~マザー·ガーディアン~

ヒムネ

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      想いとは

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 ――徹と私がまだ心域に居たときだった。
「避けた?」
「アイツは心域にいて動かせないはず、いったい?」
 愛と霞さんが驚くと、

「わた······しが動かし······ます」

 しかし両脚もないため、両腕で男性型気候獣のパンチや蹴りをガードするにも限界がある。
「あれじゃ時間の問題だぜ」
 倒れて動けないマザー·ガーディアンをひたすら殴り続ける。

「このままでは」
「くっ······早く目覚めろ、徹······未来」

「······うっ」

「徹!」
「道長君!」

「はぁ、はぁ、未来は、助けた」
 徹の目は弱々しかったが意識は失わなかった。

 そしてマザー·ガーディアンのエネルギー状の手脚が出る。

私が目を開けた時、気候獣が右手を引いて殴ろうとしているのが分かって、

「はぁっ!」

 その拳をマザー·ガーディアンの右手で受け止め再び心域へ。


 ――真っ白い空間何とか入ることが出来て、目の前に男性型気候獣が、

「うっ!」
 首を掴んできた。わたしは苦しくて何も話せなくなったけど、必死に女性型気候獣の事を頭に思い浮かべる。

 そうすると、

 スッと手を離し、興奮していた気候獣も徐々に落ち着いていった。

 すると今度は胸の奥が苦しくなってくる、

「これは――あなた反省してるのね」

 頭が下を向いている。

「······もしあなたが彼女に会えるなら、ちゃんと反省してる気持ちを伝えてあげて。きっと彼女も心配してるから」

 彼の、気持ちの変化を感じる。

「こんな暴力はもうダメよ、彼女を大切に想うなら絶対にやらないで、ね?」

 ゆっくりと頭を上げ、

 その言葉を理解してくれたようで、さっきまでの苦しさが嘘のように無くなり、彼は手をかざす。
「彼女には、ちゃんと想いを伝えてよ」
 二度押しで伝えて彼の手に触れる――。


 その時、女性が抱いている子供のシーンが――。


「くっ」
「未来さん」
 流石に二回目は疲れが酷い。
「お疲れ様でした」
「······うん」

「未来無事か?」

「徹、あなたこそ大丈夫なの?」
 彼の目にも力がないのが分かる。
「未来ほどじゃないよ」
 声も弱々しい。
「未来~」
「愛」
「もう、心配ばかりかけないでよ」
「ごめん」
「ごめんじゃないわよ。どれだけもう無理かと思ったか!」
「ちょっと、説教は止めてよ~疲れてるのに」
「あ、ごめん、つい」

「もういいかい?」

「すいませんっ、社長!」
 霞さんが見えた。
「あ、あの社長」
「どうした?」

「もしかすると、まだ終わりじゃないかも知れません」

「何っ!」

 その時チャイルドが、

「未来さん、空に変化が」

 晴れたはずの空が曇り急激な風や雨、それはまるで赤ちゃんの鳴き声のように激しく、

「上空に気候獣です」

「やっぱり」
「小柄な気候獣で浮いている場所から動きません」

 それは多分、赤ちゃんの気候獣。

「未来、逃げるんだっ!」
「社長」
 今の私では何も出来ない。だから言われた通り、
「はい」

 三歩、四歩と逃げたがついに、

「うっ、あっ」

 マザー·ガーディアンの手脚が消え、大きな音と共に停止し、
「未来さん!」

「未来っ!」


 私の精神は尽き、気絶してしまった······。


「おい未来!」
「未来君は、まさか」

「精神を使い果たして気絶しちまったんだ」

 車内は愕然とする。

「どうすれば」

「くっ」
「徹、よせっ!」
「はなし、てくれ」
「道長君、無理よ!」

「はぁ、はぁ、みらいは、オレがたすける」

「んなこと言って、ヘロヘロじゃねえかよ!」
「ゴーグルを、おれに」

「くっ、未来っ、起きろーっ、徹と結婚したいんじゃないのかーっ!」

「霞!」

「み、らい······」


「――未来、起きろーっ、徹と······」
 その声に
「んんっ」
 私は、ゆっくり目を開けた。
「ここ、は」

 自分が浮いているのは分かるけど、あとは真っ暗な空間だった。

「う~」
 力を入れようにも全く動かない。

 どうすればと考えていたら光が、
「これは」
 覚えのある感覚、嫌な予感が、
「まさか、止めてっ!」

 光に包まれた······!


「はなしてくれ、たのむ、おれが」
「徹!」
「道長君!」
 守がオレを押さえていた。

「徹······」
「やはり直接未来君を助けに行くしか」
「ああ」

「――待って下さい」

「チャイルドか!」
 車内で母さん、父さんが未来を救いに行こうとする中、

「外は急激な、暴風雨で大変危険です。なので私が動かします」
「なんだと、お前······」
 モニター越しで母さんは厳しい表情になった。
「よかったじゃねえか、徹」
 守はそう言うが、
「はぁ、はぁ、いや」
 意識が朦朧もうろうとしているオレでも心当たりがあったんだ。

「私が未来さんのこれまでのデータを元に、精神エネルギーを算出して類似させることで動かします」

 そう言うと、マザー·ガーディアンからエネルギー状の脚が出た。

「チャイルド、お前は妊娠した女性でも、人間出もないんだ。そんな事をしていると、お前のメモリがいつ壊れるか分からないんだぞ、危険だ!」

 だが、ゆっくりと一歩、二歩とこちらに向かう。

「どうしてそこまで······」


「友······達で······すから」


「チャイルド? それは――」
 オレが言ったことをAIであるはずの、彼女が守ろうとしていた。
 その行動に、車内の皆が言葉が出なかったのだ。チャイルドを心配する傍ら、未来に助かってほしい気持ちがあったから······。
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