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最終章 嗚呼、素晴らしき哉、サバイバル

最終話 人生って最高じゃないかしら?

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 ――その後のことを、少しだけお話したいと思います。

 A国とB国の戦争はまだ続いていて、相変わらず、今日もどこかで誰かが戦っています。
 ですがわたくしたちが経験したあの怒濤の日々は過ぎ去り、やがて穏やかに、日常は戻ってまいりました。

 わたくしとグレイは学園に戻ることになりました。……もうレオン様もミーアもいない、その場所に。

 お父様は、国政への復帰のオファーがたくさんきています。他にも、新しい事業のお誘いが山ほど。でも、全部断っているみたいです。
 暮らすに困らない財産はまだありますし、少しゆっくり休みたいんだそうです。家族と、もっと話したいと言ってくれました。信じられないくらい嬉しくて、聞いたときは恥ずかしながら泣いてしまいました。お父様は小さいときのように、わたくしの頭を撫でてくれました。

 レオン様とヒューですが、留学先でそれなりに上手くやっているみたいです。ヒューからのグレイ宛ての手紙を見せて貰ったので知りました。
 二人とも、ひたむきに勉学に励んでいるそうです。レオン様はあの一件以来、すごく落ち込んでいたみたいですが、元来、真面目で正義感が強いお方です。
 徐々に、ご自分を取り戻されているようです。きっともう大丈夫ですわね?
 明るいヒューも側にいることですし、心配はしていません。もうレオン様への恋心はありませんけど、もっと大人になったら、また友人として皆で笑い合う日が来たらいいな、なんて今は思います。

 それから、ミーア……じゃなくて、ジェシカですが、彼女は裁判のまっただ中です。でも、全て自白し罪を認めたようですわ。
 裁判を聴いていたお父様のお話だと、不思議なことに、以前よりもずっと彼女は穏やかな表情をしていたそうです。なにか自分の中で答えがでたのでしょうか? そうだとしたら、やっぱりよかった、と思いますわ。

 そして、今回のことを全て仕組んでいたジョーですが、未だ心を閉ざし、何も語らず、ただ生きているだけの存在になってしまいました。
 ぶつぶつと呟き、時折笑っているようです。夢の中にいるようだ、と誰かが噂をしているのを聞きました。もしかすると、永遠の楽園の中に、遂に行けたのかもしれません。
 
 ジェシカとジョー、そして死んでしまったシドニアを許すことはできません。けれど……、彼らもまた、痛みを抱えて生きていました。そう思うと、単純に憎むこともできません。この宙ぶらりんのままの感情も、きっと生きてく限りずっと抱えていくのでしょう。
 いずれにせよ、彼らの運命はわたくしたちの道から逸れて、二度と交わることはありません。だから彼らの人生を、頑張って生きてもらうしかありません。

 それからやっぱり気になるのは、お姉様とロスさんのことですわね? 二人はえーと、……うーん。やっぱり、話すのは止めておきましょう。
 だって、もう皆さんも二人の結末はご承知のとおりでしょう?
 それ以上のお話は野暮というものですわ。

 そうそう、ロスさんについて、グレイがこんな事を言っていました。

「オレがロスさんのように不器用ながらも強い男でいたら、あなたも振り向いてくれるだろうか」

 でも、わたくしは思います。

 ロスさんって、あの人、本当に不器用なのでしょうか?
 実はかなり器用なのでは。だって、欲しいもの全て手に入れてしまったのですから。

 わたくし的には、彗星の如く突然現れて、一瞬にしてお姉様を奪っていってしまった人という感想です。ええ、嫉妬ですわ。だって、お姉様とまだまだ一緒にいたかったのですもの。

 でも離れていても、ずっとお姉様のこと、大好きです。
 お姉様を見ていると思います。どんなに打ちのめされても、絶望的な時でも、諦めなければ必ず活路はある。運命は自分の手で、勝ち取っていくものなのだと。
 得た財産だとか、持って生まれたものだとか、してきた努力の数だとか、わたくしたちは、いつもそれを武器に戦っています。でも本当は、それらは全て、見かけ上のものに過ぎないのかもしれません。
 あらゆるものを取っ払って、素っ裸になったその先に、きっと本当のその人がいるのです。出会ってしまったら理屈も何もかも忘れて、その人が大切になってしまうのです。
 
 ……ちなみに、先ほどのグレイの言葉には、こう答えておきました。

「誰かと比べなくても、グレイはグレイでいいのです。あなたらしく、わたくしを落としてください」と。

 じゃあグレイとの仲はどうなったか、ですって?
 それについても乙女の秘密ですわ。だって、自分で言うのは照れくさいですもの。
 ヒントを言うなら、わたくしにも新しい婚約者ができました、とだけお伝えしておきましょう。

 ……だけど、これからの人生、本当に何が起こるかわかりません。だって、乙女ゲームのシナリオは、お姉様の手によってバキバキに壊されてしまったのですから。
 ここからは、悪役令嬢チェチーリアではなく、だたのチェチーリア・クオーレツィオーネ、お父様の娘で、お姉様の妹の、普通の女の子。本当のわたくしの人生が始まるのです。

 正直、怖くもありますわ。でも、それ以上にわくわくもしています。
 きっと素晴らしいことが待ち受けているに決まっているから。何があっても、なるようになる。人生って本当は自由で、どうあっても生きていけるのだと思います。

 そういえば、「これから、どうされるのです?」って人生で一番幸せな日のお姉様に尋ねました。すると彼女はこう答えました。

「なにも決まってないわ。でも、何があってもへっちゃらよ!」

 白いドレスがとてもよく似合いのお美しいお姉様は、本当に楽しそうに笑いました。
 

「――後は、野となれ山となれよ!」


 なんだかとても納得です。
 だって人生は素晴らしきサバイバル。

 結局、生き残った者の勝ちですものね?


〈おしまい〉
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