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妖精王の呟き

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 今回、初めて被弾したフリードは魔物に囲まれて連撃に襲われていた。

 両腕と片足で相手の攻撃を防ぐも、三体のミノタウロスは腕だけで三倍の数を誇る。囲まれたら躱すにも限界があり、何度も肩や腹部に無造作な暴力を受けていた。フリード自身が驚くほどに頭は冷静で魔力をどれくらい残っているのか分からず、調整を意識していた。

 全力を出せばミノタウロス三体は倒せるだろうけれど、その後に尽きたらどうしようもない。スキルで強化していない生身のフリードじゃ、ミノタウロスには勝てない。

 袋叩き状態を維持しても意味がないと分かっているフリードは防ぐよりも攻撃を優先した。

 ミノタウロスに肩を殴られるのと同時に相手の腹で一撃を与える。攻撃は最大の防御と願いミノタウロスへ出来る限り手数を与えた。

 フリードのスキル『狂戦士』は特性上、相手と戦えば戦う程に強まる。相手を弱らせて自分はどんどん強くなる。その特性は今も昔も変わらない。この二年でフリードの魔力量が上がったのか魔力はまだある。

 また新たなミノタウロスが門から姿を現す時にフリードの重い一撃が目の前にいるミノタウロスへ当たった。取り囲む一角を崩す事に成功したフリードは逃げ道も確保する為に止めを刺す。

 倒れたミノタウロスの首を掴み力いっぱい地面に何度も叩きつけてぐちゃぐちゃにして二体のミノタウロスから距離を取った。

 周りを見る余裕が出てフリードはアカリを見る。

 アカリへ向かう魔物は居なかったが雰囲気が違った。弱々しさは無く、鋭い目付きでこちらを見る瞳は漆黒に染まっている。

 そして、突如。ゲルマンを覆える程の大きな花が咲いた。それと、同時にフリードの足元から緑色の葉が地面を割り急成長して守るように周りを遮断する。

 混沌のエルフ――ア・カリオス・シルヴァはサンフラワーと呟く。

 大きな花弁は太陽の光を吸収すると狙いを定めて灼熱の光線を解き放つ。フリードを囲む魔物や姿を現した敵を焼き尽くした。

 葉の揺り籠に守られたフリードは自身の周りで轟音が鳴り響き喉が焼けた魔物が放つひしゃげた悲鳴を聞いていた。音も鳴り止みフリードを守る葉が開くと辺り一面に焼けた魔物の死体が横たわっていた。

 門も足元しか残っておらず破壊されている。

「これは……」

 消えた敵の原因は明白でフリードはアカリを見た。呼吸が乱れて座り込んでいる姿を見つけると駆け寄った。

「大丈夫か?」
「……はい。だい……じょうぶです」

 アカリの後ろにそびえ立っていた大きな花も溶ける雪のように姿を消していく。フリードは改めて破壊の跡地を見て火力の凄さを実感していた。地面は焼かれ焦げ臭さが漂い、魔物も体の一部が炭になっていた。

 当の本人は腰が抜けたのか座り込んだままで立ち上がらない。

 フリードは手を差し伸べてアカリを引っ張り上げると彼女が震えていることに気がついた。

「安心しろ。魔物に生き残りがいても俺はまだ戦える」

 圧倒的な火力を見せたアカリの魔力が尽きた可能性を考えるフリードにまだ黒い瞳でアカリは微笑んだ。

「安心です。ちょっとびっくりしちゃってるだけなのでもう少し休みます」

 木陰にアカリを移動させてフリードは周りを見渡す。

 数メートルの門はボロボロに崩れて機能を停止していた。フリードが歩いて魔物を見て回るも完璧に全ての魔物が死滅している。

 そして、ダンジョン攻略者が手に入れることの出来るダンジョン報酬をフリードは見つけた。

 ダンジョンを攻略した者しか開けることが出来ない不思議な報酬で中身は便利な魔道具や魔武器が入っている。有効なアイテムの場合は高額で取引されることもあって高ランクの冒険者はダンジョンに挑戦してお金を稼いでいる。

 一度開けてしまえば中身を取り出し価値のある物だったら冒険者ギルドが買い取りをしていた。何故ダンジョンから報酬が必ず出るのかは謎で未だに誰も分かっていない。

 その見覚えのある宝箱を持ってフリードがアカリの元へ戻ると盗賊達や避難していたエルフが様子をうかがいに近寄ってきいた。

「いやー、流石っす。うちら見てましたよ。あの魔物達を一気に倒す攻撃を! 凄まじかったっすね姉御」

 魔力が回復して無事に消化を完了したであろうヴァンが笑顔で口に出す。その様子を見ていたエルフ達がざわついていた。

 まだ片目だけ黒いアカリを見て勘ぐる者も居ればひそひそと話すエルフ達の異様な目をフリードは理解が出来なかった。

 怪訝な顔にフリードは目を奪われて空の異変に気付けなかった。遥か頭上でドガンと爆発音が鳴り響く。

 空を見上げたら

 真っ黒い一筋の線を残してほとばしる炎が地面目掛けて墜落する。

 フリードの二十メートル先に落ちた物体は砂埃舞う中で立ち上がった。煙でよく見えないが立ち上がった人形の何かはごほごほと咳き込んでいる。

「確かこの辺で……んあ?」

 たった今、誰かが周りに居ると気付く男を見てフリードは体が勝手に動いてしまった。

 この世界の摂理は弱肉強食で、敵わない相手と鉢合わせしてしまった場合は一目散に其処を離れる。稀に一歩さえ動けないまま捕食される生物が居る中で二人は違った。

 二百を優に超える屍のお陰でスキル『狂戦士』は過去最高の力を発揮している。踏み込んで発生した旋風が砂埃を吹き飛ばしフリードは腰を低く全力の拳を相手に放とうとしていた。体が勝手に動いた為か冷静に相手を見ることが出来た。

 敵の見た目は気性の荒そうな青年で真っ赤に燃える鱗の様な物で全身を守っていた。背には異形の翼と頭には燃える角が生えていた。

「おっ?」

 襲い掛かったフリードに対して口角を上げた。

 急激に膨張した片翼でフリードの拳を防ぎ後方へ吹き飛ばされる最中にフリードへ残った片翼を打込んだ。

 フリードは受けた結果、熱風を巻き込み何も出来ない人達の元へ飛ばされる。

 フリードと同じ様に動けた唯一のエルフ――アカリが皆を守る為に混沌のエルフに宿る妖精王の力を使った。周りに居る全ての人を葉で覆いフリードを除いて守り抜いた。

「ちくしょー油断したぜ」

 片翼をボロボロにして更に腕の鱗が崩れた青年は立ち上がると笑みを浮かべる。

 生命の危機にも関わらず、勇敢にも相手に挑んだ二人の勇者は死者を出さずにやり過ごした後にレオンの声が響く。

「あっぶねぇ、間に合った……よな?」

 風に乗って勇者パーティのリーダーが遅れて到着した。
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