19 / 28
妖精王の呟き
しおりを挟む今回、初めて被弾したフリードは魔物に囲まれて連撃に襲われていた。
両腕と片足で相手の攻撃を防ぐも、三体のミノタウロスは腕だけで三倍の数を誇る。囲まれたら躱すにも限界があり、何度も肩や腹部に無造作な暴力を受けていた。フリード自身が驚くほどに頭は冷静で魔力をどれくらい残っているのか分からず、調整を意識していた。
全力を出せばミノタウロス三体は倒せるだろうけれど、その後に尽きたらどうしようもない。スキルで強化していない生身のフリードじゃ、ミノタウロスには勝てない。
袋叩き状態を維持しても意味がないと分かっているフリードは防ぐよりも攻撃を優先した。
ミノタウロスに肩を殴られるのと同時に相手の腹で一撃を与える。攻撃は最大の防御と願いミノタウロスへ出来る限り手数を与えた。
フリードのスキル『狂戦士』は特性上、相手と戦えば戦う程に強まる。相手を弱らせて自分はどんどん強くなる。その特性は今も昔も変わらない。この二年でフリードの魔力量が上がったのか魔力はまだある。
また新たなミノタウロスが門から姿を現す時にフリードの重い一撃が目の前にいるミノタウロスへ当たった。取り囲む一角を崩す事に成功したフリードは逃げ道も確保する為に止めを刺す。
倒れたミノタウロスの首を掴み力いっぱい地面に何度も叩きつけてぐちゃぐちゃにして二体のミノタウロスから距離を取った。
周りを見る余裕が出てフリードはアカリを見る。
アカリへ向かう魔物は居なかったが雰囲気が違った。弱々しさは無く、鋭い目付きでこちらを見る瞳は漆黒に染まっている。
そして、突如。ゲルマンを覆える程の大きな花が咲いた。それと、同時にフリードの足元から緑色の葉が地面を割り急成長して守るように周りを遮断する。
混沌のエルフ――ア・カリオス・シルヴァはサンフラワーと呟く。
大きな花弁は太陽の光を吸収すると狙いを定めて灼熱の光線を解き放つ。フリードを囲む魔物や姿を現した敵を焼き尽くした。
葉の揺り籠に守られたフリードは自身の周りで轟音が鳴り響き喉が焼けた魔物が放つひしゃげた悲鳴を聞いていた。音も鳴り止みフリードを守る葉が開くと辺り一面に焼けた魔物の死体が横たわっていた。
門も足元しか残っておらず破壊されている。
「これは……」
消えた敵の原因は明白でフリードはアカリを見た。呼吸が乱れて座り込んでいる姿を見つけると駆け寄った。
「大丈夫か?」
「……はい。だい……じょうぶです」
アカリの後ろにそびえ立っていた大きな花も溶ける雪のように姿を消していく。フリードは改めて破壊の跡地を見て火力の凄さを実感していた。地面は焼かれ焦げ臭さが漂い、魔物も体の一部が炭になっていた。
当の本人は腰が抜けたのか座り込んだままで立ち上がらない。
フリードは手を差し伸べてアカリを引っ張り上げると彼女が震えていることに気がついた。
「安心しろ。魔物に生き残りがいても俺はまだ戦える」
圧倒的な火力を見せたアカリの魔力が尽きた可能性を考えるフリードにまだ黒い瞳でアカリは微笑んだ。
「安心です。ちょっとびっくりしちゃってるだけなのでもう少し休みます」
木陰にアカリを移動させてフリードは周りを見渡す。
数メートルの門はボロボロに崩れて機能を停止していた。フリードが歩いて魔物を見て回るも完璧に全ての魔物が死滅している。
そして、ダンジョン攻略者が手に入れることの出来るダンジョン報酬をフリードは見つけた。
ダンジョンを攻略した者しか開けることが出来ない不思議な報酬で中身は便利な魔道具や魔武器が入っている。有効なアイテムの場合は高額で取引されることもあって高ランクの冒険者はダンジョンに挑戦してお金を稼いでいる。
一度開けてしまえば中身を取り出し価値のある物だったら冒険者ギルドが買い取りをしていた。何故ダンジョンから報酬が必ず出るのかは謎で未だに誰も分かっていない。
その見覚えのある宝箱を持ってフリードがアカリの元へ戻ると盗賊達や避難していたエルフが様子をうかがいに近寄ってきいた。
「いやー、流石っす。うちら見てましたよ。あの魔物達を一気に倒す攻撃を! 凄まじかったっすね姉御」
