上 下
2 / 28

スキル格差

しおりを挟む

 フリードとメアリの二人は冒険者で、主に魔物を倒して生計を立てている。

 その二人が一緒にやる事と言ったら一つしか無かった。先程までのフリードは冒険者という生き物を完全に忘れていた。

 特にフリード達が生活している王都エデンでは魔物討伐を主軸にしている。他の王都では護衛から農作業といった具合で様々な依頼があるらしいが王都エデンでは稀である。

 Aランク冒険者のメアリが一緒なので普段フリードがやれない依頼もすんなりと承諾された。

 依頼内容は獣の強靭な毛で守られた人形の巨人――『オーク』がゴブリンを率いている姿の目撃情報があった。

 オークもゴブリンも単体だと駆け出し冒険者のFランクで事足りる魔物達だが、知能を持ったオークがゴブリンに指示をだしていると話は変わってくる。

 オークは群れないと思われがちだが小狡い個体はゴブリンを使って賢く生き延びている。特に配下であるゴブリンがやられて相手が強いと判断するとオークはゴブリンを見捨てて逃げ失せる。

 そんな事情もありオークを倒せなければ、さらなる配下を率いて人間に被害を与える可能性が高い。しかし、この依頼もフリードとメアリがパーティを組んでいる昔を思えば難易度はとても低かった。

「最近、私……気づいた事があるんだよね」

 王都エデンから離れた目的地に到着するとフリードはゴブリンを見つけた。子供程の背丈に鋭い目つきで睨む魔物に対してフリードは臆する事もなく近づいた。

 そして、右拳をゴブリンのどてっ腹に力強く叩き込む。

 約二メートル近くある背丈と子供程の体格差はあまりにも大きく、ゴブリンは数メートルも後方へ吹き飛ばされ小石に肌を削られ呻いた。その呻き声を聞きつけてゴブリンが集まりだす。

「多分だけど、私って可愛いわ!」

 ゴブリンと戦うフリードの隣を自然な足取りで歩きながらメアリは雑談を続ける。仕事をしているフリードと完全にサボっているメアリは魔物の目には、かよわい人間を必死に守るようにさえ見えていた。

 フリードより約四十センチは背の低いメアリは隣をのんびりと歩いている。

「まぁそうだな。可愛いんじゃねーの」

 フリードは適当に返答しながら棍棒を振り上げるゴブリンに前蹴りで距離を取った。手に握っていた棍棒が遥か彼方へ飛ばされ地に落ちる前に次の獲物へ一撃を放つ。

 Fランク冒険者が四人でパーティを組んで討伐するゴブリンを一人で軽々とねじ伏せていた。ギルドの評価がDランクのフリードは完全に個人でFランクパーティを超えている。

「Aランク冒険者になったら一般公開されてる依頼書だけじゃなくて、個人に対しても来るのよ。それで、王都エデンの王族とか護衛する依頼も請けるんだけどー、楽だしお金も沢山貰えるし!」

 フリードは話を聞きながら体を動かして考える。王都エデンから他国へ行くまでの護衛を想像すると、ちょっとやそっとの魔物が現れてもメアリの力なら大丈夫だと容易に想像がついた。なにより、魔物では無く同じ人間が襲ってきてもメアリなら安心だと答えに辿り着く。

「それで偶にお金持ちの男から声を掛けられるのよね。正式にお付き合いって奴かな。そりゃ、王族の集まりにも顔をだした事のある私目線でお嬢様方と並んでも遜色ないって自分でも思うわよ?」

 フリードが思っていたよりもメアリの自己評価は高かった。

 メアリが話す間に、二十体程のゴブリンを倒したがまだ数十のゴブリンが立ちふさがっている。魔物を倒すフリードのから返事が無い事に対してメアリは頬を膨らませフリードの脇腹をツンと指で突く。

「あぁ、んーと。貴族の男がなよなよして、お前が自己評価が高いって話だったか?」
「別になよなよしてないけど……んー。自己評価が高いだけかなぁ。ほら、出るとこも出てるし女性的な魅力はあるでしょ?」

 迫りくるゴブリンを薙ぎ倒している間にもメアリは胸を強調したポーズをとったり、体をひねったりと試行錯誤していた。

「まぁ、いいのよ。ソロで活動して王都エデンの上層部がどんな人達なのか知れたし」

 いくら圧倒的にゴブリンを制圧しているフリードも額に汗を浮かべ始めた。投擲や不器用な槍を防ぎつつ先手を取るフリードの運動量は想像以上に高かい。Fランク冒険者が請けるゴブリン討伐は数が多くても二十程だ。しかし、この群れは倍以上の大きさになっている。

