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二章 激闘!武闘祭(なかまに なりたそうに こちらをみている!)
第12話
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「今、試合の組合せを見たが、ベスト4には問題なく残れそうだな。・・・・・・・・・・・・最後に確認するが、本当にいいのか?」
俺は訊いた。
イレミアスは笑みをたたえて、うなずいた。達観した顔だった。
「すまないと思っている。巻き込むような形になってしまって・・・・・・。ただ、僕には友人と呼べるものは君のほかはいないんだ」
イレミアスはいった。イレミアスは孤高の勇者だった。高すぎる能力ゆえだったが、他にも理由があった。皆誰もイレミアスの不運を恐れたのだ。悲劇型勇者の不運は基本的には本人に降りかかる。だが、イレミアスの不運は超絶的であり、本人以外も巻き添えを食らうのではと恐れられていたのだ。イレミアス自身も他者を巻き込むことを恐れ、他とは距離を取った。
収容所にいる限り、無用の心配とも俺は思うが、勇者も所詮は人間である。根拠のない不安や迷信めいた恐れとは無縁でいられなかったのだ。
その点、不死身の俺は気楽なものである。イレミアスもまた、俺に対しては気楽に接することができるらしい。何といっても俺は人格者だからな。
「何いってやがる。俺だってずっとチャンスをうかがってたんだ・・・・・・」
俺はイレミアスの胸をどんと突いた。鼓舞するように。
「今日、俺たちは自由になる」
俺は宣言した。
俺とイレミアスは脱走を計画していた。
自由を夢見て、収容所から脱走を試みるのは決して珍しい話ではない。
俺が直接知る限りでも四回ある。さらに伝聞などを含めれば、鉄壁の収容所脱出に挑んだ話は幾らでもある。
わけもわからずただ勇者と認定されたがために捕縛され、何の罪も犯していないのに囚人同様の扱いを受けるのだ。収容所からの脱出を試みるのは当然だろう。
だが、その結果といえば惨憺たるもので、過去これまで収容所からの脱出に成功した例はただ一つきりしかなかった。それも、脱出するのに力を使い果たして収容所を出た瞬間、命尽きたのを成功として勘定すればの話である。
だが、俺には成算があった。脱出計画は、今日、武闘祭のさなかに実行するというものだ。もっとも、武闘祭の最中に脱走を試みるのはよくある話だった。というより、過去の例を見ると平常時に収容所からの脱出をはかったものと武闘祭の最中に脱出をしようとしたものでは、後者の方が圧倒的に多い。
武闘祭では試合に出るものは勇者の力を解放される。おまけに武器も持っている。要はそれで気を大きくした勇者が夢見た結果である。コロシアムでの脱出劇は力ずくで正面突破しようとするのがほとんどだったのだ。そこらへんは派遣協会もよくわかっているから、対勇者の戦闘技術を習得した部隊を大量に、しかもいたるところに配置している。この対勇者部隊、正式には保護部というが、保護部はまさに俺たちにとっては天敵ともいえる存在で、その恐ろしさは魔王なんかよりも数段上だった。それゆえ、力ずくの脱出など成功するわけもなかった。
じゃあ、俺の計画はどうなのかといえば、やっぱり強引に正面突破するのだな、これが。
鉄壁の魔法防御がなされている収容所と比べると、このコロシアムの魔法による防御はやはり一段落ちる。そもそも勇者の力を発揮させて戦わせるのが目的だ。それはそれで仕方のないことである。
コロシアム内にある魔法による勇者対策は二つ。一つは勇者自身に施される能力封印の魔法陣。これは試合中は解かれる。もう一つは、闘技場と客席を隔てる魔法の防御壁。これは、勇者の逃亡を防ぐのと同時に客席の安全を守る壁にもなっているわけだ。この魔法壁は魔法攻撃、物理攻撃のどちらも防ぐ優れものだ。
計画は、闘技場にいる時、つまりは勇者の力を取り戻している時、闘技場を囲む魔法の防御壁を力ずくで破る、というシンプルなものだ。
これだけだと何だかもの凄く簡単に思えるが、実際はそんなことはない。
その理由は簡単、闘技場を守る壁を破るなどどだい不可能なことだからだ。
一応、理屈上は防御壁の能力を上回る攻撃を防御壁に当てれば、壁は破れる。だが、魔法の防御壁は百人からの魔道士が一年という時間をかけて準備したものだ、破るなど到底無理な話だ。
壁の防御値は計算では1恒河沙だという話だ。つまりは10の52乗以上の力で攻撃しなければ壁は破れないのだ。この値をごく限られた時間内に叩きだすのは、幾ら勇者でも無理である。・・・・・・イレミアスを除いては。
そう、ここで我らが勇者の中の勇者ウル・イレミアスにお出ましいただくのだ。
だが、イレミアスは武闘祭には不参加で、その能力は封印された状態である。その封印をどう解くのか。チャンスは武闘祭の閉会式にあった。閉会にあたって、大会のベスト4に残ったものはその栄誉を称え表彰され、記念のメダルが授与される。そのメダルを授与するのが、他ならぬイレミアスだったのだ。メダル授与の際にベスト4に残った俺(そうなる予定)が、イレミアスに解放の魔法を使う。その後は力を取り戻したイレミアスに壁を破ってもらい、ついでに対勇者部隊、保護部も破ってもらい、脱出するというのが俺の計画だった。
まあ、イレミアス頼りの計画ではある。俺の仕事は武闘祭のベスト4に残ること、イレミアスを解呪するだけだった。イレミアスの能力封印を解く魔法は意外にも簡単なものなのだ。中級以上の神官なら扱える程度の魔法である。本来なら勇者に施される封印の魔法は特殊で、おいそれと解けたりはしない。
それが、イレミアスに限って簡単なものになっているのは、派遣協会がイレミアスに逃亡の意思なしとみなしているからだった。それはそうだろう。前にもいったとおり、イレミアスが勇者としての力を取り戻せば、途端に超弩級の不運が自身に襲いかかり、死んでしまう公算が大なのだ。いくら自由がないとはいえ、死ぬよりかはましと考えるのが普通だろう。
実は、俺もこの点は不審で、イレミアスに何故急に脱走しようという気になったのか、死をおそれないのか、と問いただしたんだが、当のイレミアスは静かに笑うだけで肝心の疑問には答えてくれなかった。ただ、脱走の意志は固いようだ。そもそも、脱走を持ちかけたのはイレミアスのほうなのだ。
俺は訊いた。
イレミアスは笑みをたたえて、うなずいた。達観した顔だった。
「すまないと思っている。巻き込むような形になってしまって・・・・・・。ただ、僕には友人と呼べるものは君のほかはいないんだ」
イレミアスはいった。イレミアスは孤高の勇者だった。高すぎる能力ゆえだったが、他にも理由があった。皆誰もイレミアスの不運を恐れたのだ。悲劇型勇者の不運は基本的には本人に降りかかる。だが、イレミアスの不運は超絶的であり、本人以外も巻き添えを食らうのではと恐れられていたのだ。イレミアス自身も他者を巻き込むことを恐れ、他とは距離を取った。
収容所にいる限り、無用の心配とも俺は思うが、勇者も所詮は人間である。根拠のない不安や迷信めいた恐れとは無縁でいられなかったのだ。
その点、不死身の俺は気楽なものである。イレミアスもまた、俺に対しては気楽に接することができるらしい。何といっても俺は人格者だからな。
「何いってやがる。俺だってずっとチャンスをうかがってたんだ・・・・・・」
俺はイレミアスの胸をどんと突いた。鼓舞するように。
「今日、俺たちは自由になる」
俺は宣言した。
俺とイレミアスは脱走を計画していた。
自由を夢見て、収容所から脱走を試みるのは決して珍しい話ではない。
俺が直接知る限りでも四回ある。さらに伝聞などを含めれば、鉄壁の収容所脱出に挑んだ話は幾らでもある。
わけもわからずただ勇者と認定されたがために捕縛され、何の罪も犯していないのに囚人同様の扱いを受けるのだ。収容所からの脱出を試みるのは当然だろう。
だが、その結果といえば惨憺たるもので、過去これまで収容所からの脱出に成功した例はただ一つきりしかなかった。それも、脱出するのに力を使い果たして収容所を出た瞬間、命尽きたのを成功として勘定すればの話である。
