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スキル格差
しおりを挟むフリードとメアリの二人は冒険者で、主に魔物を倒して生計を立てている。
その二人が一緒にやる事と言ったら一つしか無かった。先程までのフリードは冒険者という生き物を完全に忘れていた。
特にフリード達が生活している王都エデンでは魔物討伐を主軸にしている。他の王都では護衛から農作業といった具合で様々な依頼があるらしいが王都エデンでは稀である。
Aランク冒険者のメアリが一緒なので普段フリードがやれない依頼もすんなりと承諾された。
依頼内容は獣の強靭な毛で守られた人形の巨人――『オーク』がゴブリンを率いている姿の目撃情報があった。
オークもゴブリンも単体だと駆け出し冒険者のFランクで事足りる魔物達だが、知能を持ったオークがゴブリンに指示をだしていると話は変わってくる。
オークは群れないと思われがちだが小狡い個体はゴブリンを使って賢く生き延びている。特に配下であるゴブリンがやられて相手が強いと判断するとオークはゴブリンを見捨てて逃げ失せる。
そんな事情もありオークを倒せなければ、さらなる配下を率いて人間に被害を与える可能性が高い。しかし、この依頼もフリードとメアリがパーティを組んでいる昔を思えば難易度はとても低かった。
「最近、私……気づいた事があるんだよね」
王都エデンから離れた目的地に到着するとフリードはゴブリンを見つけた。子供程の背丈に鋭い目つきで睨む魔物に対してフリードは臆する事もなく近づいた。
そして、右拳をゴブリンのどてっ腹に力強く叩き込む。
約二メートル近くある背丈と子供程の体格差はあまりにも大きく、ゴブリンは数メートルも後方へ吹き飛ばされ小石に肌を削られ呻いた。その呻き声を聞きつけてゴブリンが集まりだす。
「多分だけど、私って可愛いわ!」
ゴブリンと戦うフリードの隣を自然な足取りで歩きながらメアリは雑談を続ける。仕事をしているフリードと完全にサボっているメアリは魔物の目には、かよわい人間を必死に守るようにさえ見えていた。
フリードより約四十センチは背の低いメアリは隣をのんびりと歩いている。
「まぁそうだな。可愛いんじゃねーの」
フリードは適当に返答しながら棍棒を振り上げるゴブリンに前蹴りで距離を取った。手に握っていた棍棒が遥か彼方へ飛ばされ地に落ちる前に次の獲物へ一撃を放つ。
Fランク冒険者が四人でパーティを組んで討伐するゴブリンを一人で軽々とねじ伏せていた。ギルドの評価がDランクのフリードは完全に個人でFランクパーティを超えている。
「Aランク冒険者になったら一般公開されてる依頼書だけじゃなくて、個人に対しても来るのよ。それで、王都エデンの王族とか護衛する依頼も請けるんだけどー、楽だしお金も沢山貰えるし!」
フリードは話を聞きながら体を動かして考える。王都エデンから他国へ行くまでの護衛を想像すると、ちょっとやそっとの魔物が現れてもメアリの力なら大丈夫だと容易に想像がついた。なにより、魔物では無く同じ人間が襲ってきてもメアリなら安心だと答えに辿り着く。
「それで偶にお金持ちの男から声を掛けられるのよね。正式にお付き合いって奴かな。そりゃ、王族の集まりにも顔をだした事のある私目線でお嬢様方と並んでも遜色ないって自分でも思うわよ?」
フリードが思っていたよりもメアリの自己評価は高かった。
メアリが話す間に、二十体程のゴブリンを倒したがまだ数十のゴブリンが立ちふさがっている。魔物を倒すフリードのから返事が無い事に対してメアリは頬を膨らませフリードの脇腹をツンと指で突く。
「あぁ、んーと。貴族の男がなよなよして、お前が自己評価が高いって話だったか?」
「別になよなよしてないけど……んー。自己評価が高いだけかなぁ。ほら、出るとこも出てるし女性的な魅力はあるでしょ?」
