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大食いの大食らい
しおりを挟む牢獄国家センターワールドが近くにあるだけで治安の良いゲルマンでは冒険者や商人が足を運んでは癒やされて旅に備える。万が一にも悪さをする冒険者が現れれば通報一つで探索や調査の得意なスキルを持った腕っぷしに自身のある冒険者がたちまち捕まえる。
盗賊ヴァン達が通報されずに過ごしているのは全てフリード達との出会いが功を成した。今、この時も盗賊達が笑顔で過ごせているのは大事にしなかったアカリのお陰でもある。
フリード達に会えなければ酷い目に合っていたであろう盗賊はレオンと共に円卓を囲んでいた。
此処は『完食の挑戦ジーヌ』と呼ばれる店で中央のレオン達を囲むように見物客がちらほらと居た。
数ある冒険者を倒してきた大食いチャレンジをゲルマンの住人達も楽しんで見ていた。満腹に苦しむチャレンジャ―達を肴に酒を飲む輩が今日も獲物を待っていた。
一つのエンターテイメントにチャレンジするレオン達の前に料理長ジーヌが姿を現す。
「本日は挑戦ありがとうございます。わたくし、料理長のジーヌと申します」
「おう、今日は六人で参加するぜ」
レオンは緊張感の欠片もなくリラックスしていた。
「普段は一人での挑戦となりますので、特別コースとなります。全て完食頂ければお代は無料……もし、食べられない場合は二十万ペセタの支払いとなります」
幾度となく挑戦する冒険者の中には完食する者も当然いる。そんな中で量を調整してギリギリ食べられる料理を提供していた。
今回は六人。ジーヌの目には大柄な男が要注意人物でそれ意外は敵には見えなかった。細身や背の低い男達が大食らいには見えない。圧倒的に有利の戦いで二十万ペセタが手に入るから笑みを浮かべていた。
「一つ気になる事があるんだけどよぉ。料理を完食して無料なのは分かった。まさか酒は別料金なんてケチくさいことはしねーよな?」
レオンは挑発するようにジーヌへ尋ねる。
「いいでしょう。お酒も無料です。ただし、完食できたら……ですからね?」
酒を飲む事で腹が膨れて不利になるだろうとジーヌは心の中で呟き、厨房へ向かった。
「おい、聞いたか? 飲んで食いまくるぞ。ヴァンは覚えたが……おまえらの名前は何だっけ? 飯が来るまで暇だから自己紹介の一つや二つやれ」
盗賊のお頭であるヴァンとは馬車で軽く話をしていたが手下は顔色を伺うだけであまり割り込んでこなかった。手下目線ではお頭の話を中断させる訳にはいかない事情があれどレオンには関係無い。
「待ちな。まずは頭の俺から始めさせてもらおう」
ヴァンが誰よりも先に口を開いた。萎縮する手下達の緊張を無くすつもりだったがその想いは伝わらない。
「うち等は全員がルーフェン出身だ。元々コイツ等を集めたのは俺でパーティを組んで依頼をやっていた。恵まれた体格で魔物共をぶっ飛ばしてたが借金に首が回らなくなりこんな始末よ。もっと俺に力があればコイツ等を食わせてやれるんだがヨォ……」
突然ヴァンは強面に似合わず目頭を熱くする。
「あんな優しい嬢ちゃんに酷い仕打ちをぉぉぉぉ」
痛みに悶えるヴァンを助けてくれたアカリが聖母に見えていた。
「お頭ァ、俺達の為に……くっ。申し訳ねぇ。兄貴! ナイフ使いのネーラと申しやす。お頭の言った通り、俺たちゃパーティを組めなかったハグレ者でお頭が居なけりゃ明日も無い身。お頭を許して頂き誠にありがとうございやす」
レオンは丁度、酒を飲んでて口には出していなかったが許した記憶は一切無かった。
「それで、スキルは『射手』で狙ったところに物を当てることが出来やす。でも、大きな物は魔力が足りねぇ。魔力を込めないと使えないから矢を百発百中なんて真似も出来ねえ」
レオンはスキルが成長する事を知っている。使い方を工夫するだけでも魔物を倒す手段が増える。
「ネーラのスキルは便利そうだな。どれくらいの精度や速度が変わる感じなら魔力を込める感覚を研ぎ澄ませろ。ひたすら色んな物に魔力を込めて適当な的に当ててみな」
「アドバイス感謝です兄貴」
レオンの助言にネーラは嬉しそうに笑っていた。
次は自分の番とカロンが話し始めた。
「剣を使うカロンですぞ。スキルは『研師』で刃物の切れ味が分かりますぞ。兄貴の木刀は切れ味が全く無くて負けるとは思わなかったですぞ」
レオンは圧倒的に魔物と戦う場に置いては不利なスキルを所持しているカロンに素直な気持ちをぶつける。