 巨体のフリードは前線に出て魔物と戦う事に長けている。自身の持つスキルも魔力がある限りソレに向いていた。

 フリードの持つスキル『狂戦士』は魔物から力を吸収する。

 次々と襲いかかってくるゴブリンを倒せば倒す程に力も速さも肉体の強度でさえ上昇していく。戦えば戦う程に強くなるスキルは長引けば長引く程にゴブリン達が不利となっていった。

 戦況を見るにゴブリン側が圧倒的に不利にしか見えない。でも、状況を見ていたオークの判断は違った。一切、戦闘に参加しない少女を庇う形で汗だくになりながら男が奮闘している様にしか見えない。

 五十数体のゴブリンをフリードが薙ぎ倒した頃にオークは姿を現した。

 今回の依頼で重要な魔物――オーク。

 剣でさえ安物ならオークに傷をつけることも出来ない。強靭な毛で覆われた肉体はフリードを超える背丈に腕周りは二倍以上も差があった。

 この個体はオークの中でも巨体で客観的に見るとフリード一人では敵わない。パーティを組んで複数人のスキルを使わなければ勝てないと素人なら判断するであろう。けれど、フリードのスキルは多くのゴブリンを倒し目の前のオークに対しても引けを取らない。

 姿を見せたオークが雄叫びを上げる。その衝撃は腹の奥まで響いたがフリードは怖じける事も無く拳を構えた。

 フリードがメアリと違いDランクの理由――それは、スキルの扱いづらさが第一に挙がる。常に魔力を消費して自身の肉体を強化するフリードは既に魔力が限界間近だった。

「アレが今回のターゲットだねぇ。んじゃ、そのまま倒しちゃえー」

 仕事量ゼロで愚痴しか言ってないメアリがオークに指さした。

 今のフリードは目前のオークと戦っても負けない自信はあるが、時間を掛けたら魔力切れで逆転されてしまうと経験で悟る。

 フリードはオークの懐へ飛び込んだ。肉体強化は十二分で力が湧いてくるフリードの気迫に押される事も無く、オークは大きな腕をフリードめがけて振り回す。

 迫りくる大腕にフリードはオークの手首を狙って拳を下から叩き込み軌道をずらす。

 勢い良く空振りする腕の下に潜り込みオークの脇腹へフリードは渾身の一撃を打ち放す。蓄えた力を全て開放する勢いの拳が――空を殴り飛ばした。

 ここぞという場所でフリードは足元を滑らせてしまった。靴底が擦り切れて大きな穴が空き、足裏で落ち葉の感触を実感する。普段請ける依頼を超えている非日常にボロボロの靴は耐えられなかった。

 溜め込んだ力の解放により魔力も底をついた。なんのスキルを持たないただの大きな人間になったフリードにオークが両腕を振り上げ脳天目掛けて叩き込む。

 目の前で振り下ろされる拳を瞬き一つせずにフリードは見ていた。

「あー、そうそう。それでね、王都エデンを出ようと思うんだ」

 普段と変わらない様子でメアリがフリードに伝えた。

 永遠にオークの腕がフリードに落ちる事は無く。メアリのスキル『影法師』でオークは身動きが取れない。

 メアリの影がオークに伸びて両腕と首をがっちりと固定している。魔力を込めた実態のある影をメアリは変化させた、オークの首からはるか上に影が伸びると巨大な刃が姿を現しオークの首目掛けて落とされる。

 メアリの作り出した断頭台の一撃でオークは絶命した。

「その前にフリードの装備を買おっかぁ」

 メアリはオークの返り血を浴びた汚いフリードの手を引いて王都エデンへと帰った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

【R18】童貞のまま転生し悪魔になったけど、エロ女騎士を救ったら筆下ろしを手伝ってくれる契約をしてくれた。

飼猫タマ
ファンタジー
訳あって、冒険者をしている没落騎士の娘、アナ·アナシア。 ダンジョン探索中、フロアーボスの付き人悪魔Bに捕まり、恥辱を受けていた。 そんな折、そのダンジョンのフロアーボスである、残虐で鬼畜だと巷で噂の悪魔Aが復活してしまい、アナ·アナシアは死を覚悟する。 しかし、その悪魔は違う意味で悪魔らしくなかった。 自分の前世は人間だったと言い張り、自分は童貞で、SEXさせてくれたらアナ·アナシアを殺さないと言う。 アナ·アナシアは殺さない為に、童貞チェリーボーイの悪魔Aの筆下ろしをする契約をしたのだった!

全校転移!異能で異世界を巡る!?

小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。 目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。 周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。 取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。 「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」 取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。 そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。

処理中です...