魔力が回復して無事に消化を完了したであろうヴァンが笑顔で口に出す。その様子を見ていたエルフ達がざわついていた。
まだ片目だけ黒いアカリを見て勘ぐる者も居ればひそひそと話すエルフ達の異様な目をフリードは理解が出来なかった。
怪訝な顔にフリードは目を奪われて空の異変に気付けなかった。遥か頭上でドガンと爆発音が鳴り響く。
空を見上げたら
真っ黒い一筋の線を残してほとばしる炎が地面目掛けて墜落する。
フリードの二十メートル先に落ちた物体は砂埃舞う中で立ち上がった。煙でよく見えないが立ち上がった人形の何かはごほごほと咳き込んでいる。
「確かこの辺で……んあ?」
たった今、誰かが周りに居ると気付く男を見てフリードは体が勝手に動いてしまった。
この世界の摂理は弱肉強食で、敵わない相手と鉢合わせしてしまった場合は一目散に其処を離れる。稀に一歩さえ動けないまま捕食される生物が居る中で二人は違った。
二百を優に超える屍のお陰でスキル『狂戦士』は過去最高の力を発揮している。踏み込んで発生した旋風が砂埃を吹き飛ばしフリードは腰を低く全力の拳を相手に放とうとしていた。体が勝手に動いた為か冷静に相手を見ることが出来た。
敵の見た目は気性の荒そうな青年で真っ赤に燃える鱗の様な物で全身を守っていた。背には異形の翼と頭には燃える角が生えていた。
「おっ?」
襲い掛かったフリードに対して口角を上げた。
急激に膨張した片翼でフリードの拳を防ぎ後方へ吹き飛ばされる最中にフリードへ残った片翼を打込んだ。
フリードは受けた結果、熱風を巻き込み何も出来ない人達の元へ飛ばされる。
フリードと同じ様に動けた唯一のエルフ――アカリが皆を守る為に混沌のエルフに宿る妖精王の力を使った。周りに居る全ての人を葉で覆いフリードを除いて守り抜いた。
「ちくしょー油断したぜ」
片翼をボロボロにして更に腕の鱗が崩れた青年は立ち上がると笑みを浮かべる。
生命の危機にも関わらず、勇敢にも相手に挑んだ二人の勇者は死者を出さずにやり過ごした後にレオンの声が響く。
「あっぶねぇ、間に合った……よな?」
風に乗って勇者パーティのリーダーが遅れて到着した。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
【R18】童貞のまま転生し悪魔になったけど、エロ女騎士を救ったら筆下ろしを手伝ってくれる契約をしてくれた。
飼猫タマ
ファンタジー
訳あって、冒険者をしている没落騎士の娘、アナ·アナシア。
ダンジョン探索中、フロアーボスの付き人悪魔Bに捕まり、恥辱を受けていた。
そんな折、そのダンジョンのフロアーボスである、残虐で鬼畜だと巷で噂の悪魔Aが復活してしまい、アナ·アナシアは死を覚悟する。
しかし、その悪魔は違う意味で悪魔らしくなかった。
自分の前世は人間だったと言い張り、自分は童貞で、SEXさせてくれたらアナ·アナシアを殺さないと言う。
アナ·アナシアは殺さない為に、童貞チェリーボーイの悪魔Aの筆下ろしをする契約をしたのだった!
全校転移!異能で異世界を巡る!?
小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。
目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。
周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。
取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。
「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」
取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。
そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる