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モンスターパレード開戦

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 アカリの用意してくれた荷台を押してフリードはレオンの元へ向かっていた。丁度、ゲルマンに入り皆と別れた店が見えてくると盗賊がよろよろと出てくるのを目撃する。

 剣と煙幕を使った盗賊二人組は苦しそうに歩いていた。大食いが成功したのか気になっていたフリードだが、店から歓声と溢れるばかりの観戦客が結果を物語っている。

 払えない罰金を心配する必要は無さそうで、隣のアカリも察したのか微笑んでいた。

「ここ最近は挑戦者もいなかったんです。久々で盛り上がってますね」
「あの盛り上がりは相当難しい内容なんだろうな」

 アカリから貰った食料を馬車に積む必要があるので、フリード達も盗賊二人が歩いた方向へ向かわなくてはならない。けれど、レオンの様子が気になり人だかりへ二人は向かった。

 店の中を覗くとぐったりしたレオンを中心に笑顔が溢れていた。

「よぉフリード。やってやったぜ。そっちはどうだ?」
「食料の調達は出来た。アカリのお陰で、あとは出発するだけだ」

 改めてフリードがアカリにお礼をすると、アカリも慌てながら『気にしないでください。私も助かりました、お互い様です』と言い深々とお辞儀をしていた。

「そういえば、カロンとザリーが馬車を回してくれる話になっているから、それ積んで行くか」
「だから、二人が歩いていたんだな」

 暫く待っているとフリード達の馬車がゲルマンをトコトコ歩いてくるのを見つけた。店の前に止まるとフリードは食料を詰め込み始める。

「ザリー俺達の馬車はどうした」
「お頭、カロンは先に出発したはずです」
「あいつは何処で道草くってんだ」

 盗賊達の馬車はまだ到着しない。その間に、空となった荷台をフリードはアカリへ返した。

「これで旅を続ける事ができる」
「お気をつけて、何が起きるか分かりませんからね」

 いつもの様に過ごしてたはずのアカリでさえ、盗賊に攫われてしまった。本当に何が起きるか分からない。

 突如として大砲の様な大きい音がゲルマンへ鳴り響いた。決して、大きな街では無いゲルマンで煙も見えない。砲撃の音かと思ったがフリードは何かの催し物かと考えた。

「イベントでもあるのか?」

 フリードの問にアカリも首を傾げている。

「滅多に大きな音は鳴らないはずです。なんでしょうか?」

 住人のアカリも知らない何かが起きた。ゲルマンだけで情報共有されたイベントだと考えたフリードは周りを観察するも、観客達さえ何の音か分かっていない様子だった。

「お頭ぁぁぁぁぁぁぁ」

 馬の背に乗ったカロンが叫びながらお店に向かって走っていた。繋がっていた馬車を置いて馬だけ運んで来たカロンにヴァンは苦しそうにしながら叫ぶ。

「カロン何してんだぁ馬だけ連れてこいって言ったか?」
「はぁ……はぁ……大変ですぞ。急に馬車が壊れて変な門が現れましたですぞ」

 ヴァンは何を言ってるのかカロンの報告が理解できなかった。ヴァンの隣にいるレオンは心当たりが一つある。でも、こんなところで発生するものか疑っている。

「魔物が現れたぞー!」

 ゲルマンの住人が叫んだ。魔物の出現を知らせる内容でレオンは確信する。

「ダンジョンが出現する瞬間なんて初めてだ。よーし、俺様は満腹で動けそうにないからフリードに任せた。動けるようになったら加勢してやらぁ!」

 ここ数年で出現件数の増えたダンジョンをフリードもいくつか攻略したことがある。それはギルドに依頼があり冒険者として請けていた。ダンジョンの近くに住民がいる場合は、ほとんど大きな被害を受けている。戦える者が居なければ魔物に蹂躙され崩壊するのは当然の流れだった。

「あぁ、馬を借りよう」

 カロンが乗っていた馬の手綱をフリードが奪う様に受け取った。

「あと、お頭。ゲルマンの隣に不思議な街がありましたですぞ。もしかしたらそっちにも魔物が向かってるかもしれないですぞ」

 アカリは動転しながらフリードに願う。

「私も連れてってください」

 馬にまたがっていたフリードがアカリへ手を伸ばした。その手を掴むと力強く引っ張り後ろに乗せた。

「フリード。ダンジョンが現れたばっかりなら被害を最小に抑えきれるチャンスだ」

 苦しそうな表情でレオンが腕を上げていた。立てられた親指から腕を振り行って来いと合図を送る。

「行くぞ」
「はい!」

 フリードは悲鳴響く声を頼りに走り出した。

 アカリは落ちないようにフリードを力強く抱きしめながら盗賊の言葉を思い出す。あの人が見たのはエルフの里で間違いない。普段は長老の力で外から中を見ることも出来ない。木々が遮り迷人さえ足を踏み入れること等ありえないエルフの里が見えていた。

 長老の力が消された事を示す出来事にアカリを不安が襲いかかる。

「見えた。あれはエルフも戦ってるのか」
「長老が力を使って魔物を拘束してます」

 長老の姿を見つけて安堵の息を溢したアカリをフリードは背中で感じていた。

「馬から降りるぞ」

 フリードが馬を止めて飛び降りた。アカリも続いて飛び降りフリードが体を支える。長老の拘束している魔物は数年前からフリードも戦った事のあるオークで手足を木のツルが絡まり動けない。

 分厚い毛皮に覆われた二年前は空振りするフリードの尻拭いでメアリが倒した魔物。

 丈夫な履き慣れた靴で地面を蹴りフリードは右腕に力を込めた。オークへ飛びかかり心臓目掛けて重い一撃を放ち息の根を止める。長老の拘束によりフリードの攻撃を防ぐ事も出来ないオークは呆気なく絶命した。

「無事だったかアカリ。里にも何匹か入られているがエルフの戦士達が対応している。早くアカリも逃げなさい」
「でも……」

 絶命したオークが一番近かっただけで、魔物は沢山姿を現していた。冒険者ギルドで難易度Cランクのゴブリンを率いたオークどころの話じゃない。ゴブリンもちらほら見かけるが何よりオークが目立つ。フリードの目に映るだけでも、十五体は等に超えている。

 遠くに見えるうっすらと黒い煙を纏った門からは次々と魔物が溢れていた。

 ゲルマンとエルフの里にどれほどの戦力が居て対抗できるかフリードには情報が無い。

「長老とアカリに問おう。あの魔物が襲ってきても対処出来る戦力がこの街にはあるか?」

 数匹の魔物が現れる事は過去にもあったが、この規模は未曾有の出来事で誰も経験が無かった。何より、センターワールドの近くで強力な魔物が街を襲う事は事例が無い。

「無理だ。センターワールドから冒険者を呼ばないと難しい。それに今すぐ呼んでも到着するまで耐えられるか……」

 フリードは危機的状況の今を懐かしいと感じながら長老へ伝えた。

「俺が相手をする間にゲルマンと里へ被害が出ないように壁のような物は作れるか?」

「難しい。大量の魔力が何故か消されて空になる寸前だ。大きな魔物は抑えたがゴブリン達が既に里へ入っている。エルフの戦士達で対処出来ると思うがこの大きな魔物達には耐えられない」

「そうか。俺が出来る限り時間を稼ごう。後はそうだな……援軍に期待するとしよう」

 今フリードに出来る事は目前の魔物をひたすら倒す事しか無い。

 近くのゴブリンを文字通り蹴散らしながらオークへ単身飛び込んだ。懐に入るとオークの腹部へ左拳を叩き込む。ごふっと呻いたオークはそのまま両腕を振り上げフリード目掛けて叩きつけた。

 その攻撃をフリードは後ろに下がって躱すと丁度良い位置にある頭部目掛けて回し蹴りを当てて相手のバランスを崩す。

 先程の長老が拘束している状況でも無ければ、必殺の一撃を当てる事が出来ずオークの命を奪う事が出来ていなかった。一匹のオークを相手にしていると次々フリードに魔物が迫る。

 中にはオオカミ型の魔物フェンリルも紛れ鋭い牙でフリードに噛みつこうと距離を測り威嚇していた。

 圧倒的に不利な状況でフリードは武者震いしていた。ここでフリードが倒れたらゲルマン含め街が襲われてしまう。もし、そうなればフリードの生まれ育った村のように壊滅してしまうだろう。

「掛かって来い」

 構えるフリードは魔物に呟いて動きを止めた。頭を蹴られたオークが首を振り焦点が合うとフリードに向かって毛むくじゃらの拳を無造作に撃ち放った。先程と同じ様にフリードが身を引いて躱すとフェンリルが千載一遇の好機だと言わんばかりにフリードへ噛みつく。

 身を引いて体制を崩しているフリードはフェンリルの牙を意識しつつ体を捻り左腕の甲を顔の側面に叩きつけた。

 フェンリルはフリードから視線が外れると拳がハンマーのように頭へ振り落とされ衝撃を受ける。

 なりふり構わず後ろに下がったフェンリルを追わずフリードは周りを警戒する。オークの耐久力も高ければフェンリルの素早さも対処が難しく決定打を与えられない。

 この時点で並の冒険者が持つ能力を遥かに凌駕するフリードは二年間で成長していた。一人で魔物の巣窟へ足を踏み入れて壊滅させたり、ダンジョンを攻略したりと経験が全て力になっている。魔力の操作も上手くなり、前のように魔力が切れて戦えないという経験も此処一年は無かった。

 レオンに出会う前に王都エデンで攻略したダンジョンは冒険者ギルドの判定でBランクの難易度を誇る。そのダンジョンを単身で挑んだフリードは既に強力な冒険者となっていた。

 そのフリードが本日始めてスキル『狂戦士』を使った。

 経験を得たフリードは魔力の操作に長けている。瞬間的に使いたい部位へ無意識に魔力を込める域に至っていた。限りある魔力をロス無く右足に込めて地面を蹴り、オークと距離を縮めつつ重心を前に向けながら体当たりで相手のバランスを崩し、そのまま右拳を叩き込んだ。

 それだけでオークが活動を止める。

 最小の労力で最高の成果をあげた直後にフェンリルが後ろから襲いかかる。己の肉体を使い続けたフリードは精度も優れており、フェンリルの動きに合わせて同じ方向に移動しながら膝と腕の間にフェンリルの首を挟んで固めた。

 そのままゴキィと骨が鳴る音を奏でてフェンリルの首をへし折りピクピクと痙攣するフェンリルをその場に落とす。

「あと何匹いるんだ?」

 フリードを囲む魔物は際限ない中でゆっくりと深呼吸した。
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