上 下
4 / 4

もしも別れていなければ

しおりを挟む
 ――キンッ、キンッ、

 魔王の城の中で剣が響き合う。オレは魔王戦士を
まさるを救うためずっと語り続けていた。

 2人でイタズラをしたことや先生に怒られたこと。運動会の組体操や鉄棒、ジャングルジムなど覚えてる限りを。

「おまえ言ってたよな『まったく同じ絵は描けない、それはコピーでいい』って。模写して鉛筆の進まないオレにとってそれはありがたかった」

「だまれっ、さっきから、ハァハァハァ」

「だから『楽しく描こう』って」
 剣を弾いているとオレは僅かな鈍さを感じ始めていた。
「どうした、優」

「黙れだまれだまれだまれだマレダマレダマレッ!」

 致命傷をあたえていないにも関わらず苦しそうで言葉の乱れに気づく、今こそとオレは最後の勝負を仕掛ける。

「魔王戦士っ、貴様の最強の攻撃でオレを倒してみろ!」

「ナンダト······クックック、イイダロウ、ウワァァァッ!」

 4つの魔剣に闇が濃く強くなっていく。肌に伝わってくる恐怖や絶望感。だがオレは剣に想いを込める。

「画に力を込めず、筆はやさしく······」

「ウガァウッ!」

 向かってきた優にオレも、

「やさしさのつるぎジェンティーレッ!」

「ウガァァァーッ!」

「うあぁぁぁーッ!」

 この激突のすぐに他の仲間が駆けつけたが立っていたのは魔王戦士だけだった。


「――裕二ゆうじおれは、おれは」

「何をしている、殺せっ、お前が傷ついている時に笑ってのうのうと生きていた偽善の友を殺すのだっ!」

「おれにはっ、もう」

「そうやって迷えば、傷つけた奴等は付け上がり今度はお前の命を奪うぞっ、それでいいのかマサルッ!」

「そんなことはさせないっ!」

「裕二っ!」

「またせたな、優」

「な、なぜ、貴様はここへっ」

「このジェンティーレは共鳴したやさしさの元へとはこんでくれる神秘の技」操っていた闇が驚くのも無理はない。魔王戦士となった優の声がおかしくなったときに迷っていると気づいて、とオレは確信しこの技をつかい優の心の中へとダイブした。

「裕二、おれはおまえに」

「立て優、ヤツを倒すぞ······反省しているのはわかるよ友達ダチだからな、でもコイツをほっとけばまた弱った人間につけこむ、そんなわけには行かないだろ優っ!」

 優はスッと立ち上がり剣を出現させた。

「いいのかマサル、また同じ苦しみを味わうのだぞ、それが人間の世界だ!」

「わかってる、その苦しみに負けお前に頼ったのも、だがもう終わらすっ」

 闇を肯定したうえで倒すことを決めた優、そしてオレたちは剣を構えて飛び出した。

「愚か者めーっ!」

「オレが愚かなのは否定はしない、だがっ!」

「人間の弱みを付け込んだ貴様がっ、ほんとうの愚か者だぁぁぁーっ!」

 2人で交差クロスして闇を切り裂いた······。

 『裕二、おれは嫉妬していた、どんどん絵がうまくなっていくおまえに、それが悔しくて、寂しかった、それと······ゆうじ······ありがとう······』


 すべての戦いは終わった。優を抱えるオレと仲間一行は女神の神殿へと足を運び玉座に座る女神の前に。

「魔王を倒してくださりありがとう、勇者と一行たち」

「いえ、オレは」

「褒美にあなた方の願いを叶えましょう」

 仲間たちがそれぞれ思い想いの願いを叶えてもらうなか俺の出番に、

「最後は勇者あなただけ、何を願いますか?」

「俺の願いは······」


 願いを叶えて現実の世界へと帰ってきた。だけど、

「よう、優」

「裕二······」

「海でも眺めながら話そうぜ」
 うなずいた優とオレは女神の神殿近くの崖で座った。

「まさか、またおまえと話せるとはな裕二」

「ここならいつでも会えるからな」
 オレが女神に願ったのは異世界を自由に行き来できる事、そうすれば優といつでも会えると思ったから。オレたち二人にとって今はそれが一番いい。

「過去のことは魔王戦士になったお前から聞いた。酷かったな」

「一人になるたびに思ったよ『裕二だったら話せるのに』って」

「どうしてメッセージをくれなかったんだ」

「迷惑だと思ってさ、おれも。おまえおれがメッセージ送らないとお繰り返して来ないしな」

「あ、わりぃ、その、そういうの恥ずかしくてな」

 このとき優は苦笑いしていたような気がする。

「おれも一度は自立しなきゃって思って頑張ったんだ、でも周りはそれに反してどんどん否定してきた。それで······」

「異世界の闇につけこまれたってわけか」

「ああ、情けないよな」

「もういいさ、終わったことだ。次はこの先どう楽しむか、だろ」

 そう想って言った言葉に優は笑顔で立ち上がった。

「そうだな······おれたまに思ってたんだけどさ、引っ越さなかったら何してたかな」

 想像だが残念だがオレたちは良い子な方ではないのでたぶん、

「学校休んで、ずっと一緒にゲームやって」

「カードゲームとか二人プレイでゲームとか」

「そうそう······ってダメだなオレたち」

「そう、だな、とても人には言えないな」

「変な空気になったが、遊ぶか、ここで」

「ああ、なにやる?」

「絵を描こう!」

「やだよ、裕二はうまくなったから」

「優に教わったとおりに描いただけだぞ······」

 このあともオレたちは何をやろうかと話し合っていくうちにあっという間に時間が経つが、今のオレたちにはそれだけでも十分だ、この時間を大切にしたい······。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

Y/K Out Side Joker . コート上の海将

高嶋ソック
青春
ある年の全米オープン決勝戦の勝敗が決した。世界中の観戦者が、世界ランク3ケタ台の元日本人が起こした奇跡を目の当たりにし熱狂する。男の名前は影村義孝。ポーランドへ帰化した日本人のテニスプレーヤー。そんな彼の勝利を日本にある小さな中華料理屋でテレビ越しに杏露酒を飲みながら祝福する男がいた。彼が店主と昔の話をしていると、後ろの席から影村の母校の男子テニス部マネージャーと名乗る女子高生に声を掛けられる。影村が所属していた当初の男子テニス部の状況について教えてほしいと言われ、男は昔を語り始める。男子テニス部立直し直後に爆発的な進撃を見せた海生代高校。当時全国にいる天才の1人にして、現ATPプロ日本テニス連盟協会の主力筆頭である竹下と、全国の高校生プレーヤーから“海将”と呼ばれて恐れられた影村の話を...。

転生したら捨てられたが、拾われて楽しく生きています。

トロ猫
ファンタジー
2024.7月下旬5巻刊行予定 2024.6月下旬コミックス1巻刊行 2024.1月下旬4巻刊行 2023.12.19 コミカライズ連載スタート 2023.9月下旬三巻刊行 2023.3月30日二巻刊行 2022.11月30日一巻刊行 寺崎美里亜は転生するが、5ヶ月で教会の前に捨てられる。 しかも誰も通らないところに。 あー詰んだ と思っていたら後に宿屋を営む夫婦に拾われ大好きなお菓子や食べ物のために奮闘する話。 コメント欄を解放しました。 誤字脱字のコメントも受け付けておりますが、必要箇所の修正後コメントは非表示とさせていただきます。また、ストーリーや今後の展開に迫る質問等は返信を控えさせていただきます。 書籍の誤字脱字につきましては近況ボードの『書籍の誤字脱字はここに』にてお願いいたします。 出版社との規約に触れる質問等も基本お答えできない内容が多いですので、ノーコメントまたは非表示にさせていただきます。 よろしくお願いいたします。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

さようなら、家族の皆さま~不要だと捨てられた妻は、精霊王の愛し子でした~

みなと
ファンタジー
目が覚めた私は、ぼんやりする頭で考えた。 生まれた息子は乳母と義母、父親である夫には懐いている。私のことは、無関心。むしろ馬鹿にする対象でしかない。 夫は、私の実家の資産にしか興味は無い。 なら、私は何に興味を持てばいいのかしら。 きっと、私が生きているのが邪魔な人がいるんでしょうね。 お生憎様、死んでやるつもりなんてないの。 やっと、私は『私』をやり直せる。 死の淵から舞い戻った私は、遅ればせながら『自分』をやり直して楽しく生きていきましょう。

いずれ最強の錬金術師?

小狐丸
ファンタジー
 テンプレのごとく勇者召喚に巻き込まれたアラフォーサラリーマン入間 巧。何の因果か、女神様に勇者とは別口で異世界へと送られる事になる。  女神様の過保護なサポートで若返り、外見も日本人とはかけ離れたイケメンとなって異世界へと降り立つ。  けれど男の希望は生産職を営みながらのスローライフ。それを許さない女神特性の身体と能力。  はたして巧は異世界で平穏な生活を送れるのか。 **************  本編終了しました。  只今、暇つぶしに蛇足をツラツラ書き殴っています。  お暇でしたらどうぞ。  書籍版一巻〜七巻発売中です。  コミック版一巻〜二巻発売中です。  よろしくお願いします。 **************

錬金術師カレンはもう妥協しません

山梨ネコ
ファンタジー
「おまえとの婚約は破棄させてもらう」 前は病弱だったものの今は現在エリート街道を驀進中の婚約者に捨てられた、Fランク錬金術師のカレン。 病弱な頃、支えてあげたのは誰だと思っているのか。 自棄酒に溺れたカレンは、弾みでとんでもない条件を付けてとある依頼を受けてしまう。 それは『血筋の祝福』という、受け継いだ膨大な魔力によって苦しむ呪いにかかった甥っ子を救ってほしいという貴族からの依頼だった。 依頼内容はともかくとして問題は、報酬は思いのままというその依頼に、達成報酬としてカレンが依頼人との結婚を望んでしまったことだった。 王都で今一番結婚したい男、ユリウス・エーレルト。 前世も今世も妥協して付き合ったはずの男に振られたカレンは、もう妥協はするまいと、美しく強く家柄がいいという、三国一の男を所望してしまったのだった。 ともかくは依頼達成のため、錬金術師としてカレンはポーションを作り出す。 仕事を通じて様々な人々と関わりながら、カレンの心境に変化が訪れていく。 錬金術師カレンの新しい人生が幕を開ける。 ※小説家になろうにも投稿中。

【イラスト帳★創作日記】 ※週2回ほど更新

双葉
エッセイ・ノンフィクション
いつか「双葉の絵柄が好き」と言ってくれる方に巡り合うことができたなら――そんな夢を見つつ、マイペースで更新していきます♪ ◆◆本作のイラストは全てAI学習禁止です◆◆ ※2022年~2024年の作品まとめ ※四コマ漫画風の小ネタあり ※絵は全て【アイビスペイント】で描いております(各イラストの背景・フレームなどにアイビスペイント内の素材を使用)

処理中です...