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第五章 革命の時
第四十六話 飛んできた矢
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五人の兵が立っているのは、今いる部屋の奥の方だ。自分達が立っているのはまだ入り口付近で、あまりにも距離が離れすぎている。不審に思い、彼らが立っているところへと近付いてみた。
「この部屋に来て今まで生きて出て来られた者はいない。覚悟するんだな」
五人の兵のうちの一人がそう言うと、かすかだが、どこからかカタンと音がした。すると、ヒュッと風を薙ぐ音が聞こえてくる。
「危ない!」
アリオンが鞘から剣を走らせると、手応えがあった。周囲に乾いた音が鳴り響く。すると、足元に真っ二つになった矢が一矢落ちていた。雷のような衝撃が四人の身体の中を駆け巡った。
「敵は五人だけではないの!?」
「どうやら上にもいそうだな」
嫌な予感がして、四人とも天井付近を見上げると、自分達に向けて、何矢もの矢が雨のように降りかかってきているのが目に映った。
「何よこれ! 私達が的にされてるわ!!」
「危ない!!」
アーサーは鞘をはらった短槍を振り回し、レイアは鞘から抜いた剣を回転させ、自分達が刺さらぬよう、矢を切り払った。
すると、淡い青緑の光が目に飛び込んで来た。それは半円状に広がり、レイア達四人を包んだ。その青緑の光にあたると、串刺しにしようとした矢は次々に粉砕されてゆく。レイアが振り向くと、剣を構えているアリオンの瞳がパライバ・ブルーに輝いているのが見えた。
「怪しい術を使う奴がいるようだが、果たして、どこまでもてるかな?」
前方からどこかゲームを楽しんでいるような声が聞こえるが、レイア達は一切耳に入らなかった。アリオンが守ってくれているといっても、このままだと彼の“力”が枯渇してしまう。いち早く射者を見付けて倒さねば、誰かが串刺しにされてしまうのも時間の問題だ。セレナは部屋の天井全体をじっと眺めていたが、ある時、目の色を変えた。
(見付けた……!! )
「私、ちょっとやりたいことがあるんだけど、いいかしら?」
「セレナ?」
「アリオンに“力”を多用させないようにしなきゃ、彼の身がもたないからね」
セレナは背中に括り付けていた洋弓のひもを素早く解き、それを左手に持った。そして、腰に下げている黒いクイーバーから矢を三矢取り出す。いつでも弓をひけるよう、彼女の左手には革製のアームガード、右指にはタブがすでに装着されている。彼女は矢を弓につがえると、さっと弦を引き、天井の廻縁へとめがけてヒュッと放った。彼女の手を離れた矢は三矢とも同時に飛び出した。
「ぐへっ!」
「うっ!!」
「ぎゃあっ!!」
天井の辺りから声が聞こえ、転がり落ちる音が響いてきた。ドスンドスンドスンと三方に音がしたと思うと、部屋の中に三人の黒尽くめの男達が伸びているのが目に入った。三人とも正確に肩を貫かれ、地面に這いつくばっている。きっと落ち方が悪かったのだろう。首が変な方向に曲がっていた。
「おおっ……!!」
「セレナやるぅ!! 弓術の腕上げたじゃん!!」
「良かったわ。命中したようね。残りも行くわよ!!」
空色の瞳はらんらんと輝いている。その様はまるで月の女神、アルテミスのようだ。彼女は続けて矢をつがえ、素早く四回程弦を引き、あっという間に射者を全て射抜いてしまった。どうやらこの間は天井近くに射者を忍ばせ、侵入者に矢の雨を降らせることで今まで討ち取って来たのだろう。薄暗くて分かりにくいが、良く見ると天井の廻縁あたりに全部で十二箇所、小さな窓のようなものがあった。
「ひいぃ!!」
「ぐぇっ!!」
「うおっ!!」
射抜かれた射者達は様々な悲鳴をあげ、部屋内だったり外だったりへと転がり落ちていった。矢が飛んでくる気配がなくなったところで、アリオンが頭上に右手を伸ばし、左から右へと弧を描くような仕草をした。淡い青緑の光が天井付近まで飛んでいった途端、廻縁にある小さな窓の全てが閉まった。
「よし。これでしばらく外からの矢を気にしなくて良い」
四人は大きくため息をついた。
セレナは急いで背に洋弓を紐で括り付けている。
「外野を締め出したところで、仕切り直すか。セレナ、お手柄だ。助かったよ」
アーサーが空色の瞳の少女の右肩にぽんと手をおいて労うと、彼女は頬を薄っすらと赤く染めた。
「俺も、負けてられないな」
レイアとアリオンは剣を、セレナは短剣を、アーサーは短槍を構えた。ちっと舌打ちをする音が聞こえてくる。
「……我々はお前達を少し甘く見ていたようだ。これから先は容赦せぬぞ」
「どこからでもかかってこい!!」
五人対四人は睨み合った。
⚔ ⚔ ⚔
五人の兵はサーコートと言った衣服から足の先まで真っ黒だが、全員男だ。黒い布の間から覗く目だけがぎらぎらと輝いている。
ひょろひょろして身長が高い者。
逆に成人男性にしてはやや小柄な者。
横幅の広い大柄な者。
頭部を剃りあげた者。
中肉中背の者。
外見的特徴も様々だ。
そんな彼らがあの手この手でレイア達を攻め立てていた。
「うおおおおお!!」
「はああああああっ!!」
激しい金属音と共に、剣同士が衝突し合う。何度も交差しては、火花が周囲に散った。
レイアは中肉中背の男の相手をしていた。森の中で襲われた時の相手と同じ男のようだ。あの時は薄暗くて顔までは覚えていなかったが、声と手応えと癖で瞬時に分かった。自分の背後の少し離れた所で、アリオンが横幅の広い男の相手をしていた。見たところ重量に物を言わせ、なりふり構わず剣を奮っている感じだ。
レイアは急に背中に気配を感じて、ちらと後方へと視線をやると、一つに結われた明るい茶色の髪が見えた。こんな時にも関わらず、背中に感じる筋肉の存在感と熱に、心地良さを感じてしまう。それ以上の思いは腹の奥へと押さえ込み、ぐっと堪えた。
「アリオン、大丈夫か?」
「ああ、僕は大丈夫だ。君も無理しないようにな」
ヘーゼル色と金茶色の瞳同士で背中合わせのまま視線を交わし合うと、二人は再び戦闘に戻った。
一方、セレナは小柄な男と、アーサーはひょろりとした男と対峙していた。セレナの方は短剣同士、アーサーの方は短槍同士だ。黒尽くめの相手は得物で己の相手を見定め、襲いかかってきたようだ。
小柄な者同士は片方が攻めればもう片方は受け、互いに弾きあったりと互いに飛び回っていた。その度に火花が散る音が響き渡っている。普段戦闘の表に立つことがないセレナも負けてはいなかった。アーサーは目にもとまらぬ速さで突きこんで来た相手の槍をはじき、その反動を活かして穂先を繰り出し続けた。対する相手は身体を捩って攻撃を避け続けた。
しばらく三者三様の戦いが続いていたその時、鞭に打たれたような声が聞こえた。
「セレナ!! 避けろ!!」
「……え……!?」
小柄な男と対峙していたセレナは一瞬反応が遅れた。彼女に向かって迫りくる小さな刃は、止まることを知らない。その時、突然誰かによって身体を乱暴に押しのけられて彼女の身体はよろめいた。
「きゃっ……!」
そしてそのまま地面に倒れ込むと、自分の身体の上から重みを感じた。驚きのあまり目をそっと開けると、日に焼けた褐色の顔が苦悶に歪んでいるのが視界に飛び込んで来た。よく見ると、彼の左腕に小さな鋼鉄の矢が深々と突き刺さっている。
「アーサー!!」
セレナの悲鳴が室内に響き渡った。
「この部屋に来て今まで生きて出て来られた者はいない。覚悟するんだな」
五人の兵のうちの一人がそう言うと、かすかだが、どこからかカタンと音がした。すると、ヒュッと風を薙ぐ音が聞こえてくる。
「危ない!」
アリオンが鞘から剣を走らせると、手応えがあった。周囲に乾いた音が鳴り響く。すると、足元に真っ二つになった矢が一矢落ちていた。雷のような衝撃が四人の身体の中を駆け巡った。
「敵は五人だけではないの!?」
「どうやら上にもいそうだな」
嫌な予感がして、四人とも天井付近を見上げると、自分達に向けて、何矢もの矢が雨のように降りかかってきているのが目に映った。
「何よこれ! 私達が的にされてるわ!!」
「危ない!!」
アーサーは鞘をはらった短槍を振り回し、レイアは鞘から抜いた剣を回転させ、自分達が刺さらぬよう、矢を切り払った。
すると、淡い青緑の光が目に飛び込んで来た。それは半円状に広がり、レイア達四人を包んだ。その青緑の光にあたると、串刺しにしようとした矢は次々に粉砕されてゆく。レイアが振り向くと、剣を構えているアリオンの瞳がパライバ・ブルーに輝いているのが見えた。
「怪しい術を使う奴がいるようだが、果たして、どこまでもてるかな?」
前方からどこかゲームを楽しんでいるような声が聞こえるが、レイア達は一切耳に入らなかった。アリオンが守ってくれているといっても、このままだと彼の“力”が枯渇してしまう。いち早く射者を見付けて倒さねば、誰かが串刺しにされてしまうのも時間の問題だ。セレナは部屋の天井全体をじっと眺めていたが、ある時、目の色を変えた。
(見付けた……!! )
「私、ちょっとやりたいことがあるんだけど、いいかしら?」
「セレナ?」
「アリオンに“力”を多用させないようにしなきゃ、彼の身がもたないからね」
セレナは背中に括り付けていた洋弓のひもを素早く解き、それを左手に持った。そして、腰に下げている黒いクイーバーから矢を三矢取り出す。いつでも弓をひけるよう、彼女の左手には革製のアームガード、右指にはタブがすでに装着されている。彼女は矢を弓につがえると、さっと弦を引き、天井の廻縁へとめがけてヒュッと放った。彼女の手を離れた矢は三矢とも同時に飛び出した。
「ぐへっ!」
「うっ!!」
「ぎゃあっ!!」
天井の辺りから声が聞こえ、転がり落ちる音が響いてきた。ドスンドスンドスンと三方に音がしたと思うと、部屋の中に三人の黒尽くめの男達が伸びているのが目に入った。三人とも正確に肩を貫かれ、地面に這いつくばっている。きっと落ち方が悪かったのだろう。首が変な方向に曲がっていた。
「おおっ……!!」
「セレナやるぅ!! 弓術の腕上げたじゃん!!」
「良かったわ。命中したようね。残りも行くわよ!!」
空色の瞳はらんらんと輝いている。その様はまるで月の女神、アルテミスのようだ。彼女は続けて矢をつがえ、素早く四回程弦を引き、あっという間に射者を全て射抜いてしまった。どうやらこの間は天井近くに射者を忍ばせ、侵入者に矢の雨を降らせることで今まで討ち取って来たのだろう。薄暗くて分かりにくいが、良く見ると天井の廻縁あたりに全部で十二箇所、小さな窓のようなものがあった。
「ひいぃ!!」
「ぐぇっ!!」
「うおっ!!」
射抜かれた射者達は様々な悲鳴をあげ、部屋内だったり外だったりへと転がり落ちていった。矢が飛んでくる気配がなくなったところで、アリオンが頭上に右手を伸ばし、左から右へと弧を描くような仕草をした。淡い青緑の光が天井付近まで飛んでいった途端、廻縁にある小さな窓の全てが閉まった。
「よし。これでしばらく外からの矢を気にしなくて良い」
四人は大きくため息をついた。
セレナは急いで背に洋弓を紐で括り付けている。
「外野を締め出したところで、仕切り直すか。セレナ、お手柄だ。助かったよ」
アーサーが空色の瞳の少女の右肩にぽんと手をおいて労うと、彼女は頬を薄っすらと赤く染めた。
「俺も、負けてられないな」
レイアとアリオンは剣を、セレナは短剣を、アーサーは短槍を構えた。ちっと舌打ちをする音が聞こえてくる。
「……我々はお前達を少し甘く見ていたようだ。これから先は容赦せぬぞ」
「どこからでもかかってこい!!」
五人対四人は睨み合った。
⚔ ⚔ ⚔
五人の兵はサーコートと言った衣服から足の先まで真っ黒だが、全員男だ。黒い布の間から覗く目だけがぎらぎらと輝いている。
ひょろひょろして身長が高い者。
逆に成人男性にしてはやや小柄な者。
横幅の広い大柄な者。
頭部を剃りあげた者。
中肉中背の者。
外見的特徴も様々だ。
そんな彼らがあの手この手でレイア達を攻め立てていた。
「うおおおおお!!」
「はああああああっ!!」
激しい金属音と共に、剣同士が衝突し合う。何度も交差しては、火花が周囲に散った。
レイアは中肉中背の男の相手をしていた。森の中で襲われた時の相手と同じ男のようだ。あの時は薄暗くて顔までは覚えていなかったが、声と手応えと癖で瞬時に分かった。自分の背後の少し離れた所で、アリオンが横幅の広い男の相手をしていた。見たところ重量に物を言わせ、なりふり構わず剣を奮っている感じだ。
レイアは急に背中に気配を感じて、ちらと後方へと視線をやると、一つに結われた明るい茶色の髪が見えた。こんな時にも関わらず、背中に感じる筋肉の存在感と熱に、心地良さを感じてしまう。それ以上の思いは腹の奥へと押さえ込み、ぐっと堪えた。
「アリオン、大丈夫か?」
「ああ、僕は大丈夫だ。君も無理しないようにな」
ヘーゼル色と金茶色の瞳同士で背中合わせのまま視線を交わし合うと、二人は再び戦闘に戻った。
一方、セレナは小柄な男と、アーサーはひょろりとした男と対峙していた。セレナの方は短剣同士、アーサーの方は短槍同士だ。黒尽くめの相手は得物で己の相手を見定め、襲いかかってきたようだ。
小柄な者同士は片方が攻めればもう片方は受け、互いに弾きあったりと互いに飛び回っていた。その度に火花が散る音が響き渡っている。普段戦闘の表に立つことがないセレナも負けてはいなかった。アーサーは目にもとまらぬ速さで突きこんで来た相手の槍をはじき、その反動を活かして穂先を繰り出し続けた。対する相手は身体を捩って攻撃を避け続けた。
しばらく三者三様の戦いが続いていたその時、鞭に打たれたような声が聞こえた。
「セレナ!! 避けろ!!」
「……え……!?」
小柄な男と対峙していたセレナは一瞬反応が遅れた。彼女に向かって迫りくる小さな刃は、止まることを知らない。その時、突然誰かによって身体を乱暴に押しのけられて彼女の身体はよろめいた。
「きゃっ……!」
そしてそのまま地面に倒れ込むと、自分の身体の上から重みを感じた。驚きのあまり目をそっと開けると、日に焼けた褐色の顔が苦悶に歪んでいるのが視界に飛び込んで来た。よく見ると、彼の左腕に小さな鋼鉄の矢が深々と突き刺さっている。
「アーサー!!」
セレナの悲鳴が室内に響き渡った。
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