マインズ・アイ

貴林

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始まりに

木造旧校舎

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K県立飛翔高校

創立されて八十年の歴史を持つ飛翔高校は、今年に入りようやく木造建築の旧校舎を解体することになった。
これまでは備品室として使われていたが、廊下や教室の床は腐り、いつ抜ける落ちるともわからない状態だった。おまけに割れた窓ガラスとそのガラスの破片が入室する生徒や教師たちを傷つけていた。
そのため、数年前から取り壊すべきだという話も持ち上がっていたのだが、一向に解体の見通しがついていなかったのだ。
そもそも解体にはそれ相応の費用を要するばかりでなく、大掛かりな工事になる為、隣接した新校舎に騒音や埃、有害な物質も撒き散らすのではと懸念され、行政としては、おいそれと許可を出せずにいた。
とはいえ、そのまま放置するわけにもいかず、立ち入り禁止の札を立て鎖で入り口を塞ぐことで侵入を阻止しようと試みた。が、あまりに簡素な封鎖のため、侵入は実に容易いことであった。
入るなと言われれば余計に入ってみたくなるのが、人間の心理である。
しかもこの旧校舎は戦時中、医療施設としても使われていた時期があって、亡くなった者の霊が今も彷徨っていると噂され、肝試しと称し立ち入る生徒が後を絶たなかった。
そのことに学校側も決して放置したわけではない。警備会社に依頼し、侵入を阻止する目的の巡回を始めたのだ。
だがそれが、さらに生徒たちに拍車をかけることとなり、これに黙って従うはずもなく、巡回の目を掻い潜り侵入するという更なるスリルも加わって、こぞって、これを試みる生徒が増えてしまったのであった。
そういった中でも、これといった事故もなく、せいぜいかすり傷程度の怪我に止まっていた為、学校側も暗黙のうちにこれを良しとしてしまっていた。
しかし、ついに事態を大きく動かす事が起きてしまったのだ。
ある日のある出来事を境にこの旧校舎は完全封鎖となり、取り壊しをせざるを得なくなってしまった。
怪我をして入院した程度のものならまだ良かったのだが、不思議なことに一人の生徒がぷっつりと姿を消し失踪するという事件が起きてしまったのだ。
数ヶ月に及ぶ捜索が行われたが、何の手掛かりも得られないまま、捜索は打ち切りとなってしまった。
壁際に残された奇妙な足跡だけが、その生徒の最後の痕跡であった。
足跡は突き当たりの壁へと向かい、まるで壁を通り抜けたかのように、つま先のない踵の部分だけが、壁際に残されていたのだ。
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