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守れなかった人たち
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「――うっ」
「動くなソレイル、回復を……魔力が切れた」
「だいじょうぶだスオーロ」
「……これで私もただの人と変わらないな」
「姉さん」
「私も魔力が……どうやらネモネア・プリンセスが覚悟しなければ、私達は死んでいたかもしれません」
「おい、アヴエロ聞いてるのか、アヴエロ!」
スオーロが声を上げるも微動だにせず立ったままのアヴエロ。
「黙りはないだろアヴエロ」
「……スオーロ……私はアクアン老師、そしてまた、彼女を死なせてしまいました……」
アヴエロはただそう言って拳を握りしめていた……。
「――くっくっくっ、面白いぞっ、フラデーアッ、はぁっ!」
「そうやってっ、いつまで人々の死を楽しむつもりなのっ!」
「ハッハッハッ、私が生きている限り永遠だよ、そのためには人間共にはもっと痛みを味わってもらわねばなぁっ!」
上空で女神の剣を素手で捌く魔王シャンイレールと、女神の盾で打撃を捌く女神フラデーア。その力は本来互角であるはずだった。
「はぁっ!」
「させない!」
「……なんだ……この違和感……ならばこれならどうだ!」
超高速で女神を囲むように動いて隙を、突く。
「もらったっ!」
「はぁあっ!」
頭を狙ったはずの魔王を、女神は後ろを向いたまま前に倒して避け右肩を女神の剣で斬る。
「ぐうっ……こんな戦い方をフラデーアはしない、貴様っ!」
「……そうよ、あたしはネモネアでもある」
「魔族の女」
「今のあたいはネモネアであり……私フラデーア、2つの魂で動いています」
「えーいっ、忌々しい」
「……あんたが、あたしから大切なものを奪った」
「くっくっくっ、そうだな奪ってきたよ、沢山な。だがそんなことは知らん、返してほしければ皆私を倒せば良いのだからな、ハッハッハッ」
「……せっかく会えたのに、結局……そんなあんたをっ、あたいは許すもんかぁぁぁっ!」
女神の力で、前の自分とは力も速さも何もかもが異次元。なのに、あたいは一番欲しいものは手に入らない。だからか涙が出る。それでもせめて、せめて魔王シャンイレールだけは絶対に許せない、倒す。そんな思いのあたしにフラデーアも気づいていた。
『ネモネア……』
「いいのフラデーア……こいつだけはやらせて、刺し違えても地獄におくってやるんだから、ぐすっ」
「――怒りに満ちているな、魔族の女、たしかネモネアだったなっ!」
「あんたへの怒りよ、シャンイレールッ!」
様々な想いと怒り。だけどあたいの身体に流れる血が、幼い頃、泣いても、怒っても、絶望しても、死にたくなっても、感情むき出しじゃやっていけなかった魔性の森の生活をみせる。
「ハッハッ、どうしたネモネア防戦一方だぞっ!」
様々な魔物や魔獣には習慣が、癖がある。隠れてひたすらじっと観察、それを2回3回と繰り返し確認し覚える。
「所詮は低級な魔族というわけだ、死ねぇっ!」
頭に入れたら、勇気を出して、一歩踏み込む。
「うあぁぁぁっ!」
「ぐあぁぁぁっ、バカなっ、私のっ、わたしの腕がぁぁぁっ!」
シャンイレールの左腕を女神の剣で斬り落とす。
「あんたにわかる? 限られたあたいたちの大切なものが何か」
「……貴様ぁぁぁっ、下級魔族の分際でぇぇぇっ!」
「それは、時よ」
女神フラデーアの言われたとおりに両手から光を出して、目の前に。
「女神の、閃光ぉぉぉっ!」
「暗黒の貪りぃぃっ!」
あたいの両手から放たれる光と、右手から怨念のような闇を放出するシャンイレールが、ぶつかり合う。
「――あの光は!」
「光と闇がぶつかってる、この世の終わりを見てるみたい。姉さん」
姉妹で光と闇の戦いを観ているソレイルとモント。
「あの光は、ネモネア……おいアヴエロ」
応答しないアヴエロはずっと立ち止まったままでいた。
「いつまでそうしてるつもりだっ、そうしていてもネモネアは帰って来ないんだぞ!」
スオーロの言葉、それでも何の反応を示さない。
エメールもそのやり取りを見届けていた。いや、あの状態の勇者アヴエロを立ち直らせるにはスオーロしかいない。
「アクアン老師やネモネアにあの決断をさせてしまったのには、オレたちにも責任はある、お前1人が背負い込むことじゃないんだ」
見てられないとスオーロがアヴエロの目の前に立つと、その勇者の眼は、闇で覆われているように死んだ眼だった。
「アヴエロォォォッ……」
「――ぐうっ、よくも、よくも我が腕をぉぉぉっ!」
部下を失っても感情をむき出しにしたことのない魔王シャンイレールが、あたいに左腕を斬られて怒りまくってる。
「な、なぜ魔力が闇が押される」
「あんたは、あたいらとずっと闘って魔力を使い、浮かれて邪恐竜や邪恐獣を出したりして弱まってるんだ」
「な、んだと……」
徐々に光は魔王に迫ってくる。このまま押し切るためあたいは力を込める。
「……このまま、くたばれ魔王、あんたを道連れにしてでも倒してやる」
「ネモネア……」
「いいのよフラデーア、あたいは一度命を失ったのにこんなに冒険して、色んな人と出会って、楽しい想いをしてきたんだから、くいはない」
このときの女神フラデーアは哀しい表情をしていた。
だが魔王は、
「ぬあぁぁぁあああーっ!」
血管が浮き出で正気を失う程の、力を解放した……。
「動くなソレイル、回復を……魔力が切れた」
「だいじょうぶだスオーロ」
「……これで私もただの人と変わらないな」
「姉さん」
「私も魔力が……どうやらネモネア・プリンセスが覚悟しなければ、私達は死んでいたかもしれません」
「おい、アヴエロ聞いてるのか、アヴエロ!」
スオーロが声を上げるも微動だにせず立ったままのアヴエロ。
「黙りはないだろアヴエロ」
「……スオーロ……私はアクアン老師、そしてまた、彼女を死なせてしまいました……」
アヴエロはただそう言って拳を握りしめていた……。
「――くっくっくっ、面白いぞっ、フラデーアッ、はぁっ!」
「そうやってっ、いつまで人々の死を楽しむつもりなのっ!」
「ハッハッハッ、私が生きている限り永遠だよ、そのためには人間共にはもっと痛みを味わってもらわねばなぁっ!」
上空で女神の剣を素手で捌く魔王シャンイレールと、女神の盾で打撃を捌く女神フラデーア。その力は本来互角であるはずだった。
「はぁっ!」
「させない!」
「……なんだ……この違和感……ならばこれならどうだ!」
超高速で女神を囲むように動いて隙を、突く。
「もらったっ!」
「はぁあっ!」
頭を狙ったはずの魔王を、女神は後ろを向いたまま前に倒して避け右肩を女神の剣で斬る。
「ぐうっ……こんな戦い方をフラデーアはしない、貴様っ!」
「……そうよ、あたしはネモネアでもある」
「魔族の女」
「今のあたいはネモネアであり……私フラデーア、2つの魂で動いています」
「えーいっ、忌々しい」
「……あんたが、あたしから大切なものを奪った」
「くっくっくっ、そうだな奪ってきたよ、沢山な。だがそんなことは知らん、返してほしければ皆私を倒せば良いのだからな、ハッハッハッ」
「……せっかく会えたのに、結局……そんなあんたをっ、あたいは許すもんかぁぁぁっ!」
女神の力で、前の自分とは力も速さも何もかもが異次元。なのに、あたいは一番欲しいものは手に入らない。だからか涙が出る。それでもせめて、せめて魔王シャンイレールだけは絶対に許せない、倒す。そんな思いのあたしにフラデーアも気づいていた。
『ネモネア……』
「いいのフラデーア……こいつだけはやらせて、刺し違えても地獄におくってやるんだから、ぐすっ」
「――怒りに満ちているな、魔族の女、たしかネモネアだったなっ!」
「あんたへの怒りよ、シャンイレールッ!」
様々な想いと怒り。だけどあたいの身体に流れる血が、幼い頃、泣いても、怒っても、絶望しても、死にたくなっても、感情むき出しじゃやっていけなかった魔性の森の生活をみせる。
「ハッハッ、どうしたネモネア防戦一方だぞっ!」
様々な魔物や魔獣には習慣が、癖がある。隠れてひたすらじっと観察、それを2回3回と繰り返し確認し覚える。
「所詮は低級な魔族というわけだ、死ねぇっ!」
頭に入れたら、勇気を出して、一歩踏み込む。
「うあぁぁぁっ!」
「ぐあぁぁぁっ、バカなっ、私のっ、わたしの腕がぁぁぁっ!」
シャンイレールの左腕を女神の剣で斬り落とす。
「あんたにわかる? 限られたあたいたちの大切なものが何か」
「……貴様ぁぁぁっ、下級魔族の分際でぇぇぇっ!」
「それは、時よ」
女神フラデーアの言われたとおりに両手から光を出して、目の前に。
「女神の、閃光ぉぉぉっ!」
「暗黒の貪りぃぃっ!」
あたいの両手から放たれる光と、右手から怨念のような闇を放出するシャンイレールが、ぶつかり合う。
「――あの光は!」
「光と闇がぶつかってる、この世の終わりを見てるみたい。姉さん」
姉妹で光と闇の戦いを観ているソレイルとモント。
「あの光は、ネモネア……おいアヴエロ」
応答しないアヴエロはずっと立ち止まったままでいた。
「いつまでそうしてるつもりだっ、そうしていてもネモネアは帰って来ないんだぞ!」
スオーロの言葉、それでも何の反応を示さない。
エメールもそのやり取りを見届けていた。いや、あの状態の勇者アヴエロを立ち直らせるにはスオーロしかいない。
「アクアン老師やネモネアにあの決断をさせてしまったのには、オレたちにも責任はある、お前1人が背負い込むことじゃないんだ」
見てられないとスオーロがアヴエロの目の前に立つと、その勇者の眼は、闇で覆われているように死んだ眼だった。
「アヴエロォォォッ……」
「――ぐうっ、よくも、よくも我が腕をぉぉぉっ!」
部下を失っても感情をむき出しにしたことのない魔王シャンイレールが、あたいに左腕を斬られて怒りまくってる。
「な、なぜ魔力が闇が押される」
「あんたは、あたいらとずっと闘って魔力を使い、浮かれて邪恐竜や邪恐獣を出したりして弱まってるんだ」
「な、んだと……」
徐々に光は魔王に迫ってくる。このまま押し切るためあたいは力を込める。
「……このまま、くたばれ魔王、あんたを道連れにしてでも倒してやる」
「ネモネア……」
「いいのよフラデーア、あたいは一度命を失ったのにこんなに冒険して、色んな人と出会って、楽しい想いをしてきたんだから、くいはない」
このときの女神フラデーアは哀しい表情をしていた。
だが魔王は、
「ぬあぁぁぁあああーっ!」
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