だが、俺には成算があった。脱出計画は、今日、武闘祭のさなかに実行するというものだ。もっとも、武闘祭の最中に脱走を試みるのはよくある話だった。というより、過去の例を見ると平常時に収容所からの脱出をはかったものと武闘祭の最中に脱出をしようとしたものでは、後者の方が圧倒的に多い。
武闘祭では試合に出るものは勇者の力を解放される。おまけに武器も持っている。要はそれで気を大きくした勇者が夢見た結果である。コロシアムでの脱出劇は力ずくで正面突破しようとするのがほとんどだったのだ。そこらへんは派遣協会もよくわかっているから、対勇者の戦闘技術を習得した部隊を大量に、しかもいたるところに配置している。この対勇者部隊、正式には保護部というが、保護部はまさに俺たちにとっては天敵ともいえる存在で、その恐ろしさは魔王なんかよりも数段上だった。それゆえ、力ずくの脱出など成功するわけもなかった。
じゃあ、俺の計画はどうなのかといえば、やっぱり強引に正面突破するのだな、これが。
鉄壁の魔法防御がなされている収容所と比べると、このコロシアムの魔法による防御はやはり一段落ちる。そもそも勇者の力を発揮させて戦わせるのが目的だ。それはそれで仕方のないことである。
コロシアム内にある魔法による勇者対策は二つ。一つは勇者自身に施される能力封印の魔法陣。これは試合中は解かれる。もう一つは、闘技場と客席を隔てる魔法の防御壁。これは、勇者の逃亡を防ぐのと同時に客席の安全を守る壁にもなっているわけだ。この魔法壁は魔法攻撃、物理攻撃のどちらも防ぐ優れものだ。
計画は、闘技場にいる時、つまりは勇者の力を取り戻している時、闘技場を囲む魔法の防御壁を力ずくで破る、というシンプルなものだ。
これだけだと何だかもの凄く簡単に思えるが、実際はそんなことはない。
その理由は簡単、闘技場を守る壁を破るなどどだい不可能なことだからだ。
一応、理屈上は防御壁の能力を上回る攻撃を防御壁に当てれば、壁は破れる。だが、魔法の防御壁は百人からの魔道士が一年という時間をかけて準備したものだ、破るなど到底無理な話だ。
壁の防御値は計算では1恒河沙だという話だ。つまりは10の52乗以上の力で攻撃しなければ壁は破れないのだ。この値をごく限られた時間内に叩きだすのは、幾ら勇者でも無理である。・・・・・・イレミアスを除いては。
そう、ここで我らが勇者の中の勇者ウル・イレミアスにお出ましいただくのだ。
だが、イレミアスは武闘祭には不参加で、その能力は封印された状態である。その封印をどう解くのか。チャンスは武闘祭の閉会式にあった。閉会にあたって、大会のベスト4に残ったものはその栄誉を称え表彰され、記念のメダルが授与される。そのメダルを授与するのが、他ならぬイレミアスだったのだ。メダル授与の際にベスト4に残った俺(そうなる予定)が、イレミアスに解放の魔法を使う。その後は力を取り戻したイレミアスに壁を破ってもらい、ついでに対勇者部隊、保護部も破ってもらい、脱出するというのが俺の計画だった。
まあ、イレミアス頼りの計画ではある。俺の仕事は武闘祭のベスト4に残ること、イレミアスを解呪するだけだった。イレミアスの能力封印を解く魔法は意外にも簡単なものなのだ。中級以上の神官なら扱える程度の魔法である。本来なら勇者に施される封印の魔法は特殊で、おいそれと解けたりはしない。
それが、イレミアスに限って簡単なものになっているのは、派遣協会がイレミアスに逃亡の意思なしとみなしているからだった。それはそうだろう。前にもいったとおり、イレミアスが勇者としての力を取り戻せば、途端に超弩級の不運が自身に襲いかかり、死んでしまう公算が大なのだ。いくら自由がないとはいえ、死ぬよりかはましと考えるのが普通だろう。
実は、俺もこの点は不審で、イレミアスに何故急に脱走しようという気になったのか、死をおそれないのか、と問いただしたんだが、当のイレミアスは静かに笑うだけで肝心の疑問には答えてくれなかった。ただ、脱走の意志は固いようだ。そもそも、脱走を持ちかけたのはイレミアスのほうなのだ。
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