「カロン。お前は鍛冶師の方が活躍できるんじゃねーか?」
「不甲斐ない事に不器用ゆえ難しいですぞ。主に武器の点検をして『そろそろ買い替え時ですぞ』とみなに教えてますぞ」
技術のない技術向けのスキルは扱いが難しく、本人の適正とスキルが必ずしも噛み合うとは限らない。レオンはスキル『研師』に関して活用方法を思いついた。
「そのスキルを使って掘り出し物を探す方がいいんじゃねーの? 意外と切れ味の良い剣が安く売ってたりしそうじゃないか。それか、ゴミを売る悪徳商人を突き出すとか使い道は多いぞ。武器の基本は消耗品だしな、手入れが苦手なら買い替えるしか無い」
「気づかれていない品を安く買って転売……良い案ですぞ! しかし、兄貴……転売する元のお金が無いですぞ……」
そこはなんとかしやがれとレオンは一蹴し気になっていた槍使いに興味を移した。
「そこの筋肉質の槍使い。お前はスキルを使う事も無かったよな?」
「ムッシャと申す。持っているスキルは『夜目』で暗いところでもよく見える。だから、日が高い時には無力」
暗い夜道で落とし物をしても見つけきれる便利なスキルにレオンも困った。過去にギルドから請けた依頼を思い出し何か利点が無いかと考える。
「そういえば、ダンジョン次第だが真っ暗な場所もあるな。松明を使えばある程度の範囲を照らす事ができるけど、そういう物が無い時は便利だな」
最近になってダンジョンが突如現れる。そのダンジョンでは何が起きるか分からない。中に入ると草原溢れる場所かもしれないし、真っ暗な洞窟かもしれない。そういったダンジョン攻略に使えるかもしれないとレオンは考えつく。
「で、最後は小柄で小さい杖を持つお前だ」
「僕はザリー。スキルは『煙幕』で相手を撹乱させます」
ザリーのスキルを聞いてレオンは顔をテーブル程に低くし手でこっちにこいと言わんばかりに振りながら周りの客に聞こえないよう伝えた。
「もし食いきれなかったらザリーの煙幕で逃げるぞ」
悪党よりも悪いレオンが盗賊達の顔を見渡してゆっくりと頷くと全員が同じ様にコクンと首を振った。
こそこそしていると店員が料理を持ってきた。
「皆様。こちらが本日の一品となります」
テーブルを覆い隠す量に一同は驚く。普段だと一人でチャレンジするところを六人で挑戦するということは量も六倍になるのは当然だ。
「エルフの里から仕入れたお野菜をふんだんに使ったチョモランマパッツェとなります。各層で味が違うので味に飽きる事も無く食べ進められます」
数センチの厚さがある生地を円形に伸ばして具材を乗せて焼いている。その一枚なら切り分けて美味しく食べて終わるであろう。けれど今回は大食いチャレンジで、一枚を食べるのさえ辛いはずだが、地層のように重なっていた。
一人で食べるのは難しい……でも、みんなで食べれば行ける!
ここに六人の想いが一つになり、各々がナイフを入れ自分のお皿に切り分けて食べ進めた。
「新鮮な野菜の食感とソースが旨いな。んで、絶妙に味が濃ゆい肉で食欲を増加させる」
レオンが感想を述べるが誰も聞かず食べ進めた。
笑顔で食べ始めるレオン含めた盗賊達……十五分後にザリーが限界に達した。さらに、五分経つとカロンが満腹になった。
人並みに食べただけじゃタワーが無くならない。残り四人で食べ進め次々と限界が訪れた。ネーラとムッシャも満腹で止まった。
「酒を持って来い」
レオンは酒が無くなると追加を頼んで食べ進める。満腹なんて酔っちまえば分からんくなるだろとヴァンに言いながら口へ放り込んでいた。
「おまえらの分も俺が頑張るぜぇ」
ヴァンのスキル『大食らい』は凄まじく、食べた先から消化して次々と口に放り込むペースが全く落ちない。
開始早々のリタイアを見て興味を無くし始めていた観客がヴァンの食べっぷりを見て湧き上がる。
「これ……あるんじゃないか?」
「ちょっと、裏のばーちゃんを呼んでくる」
知り合いに声を掛け一人、二人と観客が増えて数十人がレオン達のチャレンジを見守る始末。
「がんばれー! もうちょいで食べ終わるぞ!」
歓声を聞いてヴァンとスローペースのレオンが食べ進める。気がつけば半分を超えて残り五分もあれば完食間近で調理長の元へ店員が駆け込んだ。
「あと少しで食べ終えます」
「なぁにぃ!?」
調理長の声が厨房に鳴り響いた。
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