1 / 9
始まりに
木造旧校舎
しおりを挟む
K県立飛翔高校
創立されて八十年の歴史を持つ飛翔高校は、今年に入りようやく木造建築の旧校舎を解体することになった。
これまでは備品室として使われていたが、廊下や教室の床は腐り、いつ抜ける落ちるともわからない状態だった。おまけに割れた窓ガラスとそのガラスの破片が入室する生徒や教師たちを傷つけていた。
そのため、数年前から取り壊すべきだという話も持ち上がっていたのだが、一向に解体の見通しがついていなかったのだ。
そもそも解体にはそれ相応の費用を要するばかりでなく、大掛かりな工事になる為、隣接した新校舎に騒音や埃、有害な物質も撒き散らすのではと懸念され、行政としては、おいそれと許可を出せずにいた。
とはいえ、そのまま放置するわけにもいかず、立ち入り禁止の札を立て鎖で入り口を塞ぐことで侵入を阻止しようと試みた。が、あまりに簡素な封鎖のため、侵入は実に容易いことであった。
入るなと言われれば余計に入ってみたくなるのが、人間の心理である。
しかもこの旧校舎は戦時中、医療施設としても使われていた時期があって、亡くなった者の霊が今も彷徨っていると噂され、肝試しと称し立ち入る生徒が後を絶たなかった。
そのことに学校側も決して放置したわけではない。警備会社に依頼し、侵入を阻止する目的の巡回を始めたのだ。
だがそれが、さらに生徒たちに拍車をかけることとなり、これに黙って従うはずもなく、巡回の目を掻い潜り侵入するという更なるスリルも加わって、挙って、これを試みる生徒が増えてしまったのであった。
そういった中でも、これといった事故もなく、せいぜいかすり傷程度の怪我に止まっていた為、学校側も暗黙のうちにこれを良しとしてしまっていた。
しかし、ついに事態を大きく動かす事が起きてしまったのだ。
ある日のある出来事を境にこの旧校舎は完全封鎖となり、取り壊しをせざるを得なくなってしまった。
怪我をして入院した程度のものならまだ良かったのだが、不思議なことに一人の生徒がぷっつりと姿を消し失踪するという事件が起きてしまったのだ。
数ヶ月に及ぶ捜索が行われたが、何の手掛かりも得られないまま、捜索は打ち切りとなってしまった。
壁際に残された奇妙な足跡だけが、その生徒の最後の痕跡であった。
足跡は突き当たりの壁へと向かい、まるで壁を通り抜けたかのように、つま先のない踵の部分だけが、壁際に残されていたのだ。
創立されて八十年の歴史を持つ飛翔高校は、今年に入りようやく木造建築の旧校舎を解体することになった。
これまでは備品室として使われていたが、廊下や教室の床は腐り、いつ抜ける落ちるともわからない状態だった。おまけに割れた窓ガラスとそのガラスの破片が入室する生徒や教師たちを傷つけていた。
そのため、数年前から取り壊すべきだという話も持ち上がっていたのだが、一向に解体の見通しがついていなかったのだ。
そもそも解体にはそれ相応の費用を要するばかりでなく、大掛かりな工事になる為、隣接した新校舎に騒音や埃、有害な物質も撒き散らすのではと懸念され、行政としては、おいそれと許可を出せずにいた。
とはいえ、そのまま放置するわけにもいかず、立ち入り禁止の札を立て鎖で入り口を塞ぐことで侵入を阻止しようと試みた。が、あまりに簡素な封鎖のため、侵入は実に容易いことであった。
入るなと言われれば余計に入ってみたくなるのが、人間の心理である。
しかもこの旧校舎は戦時中、医療施設としても使われていた時期があって、亡くなった者の霊が今も彷徨っていると噂され、肝試しと称し立ち入る生徒が後を絶たなかった。
そのことに学校側も決して放置したわけではない。警備会社に依頼し、侵入を阻止する目的の巡回を始めたのだ。
だがそれが、さらに生徒たちに拍車をかけることとなり、これに黙って従うはずもなく、巡回の目を掻い潜り侵入するという更なるスリルも加わって、挙って、これを試みる生徒が増えてしまったのであった。
そういった中でも、これといった事故もなく、せいぜいかすり傷程度の怪我に止まっていた為、学校側も暗黙のうちにこれを良しとしてしまっていた。
しかし、ついに事態を大きく動かす事が起きてしまったのだ。
ある日のある出来事を境にこの旧校舎は完全封鎖となり、取り壊しをせざるを得なくなってしまった。
怪我をして入院した程度のものならまだ良かったのだが、不思議なことに一人の生徒がぷっつりと姿を消し失踪するという事件が起きてしまったのだ。
数ヶ月に及ぶ捜索が行われたが、何の手掛かりも得られないまま、捜索は打ち切りとなってしまった。
壁際に残された奇妙な足跡だけが、その生徒の最後の痕跡であった。
足跡は突き当たりの壁へと向かい、まるで壁を通り抜けたかのように、つま先のない踵の部分だけが、壁際に残されていたのだ。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
【本編完結】若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
はづも
恋愛
本編完結済み。番外編がたまに投稿されたりされなかったりします。
伯爵家に生まれたカレン・アーネストは、20歳のとき、幼馴染でもある若き公爵、ジョンズワート・デュライトの妻となった。
しかし、ジョンズワートはカレンを愛しているわけではない。
当時12歳だったカレンの額に傷を負わせた彼は、その責任を取るためにカレンと結婚したのである。
……本当に好きな人を、諦めてまで。
幼い頃からずっと好きだった彼のために、早く身を引かなければ。
そう思っていたのに、初夜の一度でカレンは懐妊。
このままでは、ジョンズワートが一生自分に縛られてしまう。
夫を想うが故に、カレンは妊娠したことを隠して姿を消した。
愛する人を縛りたくないヒロインと、死亡説が流れても好きな人を諦めることができないヒーローの、両片想い・幼馴染・すれ違い・ハッピーエンドなお話です。
愛されなくても構いません
hana
恋愛
結婚三年目。
夫のセレスは私に興味を無くし、別の令嬢と日々を過ごすようになっていた。
幸せではない夫婦生活に絶望する私だが、友人の助言を機に離婚を決断して……
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる