52 / 66
魔王降臨
しおりを挟む
――ツオーゴの灰色の雲が、紅い紫色と変化して、湖や草木は叫びのような靡く音。自然に影響をあたえる者は不気味な異次元の穴から姿を現した。
「――馬鹿な女神であった、フラデーアは……」
「クレマ、あ、あいつは……」
「あのかたは、魔王……シャンイレール、様……」
この死を覚悟しなければいけないほどの感覚、魔王ルモールと同じだ。でも、魔王シャンイレールのあのルモールより若い顔から発する威圧感は底知れない。
「魔王様!」
「……デルニエール、そうか」
「あっ……あっ……魔王……さま」
恐怖するクレマに一瞬向いたが、すぐ別の2人組に目を合わす。
「シャッ、シャンイレール様ぁっ!」
「クレマがすいませんっ、でもあの、クレマが悪いんですっ、はっ、はやく処刑をっ、シャンイレール様っ!」
あいつら、今度は自分達は何もしてないくせに失敗をクレマ1人に擦り付けるつもりだ。とことん最低な奴等。
「……見苦しい」
「シャッ、シャンイレール様っ!」
「ひぃっ、あんたっ!」
「沈黙の闇」
「うがぁぁぁっ」
「あぁぁぁっ」
あたいとクレマの両親の真下から、ブラック・ホールのようなものが現れ、最初に皮膚、肉を吸取り骨があらわになって最後は塵となった。前髪をさらりとしたあと魔王シャンイレールは再びクレマに視線を合わす。
「こんな程度の事もできない下級魔族など……生きている意味がない」
「あ……あ……」
「貴様も負けたあげく、敵に手を差し伸べられるとは……死ぬがいい」
「クレマッ!」
「ああっ、ネモネア」
下からまたブラック・ホールが現れた瞬間、クレマにダイビングしてその場から紙一重で逃がす。
「……貴様は」
「あたいは、ネモネアだ……」
「――はぁっ」
「ぐあっ」
「エメールッ!」
モントとエメールが魔王シャンイレールに驚いている間にデルニエールが攻撃を仕掛けてきた。
「……もう貴様等に勝機はない!」
「「うわぁぁぁっ!」」
「エメールッ、モントォッ!」
「……貴様か、私の邪魔をする魔族というのは」
「シャン、イレール……」
「不快だな」
「なに」
「髪も肌も眼も爪も、態度も存在も……何もかも全てが汚く醜い。女とは女神のように美しい存在でなくてはならない、それが役目だというのに」
「汚くて悪かったねまともに育ってないからね……ルモールもそうだけど、やっぱり魔王はどいつも同じだ」
「ほう、魔王ルモールを知っているのか」
「あたいは、魔王ルモールの配下だった」
そう伝えると魔王シャンイレールはそれを見上げ髪をなびかせる。
「魔王ルモール……私はいつも2番手だった。奴は私よりも弱く年をとっていた。なのに奴は魔王を手放したくないと横の繋がりで自分の立場を守っていた……実に年寄りくさい惨めな事よ」
あたいはシャンイレール飛びかかった。魔界の事は魔性の森しか生きたことのないあたいには分からない、でも今わかることはある。
「シャンイレールッ、女神を殺したり命を何とも思わないあんたはっ、このツオーゴにいちゃいけないんだぁぁぁっ!」
こいつを倒せば全てが解決する。
あたいの爪であの世にいけ。
「魔炎」
「……うぎゃあぁぁぁっ!」
「ネッ、ネモネアァァァッ!」
「下級魔族の分際で、気安く私に飛びかかるな汚らしい。激痛の炎で泣き叫びながら死ぬがいい」
シャンイレールに竜爪が当たる寸前、小さな小声のように唱えた魔炎はあたいを今まで見たことのない紫の炎が纏わりつく。
竜魔法で竜の耐性が付いた筈なのに魔炎という炎に激痛を感じる。痛みなんて今まで耐えてきたはずなのに、身体のあらゆる箇所からナイフで思いっきり刺されているよう。
「うあぁぁぁっ、かはっ、うあぁぁぁああ……」
「ネモネア、ネモネアッ……どうすれば……」
「はっはっはっ、いいぞ、いい余興だ。せいぜい死ぬまで我を楽しませてみせろ。その苦痛の踊りでな」
涙も出る、苦しくて吐き気もする。こんな苦しみ、そういえばあたいが目覚めたあの時もそうだった。
一つ目邪獣に殺されたあたいは、ジュリの家で目覚めた。ジュリやシスター・カルタがあたいに喜んでくれたけど、一つ目邪獣の最後の攻撃を思い出すと激痛や嘔吐をしてしまった。
その後も思い出すたびに身体は反応するように激痛と嘔吐を繰り返す日々。そんなあたいをジュリやシスター・カルタ、そして子どもたちまであたいに気遣ってくれたっけ……。
「ネモネア……落ちついた?」
「クレマ……ありがとう、あんたがやってくれたんだね」
「……そうじゃないけど」
「そうだ、魔王は……」
「シャンイレール様が、じっとして何か考えているみたいなの……それとネモネア」
さっきまで人の苦しみをあざ笑っていたのに、今度は一転、自然と一体化しているように落ち着いている。
「……妙だ、勇者どもが魔界に向かったと同時に魔獣を開放した。ならもう少し血の匂いと恐怖の叫びでこの世界は満たされているはず……なのに、人間共が魔獣を倒している?」
「――馬鹿な女神であった、フラデーアは……」
「クレマ、あ、あいつは……」
「あのかたは、魔王……シャンイレール、様……」
この死を覚悟しなければいけないほどの感覚、魔王ルモールと同じだ。でも、魔王シャンイレールのあのルモールより若い顔から発する威圧感は底知れない。
「魔王様!」
「……デルニエール、そうか」
