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第5話 迷子
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ある日、あたしは柳都に怒られてしまったの。
つい品物であるお茶碗をけっとばして割ってしまったの。
「お店に入ってきたらだめって言ったでしょう!!」
転がったお茶碗は真っ二つになっちゃった。
しょんぼり。うなだれたってどうにもならない。
割れた破片をばたばた片付けている柳都を見ながらため息をついた。
ごめんなさい。柳都。あたし、やっぱり単なる厄介ものだわ。
ただでさえお仕事で忙しい彼に手間ばかりかけてる。
あたし、人間だったら良かったのに。
人間なら両足で立ってお手伝いできるし、言葉を話せる。
でも、あたしは猫だから。
言葉が伝わらないし、気持ちも伝えられない。
柳都の本当の気持ちを知りたいのに、分からない。
あたし、本当は柳都とずっと一緒にいたいけど。このままだと邪魔なだけね。
あたしはお店から外に出て、そのまま真っすぐ道路を歩いてみた。みじめな気分から抜け出すために、気晴らしのお散歩するの。そんなあたしの傍を自転車がチリンと音を立てて走ってゆく。
どれだけ歩いたのだろうか。
こんな距離、久々に歩いた気がする。
すると、ごろごろ……と変な音が聞こえてきた。
あたしのお腹の音じゃないわね。
空を見上げると、鼻の上にぽたりと水滴が落ちてきた。
うそ。今日のお天気は雨だなんて聞いていないわ!
途端、桶をひっくり返したような雨が降ってきたの。
あわてて近くの建物に雨宿りしようと思ったけど、軒がない。
結構歩いて来たから、今どこを歩いているかも分からない。
雨で匂いが消えて、お家にも帰れない。
ああ、どうしよう……!
あたし迷子になっちゃった!
あちこち歩き回って、やっと屋根がある場所を見つけ、あわてて入り込んだの。
立て看板みたいなのがあるけど、何が書いてあるのか分からない。
いすのようなものが置いてあるから、その下に潜り込み、ぶるると身震いして水気を飛ばした。
泥だらけ。
時々大きな車が止まっては水しぶきを上げて走り去ってゆく。あれはバスというものかしら。
お空は真っ黒。雨はどんどんひどくなってゆく。
これからどうしよう……。
ぼんやりしていたら、聞きたくてたまらなかった声が耳に飛び込んできたの。
「ディアナ! 心配したではないですか……!」
柳都は傘を放り投げ、ベンチの下で小さくなっていたあたしを抱き上げてくれた。いきおいすぎて額が輝く眼鏡の縁とぶつかって痛かったけど。
「みゃうっ!!」
柳都、ごめんなさい。
あたしがいたら迷惑ばかりかけちゃうだけだよ。
顔をもっと見たいのに、ぼやけて見えない。
「あなたは私の大切な猫です。大事なパートナーです。勝手にいなくならないで下さい!」
何て言われたのかよく分からないけど、お腹の底からぞくっときた。
彼は泥のついた顔で何も言わず、あたしを強く抱き締めてくれたの。
冷たい雨を、妙に温かく感じたわ。
つい品物であるお茶碗をけっとばして割ってしまったの。
「お店に入ってきたらだめって言ったでしょう!!」
転がったお茶碗は真っ二つになっちゃった。
しょんぼり。うなだれたってどうにもならない。
割れた破片をばたばた片付けている柳都を見ながらため息をついた。
ごめんなさい。柳都。あたし、やっぱり単なる厄介ものだわ。
ただでさえお仕事で忙しい彼に手間ばかりかけてる。
あたし、人間だったら良かったのに。
人間なら両足で立ってお手伝いできるし、言葉を話せる。
でも、あたしは猫だから。
言葉が伝わらないし、気持ちも伝えられない。
柳都の本当の気持ちを知りたいのに、分からない。
あたし、本当は柳都とずっと一緒にいたいけど。このままだと邪魔なだけね。
あたしはお店から外に出て、そのまま真っすぐ道路を歩いてみた。みじめな気分から抜け出すために、気晴らしのお散歩するの。そんなあたしの傍を自転車がチリンと音を立てて走ってゆく。
どれだけ歩いたのだろうか。
こんな距離、久々に歩いた気がする。
すると、ごろごろ……と変な音が聞こえてきた。
あたしのお腹の音じゃないわね。
空を見上げると、鼻の上にぽたりと水滴が落ちてきた。
うそ。今日のお天気は雨だなんて聞いていないわ!
途端、桶をひっくり返したような雨が降ってきたの。
あわてて近くの建物に雨宿りしようと思ったけど、軒がない。
結構歩いて来たから、今どこを歩いているかも分からない。
雨で匂いが消えて、お家にも帰れない。
ああ、どうしよう……!
あたし迷子になっちゃった!
あちこち歩き回って、やっと屋根がある場所を見つけ、あわてて入り込んだの。
立て看板みたいなのがあるけど、何が書いてあるのか分からない。
いすのようなものが置いてあるから、その下に潜り込み、ぶるると身震いして水気を飛ばした。
泥だらけ。
時々大きな車が止まっては水しぶきを上げて走り去ってゆく。あれはバスというものかしら。
お空は真っ黒。雨はどんどんひどくなってゆく。
これからどうしよう……。
ぼんやりしていたら、聞きたくてたまらなかった声が耳に飛び込んできたの。
「ディアナ! 心配したではないですか……!」
柳都は傘を放り投げ、ベンチの下で小さくなっていたあたしを抱き上げてくれた。いきおいすぎて額が輝く眼鏡の縁とぶつかって痛かったけど。
「みゃうっ!!」
柳都、ごめんなさい。
あたしがいたら迷惑ばかりかけちゃうだけだよ。
顔をもっと見たいのに、ぼやけて見えない。
「あなたは私の大切な猫です。大事なパートナーです。勝手にいなくならないで下さい!」
何て言われたのかよく分からないけど、お腹の底からぞくっときた。
彼は泥のついた顔で何も言わず、あたしを強く抱き締めてくれたの。
冷たい雨を、妙に温かく感じたわ。
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