迫りくるゴブリンを薙ぎ倒している間にもメアリは胸を強調したポーズをとったり、体をひねったりと試行錯誤していた。
「まぁ、いいのよ。ソロで活動して王都エデンの上層部がどんな人達なのか知れたし」
いくら圧倒的にゴブリンを制圧しているフリードも額に汗を浮かべ始めた。投擲や不器用な槍を防ぎつつ先手を取るフリードの運動量は想像以上に高かい。Fランク冒険者が請けるゴブリン討伐は数が多くても二十程だ。しかし、この群れは倍以上の大きさになっている。
巨体のフリードは前線に出て魔物と戦う事に長けている。自身の持つスキルも魔力がある限りソレに向いていた。
フリードの持つスキル『狂戦士』は魔物から力を吸収する。
次々と襲いかかってくるゴブリンを倒せば倒す程に力も速さも肉体の強度でさえ上昇していく。戦えば戦う程に強くなるスキルは長引けば長引く程にゴブリン達が不利となっていった。
戦況を見るにゴブリン側が圧倒的に不利にしか見えない。でも、状況を見ていたオークの判断は違った。一切、戦闘に参加しない少女を庇う形で汗だくになりながら男が奮闘している様にしか見えない。
五十数体のゴブリンをフリードが薙ぎ倒した頃にオークは姿を現した。
今回の依頼で重要な魔物――オーク。
剣でさえ安物ならオークに傷をつけることも出来ない。強靭な毛で覆われた肉体はフリードを超える背丈に腕周りは二倍以上も差があった。
この個体はオークの中でも巨体で客観的に見るとフリード一人では敵わない。パーティを組んで複数人のスキルを使わなければ勝てないと素人なら判断するであろう。けれど、フリードのスキルは多くのゴブリンを倒し目の前のオークに対しても引けを取らない。
姿を見せたオークが雄叫びを上げる。その衝撃は腹の奥まで響いたがフリードは怖じける事も無く拳を構えた。
フリードがメアリと違いDランクの理由――それは、スキルの扱いづらさが第一に挙がる。常に魔力を消費して自身の肉体を強化するフリードは既に魔力が限界間近だった。
「アレが今回のターゲットだねぇ。んじゃ、そのまま倒しちゃえー」
仕事量ゼロで愚痴しか言ってないメアリがオークに指さした。
今のフリードは目前のオークと戦っても負けない自信はあるが、時間を掛けたら魔力切れで逆転されてしまうと経験で悟る。
フリードはオークの懐へ飛び込んだ。肉体強化は十二分で力が湧いてくるフリードの気迫に押される事も無く、オークは大きな腕をフリードめがけて振り回す。
迫りくる大腕にフリードはオークの手首を狙って拳を下から叩き込み軌道をずらす。
勢い良く空振りする腕の下に潜り込みオークの脇腹へフリードは渾身の一撃を打ち放す。蓄えた力を全て開放する勢いの拳が――空を殴り飛ばした。
ここぞという場所でフリードは足元を滑らせてしまった。靴底が擦り切れて大きな穴が空き、足裏で落ち葉の感触を実感する。普段請ける依頼を超えている非日常にボロボロの靴は耐えられなかった。
溜め込んだ力の解放により魔力も底をついた。なんのスキルを持たないただの大きな人間になったフリードにオークが両腕を振り上げ脳天目掛けて叩き込む。
目の前で振り下ろされる拳を瞬き一つせずにフリードは見ていた。
「あー、そうそう。それでね、王都エデンを出ようと思うんだ」
普段と変わらない様子でメアリがフリードに伝えた。
永遠にオークの腕がフリードに落ちる事は無く。メアリのスキル『影法師』でオークは身動きが取れない。
メアリの影がオークに伸びて両腕と首をがっちりと固定している。魔力を込めた実態のある影をメアリは変化させた、オークの首からはるか上に影が伸びると巨大な刃が姿を現しオークの首目掛けて落とされる。
メアリの作り出した断頭台の一撃でオークは絶命した。
「その前にフリードの装備を買おっかぁ」
メアリはオークの返り血を浴びた汚いフリードの手を引いて王都エデンへと帰った。
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