「あっ……あっ……魔王……さま」
恐怖するクレマに一瞬向いたが、すぐ別の2人組に目を合わす。
「シャッ、シャンイレール様ぁっ!」
「クレマがすいませんっ、でもあの、クレマが悪いんですっ、はっ、はやく処刑をっ、シャンイレール様っ!」
あいつら、今度は自分達は何もしてないくせに失敗をクレマ1人に擦り付けるつもりだ。とことん最低な奴等。
「……見苦しい」
「シャッ、シャンイレール様っ!」
「ひぃっ、あんたっ!」
「沈黙の闇」
「うがぁぁぁっ」
「あぁぁぁっ」
あたいとクレマの両親の真下から、ブラック・ホールのようなものが現れ、最初に皮膚、肉を吸取り骨があらわになって最後は塵となった。前髪をさらりとしたあと魔王シャンイレールは再びクレマに視線を合わす。
「こんな程度の事もできない下級魔族など……生きている意味がない」
「あ……あ……」
「貴様も負けたあげく、敵に手を差し伸べられるとは……死ぬがいい」
「クレマッ!」
「ああっ、ネモネア」
下からまたブラック・ホールが現れた瞬間、クレマにダイビングしてその場から紙一重で逃がす。
「……貴様は」
「あたいは、ネモネアだ……」
「――はぁっ」
「ぐあっ」
「エメールッ!」
モントとエメールが魔王シャンイレールに驚いている間にデルニエールが攻撃を仕掛けてきた。
「……もう貴様等に勝機はない!」
「「うわぁぁぁっ!」」
「エメールッ、モントォッ!」
「……貴様か、私の邪魔をする魔族というのは」
「シャン、イレール……」
「不快だな」
「なに」
「髪も肌も眼も爪も、態度も存在も……何もかも全てが汚く醜い。女とは女神のように美しい存在でなくてはならない、それが役目だというのに」
「汚くて悪かったねまともに育ってないからね……ルモールもそうだけど、やっぱり魔王はどいつも同じだ」
「ほう、魔王ルモールを知っているのか」
「あたいは、魔王ルモールの配下だった」
そう伝えると魔王シャンイレールはそれを見上げ髪をなびかせる。
「魔王ルモール……私はいつも2番手だった。奴は私よりも弱く年をとっていた。なのに奴は魔王を手放したくないと横の繋がりで自分の立場を守っていた……実に年寄りくさい惨めな事よ」
あたいはシャンイレール飛びかかった。魔界の事は魔性の森しか生きたことのないあたいには分からない、でも今わかることはある。
「シャンイレールッ、女神を殺したり命を何とも思わないあんたはっ、このツオーゴにいちゃいけないんだぁぁぁっ!」
こいつを倒せば全てが解決する。
あたいの爪であの世にいけ。
「魔炎」
「……うぎゃあぁぁぁっ!」
「ネッ、ネモネアァァァッ!」
「下級魔族の分際で、気安く私に飛びかかるな汚らしい。激痛の炎で泣き叫びながら死ぬがいい」
シャンイレールに竜爪が当たる寸前、小さな小声のように唱えた魔炎はあたいを今まで見たことのない紫の炎が纏わりつく。
竜魔法で竜の耐性が付いた筈なのに魔炎という炎に激痛を感じる。痛みなんて今まで耐えてきたはずなのに、身体のあらゆる箇所からナイフで思いっきり刺されているよう。
「うあぁぁぁっ、かはっ、うあぁぁぁああ……」
「ネモネア、ネモネアッ……どうすれば……」
「はっはっはっ、いいぞ、いい余興だ。せいぜい死ぬまで我を楽しませてみせろ。その苦痛の踊りでな」
涙も出る、苦しくて吐き気もする。こんな苦しみ、そういえばあたいが目覚めたあの時もそうだった。
一つ目邪獣に殺されたあたいは、ジュリの家で目覚めた。ジュリやシスター・カルタがあたいに喜んでくれたけど、一つ目邪獣の最後の攻撃を思い出すと激痛や嘔吐をしてしまった。
その後も思い出すたびに身体は反応するように激痛と嘔吐を繰り返す日々。そんなあたいをジュリやシスター・カルタ、そして子どもたちまであたいに気遣ってくれたっけ……。
「ネモネア……落ちついた?」
「クレマ……ありがとう、あんたがやってくれたんだね」
「……そうじゃないけど」
「そうだ、魔王は……」
「シャンイレール様が、じっとして何か考えているみたいなの……それとネモネア」
さっきまで人の苦しみをあざ笑っていたのに、今度は一転、自然と一体化しているように落ち着いている。
「……妙だ、勇者どもが魔界に向かったと同時に魔獣を開放した。ならもう少し血の匂いと恐怖の叫びでこの世界は満たされているはず……なのに、人間共が魔獣を倒している?」
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。
音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。
だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。
そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。
そこには匿われていた美少年が棲んでいて……
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃
紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。
【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる