七代目 双子の桃太郎

ヒムネ

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    志し

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 どんどん溢れていくその時、
「海に何かいるわ!」
 キジの涼がそう言うと中から、

 巨大な大王イカが姿を現した。

 大王イカは足で舟を絡ませて持ち上げ更に、
「うわっ」
 桃太郎に巻き付かせる。
「桃子ー!」
 猿の源太はイカ目掛けて飛び込むが、
「くっ」
 彼にも巻き付く。
「涼、何とかなりませんか?」
 苦しんでいる彼女に言われて、冷静になり思い付いたのは、

「ねえ大王イカのあなた、『桃太郎』って知ってる?」
 そう話しかけると、
「······桃太郎? あの『桃太郎』か!」
「知ってるのかしら?」
「待っていた」
わたくしをですか?」
 巻き付けた足の力を緩めて話す。

「我等は二代目桃太郎、桃次郎の時からの仲間だ」

「仲間、ですか」
 しかし一羽と一匹は、
「え、そんな言い伝え聞いたことないわよ」
「オイラ達猿一族もない」
「それは当然だ、このことは桃次郎の時から皆内密にしてきた。そして、鬼ヶ島に向かう歴代桃太郎に力を貸してきたのだ」
「じゃあ、鬼の舟でもう一人の桃太郎が向かったのは知ってるわけ?」
 桃子が双子の桃太郎で、あにぃーを助けるためにと彼に諭すと、
「そうだったのか、では、先を急がなければ。行くぞっ!」

「あ、あの、ありがとうございます大王イカ殿」
 そうして鬼ヶ島に着いたのだった――。

「双子、お前らもか」
「アイツにも兄妹がいたのか」

あにぃに代わって私が戦います!」

「ほおーうっ」
 桃太の元に駆け寄る桃子達。
「大丈夫ですか? 兄っ」
 心配そうに彼の肩を持つと、

「······ここから逃げろ」

「え」
 キジや猿も驚く。
「奴とは拙者が、最後まで、戦う!」
「その体ではもう無理です」
「負けると分かっていても、桃太郎として最後まで責務を全うする」
 その答えに悲しい顔をする桃子、他の者は桃太の覚悟に皆黙ってしまう。
 それを大人しく聞いていた赤鬼は睨み、

「本当にあたしと戦う気か?」
「ああ、拙者が戦、う」 
「死ぬぞ?」
「覚悟のうえだ」
「けっ、そうかよ」金棒を構える。
「お待ちください!」
「あぁー、まだなんかあんのか? お前はお呼びじゃないみたいだが」
「桃子、拙者が!」
「······分かりました兄」
 そうっと肩を離し、
「御免」
「うっ」
 拳を溝内にいれた。
「も、も、こ」
「お前何をする!」
 犬が問い掛ける。
「お主が仲間の犬、柴犬殿ですか」
「ああ、飛竜だ」
「怪我をしてますね、一緒に休んでください。涼殿、源太殿、二方を頼みます!」
「ええ」「おうっ」

「兄の志しは、私が引き継ぎますっ!」

 その闘志は決して兄に劣らず、またその姿は先程の桃太を感じさせる風貌だった。

「へっへっへっ、はっはっはっはっ」
「何かおかしいですか?」
「はっはっ······ちげーよ、気に入ったんだよぉぉーっ、覚悟しなっ!」

 赤鬼の夕陽も彼女の姿に胸の奥から湧き出る止めようない闘志が武者震いを起こさせる。荒ぶる鬼ヶ島に、再び宿命の戦いが幕を開けたーー。
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