運命の夕立により出会った二人の男女それぞれが困難を乗り越え虹へと変わる

言葉と理解

　寝坊した優杏ゆあんが学校に向かっていると途中の夕立に仕方なく木の下で雨宿っているときに夏里太かりたに出会ったり、体育館でバスケをしているとき外が急に夕立になると気になって外を開けると走っている彼を目撃したりと、2人は自然と夕立と自分たちの関係に薄々と気がついていく······。


　そんな日が続きいつの間にか友だちに、


「んでさ、今度試合があんだけど」

「気合入ってるね」

「もちろんっ、今年最後のインターハイ、優勝してやるんだからっ」

　2人は夕立ついでにカフェで雨宿り。コーヒーを飲みながら聞く夏里太に対し、両腕を開いたり勢い余ってテーブルを叩いたりと騒がせながら楽しそうに説明する優杏。

「それがあたしの······そうだお母さんの様子は、どお？」

　優杏の言葉に下を向くとコーヒーカップをカップを置く受け皿ソーサーにそっと置き両手で包むように触れると、

「······5日後、手術なんだ」

　不安そうな彼の目、

「成功率って、そんなに低いの？」

「成功率は70％って言われてて、でも」

「よかったじゃん、70％ならもう成功したようなもんよ」

「簡単に言わないでよ」

「あ、ごめん」

　たとえ70％といえど100％でない以上は楽観視できない。自分の母親ならなおさら心配である。

「もし、失敗したら······」

　不安な彼、しかし生きているのにもうお母さんは死んでしまったかのように話すのを黙って聞いていると出てくる言葉はネガティブなことばかりで内心イライラしていた優杏は目を細め、

「そんなんじゃ良くないと思うけど」

「え、なんだよ」

「夏里太も辛いだろうけど、お母さんはもっと辛いよ」

　おもわず夏里太は優杏の目を合わせ睨む、

「一緒に不安に思ってたら、お母さんもっと不安になると思うけど」

　するとたまらず立ち上がる。

「君に何がわかるんだよ、君にっ！」

「夏里太、あたしはただ」

「もう、帰るよ」

「ちょ、ちょっと」

　そう言って夏里太はカフェを抜け出し走り去っていった。

「······あたしはただ」彼が元気になればお母さんもと思うも、この日を境に2人は自ら会わなくなる······。


　夕立にコンビニですれ違っても目を合わせず、雨宿りしても距離を取り、見かけても話しかけもしない。ちょっと前の日常に戻ったよう······。


　――高校を早退してお母さんの入院する病院へ着いた夏里太はドアノブに触れそうになるとふと、


『一緒に不安に思ってたら、お母さんもっと不安になると思うけど』


「優杏、さん······」あれからずっと頭の中に残っていた彼女の言葉。言い返したけれども、そうかもしれないと感じたからこその苛立ちだった。


　ここでいまドアを開けていつものように自分が暗ければお母さんは、優杏の言うとおりきっと不安になるあろう。

　ゴクッ、と息を呑みドアを開けた。

「あら夏里太、またきてくれて」

「そ、そんなこと言うなよ母さん、へへ」

　ワントーン声を張り、頬も上げて笑顔でお母さん前に出たのだ。

「ど、どうしたのよ」

　お母さんはいつもの夏里太じゃないことに少し動揺したが、

「さぁー、りんごを剥くよー」

　明るく、とにかく明るくと意識して接していった。


「――夏里太」

　あれから話さなくなった優杏だが、責任を感じていた。思ったことを口にして不安な彼を傷つけてしまったことに。それでも高校最後のバスケットに杭を残さないよう練習はしなければならないと思いを切り替え励んでいく。

「パス、パスッ」

　ドリブルしてリングへ、

「シュートッ」

　パサッ、

「しゃあーっ」とみんなに気合を分け与えるような雰囲気。優杏はみんなに集中力や勢いを付けていく、そんな彼女があの言葉を夏里太に言ったのには理由がある。


　団体スポーツというのはチームワークが重要でありバスケットとなればそれだけの団結力を要する。
　一人ひとりの技術も必要で同じくチームワークも必要、そして何よりも大切なのが心、想いの力。だからこそあのとき優杏は夏里太に一緒に不安になることはお母さんを、自分にとってはチームを不安にさせ敗退してしまうことを意味するという思いからであったのだ。

「オラーッ、気合い入れていけーっ！」

　だからこそたとえ男勝りと言われようと優杏はチームを勝利に導くために厳しい特訓もこなしていく······。


　そんな彼らも話し合うことはなく、あっという間に運命の5日目がやってきたのだった······。