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遊園地

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 ――あのあと大型ショッピングモールの中を見周り時間も昼頃になると「食べないと緑沙つかさの~」と半ば脅迫じみたことを人形に言われ昼食を取り車に戻った。


「――ふぁ~あ~あ~」


「あんなに沢山寝てたのに眠そうね」


「あのな~、オレは2時間くらい運転してんだぞ。疲れるに決まってるだろ」


「元気出てきたじゃん」


「別に······飯食いや多少わな」


 家に帰ると思いきや人形は次の場所を指定してきた。それは『遊園地』、もともとは緑沙と行ったところで今度はそこに行きたいと言われ、どうせ断ればどうなるか分かるし死ぬ前にとも頭の片隅で考えて向かうことにした。


 ――バンッ、とドアを閉めしっかり鍵を掛け、


「着いたぜ、人形様よ」


「あ~、なんか楽しみ~」


 観覧車やメリーゴーランドなどいたって普通の遊園地で特別な物があるわけでもないが小さい人形にとってはさぞ大きく広大に見えることだろう。
 オレにとっては緑沙とのかけがえのない想い出の場所、なのだが試練が訪れる。


「ジェッ、ジェット、コースター」


「うん、そう。さぁ行きましょ」


「······お、おれは、やめ、とく」


 声がガチガチに、そう、オレはジェットコースターが嫌いだ。


「お、おまえ1人で行けよ」


「人形のあたしが乗れるわけないでしょっ」


「じゃっ、じゃあ無理だろう」


「それは大丈夫よ」


 そして結局······。


 ガタガタガタッとジェットコースターはゆっくりと登っていく。


「こ、こわ、い、こわい」


 怖くて呂律も回らないのに対し人形はヒョコッとオレの服の中から顔を出す。人形の考えはオレの服の中に隠れて乗るということだった。


「もう、意気地なしね~」


「あわ、わっ」


「ダメだこりゃ」


 呆れながらもワクワクな人形と怖がるオレにジェットコースターが頂点にたっした時、急降下する。


「ハギャアアアー!」


「キャーさいこうー」


 オレは、地獄を味わった······。


 ジェットコースターの試練を乗り越えベンチで休憩。もうほとんど死にかけの放心状態だが、


「はあ~やっぱりジェットコースターは最高だったわ~」


 目をキラキラさせたように鞄から顔を出しそう思いを過ぎらせる人形、力が抜けたオレに対し元気が溢れてきたのか、このあともカップやカート、お化け屋敷でも遊ぶ。
 死ぬことを考えるヒマもなくあっという間に空もオレンジ色に染まる。


「もうそろそろ閉園になるぞ」


「じゃあ最後はね」


か」


 あれとは観覧車。どうやら最後にと残していたらしい。


 観覧車に1人乗る。もしかしたら係員にはおかしく思われたかもしれない。でもまさか人形が動くなんて想像はしないだろう。
 ゴンドラがゆっくりと進んでいくと座ったオレは窓枠に肘を乗せ自分の顔を支えながらボーッと街並みや夕陽を眺めていた。


「ここなら自由よね」


 テンションが高い人形、暴れ過ぎると窓から分かっちまうだろと注意したが、わりとすぐ大人しくなり夕陽を眺めだす。


「きれーい、なんかジンときちゃうな~。人形だから涙は出ないんだけどね」


 ジンとくる。その言葉と人形の横顔にふと前の出来事を思い出す。


「そ~いや~、1度だけ緑沙を泣かしちゃったことあったな~」


「そうなんだ」


 バイトで疲れて帰ってきて緑沙がオレの家の前でサプライズに待っていた。


「じゃ~ん、待ってました」


「あ、つかさ」


 でも仕事で疲れていたオレは夕方のデートを断るとそこでケンカになって3日間のあいだ連絡をとらなかった。冷静になればちゃんと言葉があったはずなのに。
 ダメ元でスマホで謝ってまた会おうと送ったら、彼女は会ってくれた。


「――つかさも、きっとあんたのこと好きだったのよ」


「ああ、そこでつかさが別れたくないって泣いてさ。オレもって言ってそこでデートし直したんだ」


「ふ~ん、でっ、どんな気持ちだったの?」


「悪いと思ったけど~······かわいくて、あと嬉しかった」


「かわいくて、嬉しいって、反省の気持ちはないわけっ?」


 気が触ったのかゴンドラの中で怒鳴られる。


「反省はしたよ、したけど泣いてくれるとは思わなくってさ、だから嬉しくて」


「ったく、これだから男は~」


「ははっ······って、何で人形のお前に怒られなきゃいけないんだよ」


「だまらっしゃい、あっ」


 その時ゴンドラは1番の頂点に到達し、そこからの夕焼けの眺めに2人は心を奪われた。


「「きれ~い」」


「「ん?」」


 2人の言葉は重なり、不意にもオレは生きることも悪くないと小さく芽生える。人形のおかげで。


「なぁ、この次もどっか行くのか?」


「もちろんよ、1週間分は動いてもらうわよ」


「おいおい厳しいな」


 それを聞いたオレは悪い気はしなくなっていて、この際だから今日はとことんまで付き合ってやることに決めた······。
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