ち始める中、それを目にすると目を逸らした。
状況は、分かっていたが嫉妬した。

ゼエゼエと、肩で息をする真希乃。
気を送り続ける蝶華。
咳は収まり、顔の赤みが治まっていく。
毛大が、汗を拭う。
「なんとか、暴走はまぬがれたの」
蝶華が、真希乃の背から手を離すと、手を着いて肩で息をする。
「危なかったぞよ。暴走などされていたら、わしらでも抑えられんかったかもしれん」
毛大が、蝶華の肩に手を添える。
「ちと、休め。あとは、わしが見る」
「悪いがそうさせてもらうぞよ」

ふわりと、蝶華は宙に浮くと、その場で座禅を組む。
乱れた大気の揺らぎが、蝶華の周りで静かな波状になる。

「真希乃よ、動けるかの?」
真希乃を支え、岩の上に導く。
「ここで、座禅を組むのじゃ」
言われるまま、真希乃は座禅を組むと目を静かに閉じた。
彩花が立ち上がると真希乃の横に並んで座禅を組んだ。
「よいかの、頭頂部を引き上げられるイメージで、背筋を真っ直ぐに整えるのじゃ」
言われるまま二人は姿勢を正す。
「次に、会陰部、すなわち肛門と外陰部の間くらいかの。そこに意識を集中しつつ、そこに全てのチャクラを積み重ねる。イメージじゃ」
「七秒くらいかの。ゆっくりと手足の先端まで酸素が行き届くよう鼻で息を吸う。そこで七秒息を止め、全身に浸透させる。そして七秒、口を細めゆっくりと全身から絞り出すように吐き出す。あとは、この繰り返しじゃ」
「手は膝に置くでも良し。みぞおち辺りで合掌でも良いが、わしは膝の上で掌を返し、人差し指と親指で輪を作るがの」
二人から、力が抜け無心になった。
微かだが、二人のオーラが波状となり調和を始める。
「うむ、良い兆しじゃ」

ささっと、毛大は麗美と京介に促すと場を変える為、飛んだ。

風と岩、草が擦れ合う、葉が地に落ちる、何かに触れることで音が発する。
世の全てがついである。
見るものと見られるもの。触れるもの触れられるもの。想いを寄せる者と想いを寄せられる者。
光が真希乃の影を作り、影が彩花に重なる。熱の変化で真希乃を感じる彩花。
彩花の髪の毛が一本、風に流され、真希乃の鼻をくすぐっていく。香りで彩花を感じる真希乃。
不意に真希乃が、くしゃみをする。
「ばか・・・」
彩花の決まり文句だ。
ふっと、笑みを浮かべる二人。
すぐ隣にいる。それだけで、お互い安心出来た。
ゆっくりと、陽が傾き始める。
このまま、何時間でも座っていられる気がしていた。

そんな様子を、片目を開けて蝶華が見ている。

「若さとは、良いものぞよ」

若かりし日に、珍に想いを寄せ夢中だった頃を思い出している蝶華。
少し休め。と、手を添えてくれた手の温もりを思い出し、その手に自らの手を重ねる蝶華。


陽もすっかり沈み、闇の中に星が輝いでいる。
座禅を組む真希乃の肩に、寄りかかるものがあった。
彩花が、寝息を立てている。
その寝顔が真希乃は愛おしかった。
ドクン!
真希乃は、胸を抑える。
真希乃の中で、何かがうごめき始めた。
「あぐ・・・」
異変に気づき目を覚ます彩花。
「真希乃!」
声に蝶華が開眼する。
「いかん、発作だ」
真希乃の後ろに回る蝶華。
「妾が気を送る。彩花は、桃を」
「あ、はい」
真希乃は、またも血反吐を吐いた。
桃を取ると、真希乃の血だらけの口に桃を押し込む。
先程と同じで、吐き出してしまう。
躊躇ちゅうちょする彩花。
「何をしておる。迷ってはおられんぞよ」
「はい!」
彩花は桃を口に含むと、真希乃に口付けをした。
血の味が、彩花に流れ込む。
歯と歯が、ぶつかり音を立てる。
舌で桃を押し込む彩花。
自分の唾液と共に、真希乃の中に押し込まれる。
ゴクリ
音を立てて真希乃の喉を通るのを聞いた。
「彩花、しっかり抑えるのじゃぞよ」
「はい」
彩花は、真希乃を抱きしめた。
ものすごい力で、彩花を振り解こうする真希乃。
これが、男の人の力なんだ。と、彩花は必死だった。
真希乃に男を感じる一瞬だった。
力の限り、真希乃を押さえ込んでいる彩花。
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