80 / 108
第4章 陰謀、逆襲、リバイバル
別れの時が来ましたわ!
しおりを挟む
東の空がわずかに白んできた時に、ヴェロニカとアルベルトが共だって降りてきた。
「今から王宮へ行ってきます」
主にカルロへ向けて、アルベルトが言った。
その隣のヴェロニカはすまし顔をしている。アルベルトの屋敷に置いてあったのか、上等な服を着て化粧をしているその姿は、初めて会った日に見たような立派なご令嬢だ。泥だらけで喚きながら走り回っていたなど考えられないほど。
「どのような証拠を突きつけるのですか?」
チェチーリアがアルベルトに尋ねる。
「二重帳簿だよ。領地経営やその他の事業だけじゃ手に入らないほどの莫大な金が、父の懐に入っていた。それを手に入れたんだ。グルーニャ家の古株の使用人も既に押さえている。父がグルーニャ家当主に度々金を渡し、ミーアを操っていたということを証言してくれる。それに……」
言葉を切った彼は、小さく頷きしっかりと答える。
「父は逃げた。それが動かぬ証拠だ」
しん、と部屋は静まり返る。この青年は、これから父を告発する。文句のつけようがない勇気ある行動だ。
皆思うところがあるのだろう、重い沈黙が漂った。
「ロス」
沈黙を破ったのは、ヴェロニカだった。急に名前を呼ばれたロスが見ると、静かな瞳がそこにあった。すまし顔のまま、きつい声を発する。
「あなたに未練はないわ。あなたがわたしに好意があると気づいた時、不思議ね、気持ちがすっかり冷めてしまったの。どうしてあそこまで執着していたのか今では分からない」
一同の視線が、ロスに集まる。疑問が確信へと変わっていく。
やはり森で、二人の間に何かがあった。しかし真正面から問いただす野暮なことをする人間も、またいなかった。彼女の隣のアルベルトを見る。なんとも思ってなさそうな顔でヴェロニカの言葉を聞いていた。
かつてアルベルトが命じたとき、ロスとて、本当にこの柔和そうな青年がシドニアに勝てると信じてるわけではなかった。理想主義だと思いつつも、面白いと感じ、彼の誘いに乗ったのだ。A国に嫌気が差していたのもある。
しかし結果として、アルベルトは見事それをほぼ完了しかけている。心からの称賛を送る他、できることはない。
いかにヴェロニカを大切に思っていたとしても、家柄も財産も人間性も、何もかもにおいて、ロスはアルベルトに劣っていた。勝負するでもなく勝敗は決まっているのだ。
「……そうか」
実に短く答える。それ以外、どう反応すればいいのか判断できなかった。
「アルベルトと一緒に国王陛下の前で証言するわ。わたしたち一家を陥れたのはシドニア・アルフォルトだって。怖くないわ。脅威は全て去ったもの」
「頑張れよ」
またしても短く返答した。
「おっと」と口を開いたのは今度はアルベルトだった。
「机の上の銃を、しまっておいてくれと言ったじゃないか。危ないし、もう必要ないだろう?」
アルベルトは銃を出しておくのが相当気にくわないらしい。あるいは、気にくわないのはロス本人か。
ヴェロニカが初めて気がついたように机の上の銃を見る。瞳がキラリと光ったような気がした。
それから、つかつかと歩み寄ってくる。
何をする気か、真意を図りかねて見守っていると、そのまま銃達を乱雑に机から全て床に落とした。ガシャリと音を立ててそれらは落ちる。幸いにして暴発などはしない。
「何をする! 危ないだろう!」
ロスが非難の声を上げるのは当然だったが、ヴェロニカはむしろ鼻で笑ったようだ。
「こんなもの、もういらないわ」
さらに言い返そうとしたところで胸ぐらを掴まれた。突然のこと、ロスは反応できなかった。視線が交差する。睨み付けるような彼女の強い瞳にはなんらかの意志が宿っていたが、ではそれがなんであるのか、考えはさっぱり読めない。
「皆を、頼んだわよ」
ぱっと服を放し微笑むヴェロニカに、微かな違和感を覚えながらもロスはただひどく曖昧に頷いた。
「今から王宮へ行ってきます」
主にカルロへ向けて、アルベルトが言った。
その隣のヴェロニカはすまし顔をしている。アルベルトの屋敷に置いてあったのか、上等な服を着て化粧をしているその姿は、初めて会った日に見たような立派なご令嬢だ。泥だらけで喚きながら走り回っていたなど考えられないほど。
「どのような証拠を突きつけるのですか?」
チェチーリアがアルベルトに尋ねる。
「二重帳簿だよ。領地経営やその他の事業だけじゃ手に入らないほどの莫大な金が、父の懐に入っていた。それを手に入れたんだ。グルーニャ家の古株の使用人も既に押さえている。父がグルーニャ家当主に度々金を渡し、ミーアを操っていたということを証言してくれる。それに……」
言葉を切った彼は、小さく頷きしっかりと答える。
「父は逃げた。それが動かぬ証拠だ」
しん、と部屋は静まり返る。この青年は、これから父を告発する。文句のつけようがない勇気ある行動だ。
皆思うところがあるのだろう、重い沈黙が漂った。
「ロス」
沈黙を破ったのは、ヴェロニカだった。急に名前を呼ばれたロスが見ると、静かな瞳がそこにあった。すまし顔のまま、きつい声を発する。
「あなたに未練はないわ。あなたがわたしに好意があると気づいた時、不思議ね、気持ちがすっかり冷めてしまったの。どうしてあそこまで執着していたのか今では分からない」
一同の視線が、ロスに集まる。疑問が確信へと変わっていく。
やはり森で、二人の間に何かがあった。しかし真正面から問いただす野暮なことをする人間も、またいなかった。彼女の隣のアルベルトを見る。なんとも思ってなさそうな顔でヴェロニカの言葉を聞いていた。
かつてアルベルトが命じたとき、ロスとて、本当にこの柔和そうな青年がシドニアに勝てると信じてるわけではなかった。理想主義だと思いつつも、面白いと感じ、彼の誘いに乗ったのだ。A国に嫌気が差していたのもある。
しかし結果として、アルベルトは見事それをほぼ完了しかけている。心からの称賛を送る他、できることはない。
いかにヴェロニカを大切に思っていたとしても、家柄も財産も人間性も、何もかもにおいて、ロスはアルベルトに劣っていた。勝負するでもなく勝敗は決まっているのだ。
「……そうか」
実に短く答える。それ以外、どう反応すればいいのか判断できなかった。
「アルベルトと一緒に国王陛下の前で証言するわ。わたしたち一家を陥れたのはシドニア・アルフォルトだって。怖くないわ。脅威は全て去ったもの」
「頑張れよ」
またしても短く返答した。
「おっと」と口を開いたのは今度はアルベルトだった。
「机の上の銃を、しまっておいてくれと言ったじゃないか。危ないし、もう必要ないだろう?」
アルベルトは銃を出しておくのが相当気にくわないらしい。あるいは、気にくわないのはロス本人か。
ヴェロニカが初めて気がついたように机の上の銃を見る。瞳がキラリと光ったような気がした。
それから、つかつかと歩み寄ってくる。
何をする気か、真意を図りかねて見守っていると、そのまま銃達を乱雑に机から全て床に落とした。ガシャリと音を立ててそれらは落ちる。幸いにして暴発などはしない。
「何をする! 危ないだろう!」
ロスが非難の声を上げるのは当然だったが、ヴェロニカはむしろ鼻で笑ったようだ。
「こんなもの、もういらないわ」
さらに言い返そうとしたところで胸ぐらを掴まれた。突然のこと、ロスは反応できなかった。視線が交差する。睨み付けるような彼女の強い瞳にはなんらかの意志が宿っていたが、ではそれがなんであるのか、考えはさっぱり読めない。
「皆を、頼んだわよ」
ぱっと服を放し微笑むヴェロニカに、微かな違和感を覚えながらもロスはただひどく曖昧に頷いた。
4
お気に入りに追加
332
あなたにおすすめの小説
【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです
大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。
「俺は子どもみたいな女は好きではない」
ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。
ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。
ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。
何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!?
貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。
英雄になった夫が妻子と帰還するそうです
白野佑奈
恋愛
初夜もなく戦場へ向かった夫。それから5年。
愛する彼の為に必死に留守を守ってきたけれど、戦場で『英雄』になった彼には、すでに妻子がいて、王命により離婚することに。
好きだからこそ王命に従うしかない。大人しく離縁して、実家の領地で暮らすことになったのに。
今、目の前にいる人は誰なのだろう?
ヤンデレ激愛系ヒーローと、周囲に翻弄される流され系ヒロインです。
珍しくもちょっとだけ切ない系を目指してみました(恥)
ざまぁが少々キツイので、※がついています。苦手な方はご注意下さい。
【完結】恋人との子を我が家の跡取りにする? 冗談も大概にして下さいませ
水月 潮
恋愛
侯爵家令嬢アイリーン・エヴァンスは遠縁の伯爵家令息のシリル・マイソンと婚約している。
ある日、シリルの恋人と名乗る女性・エイダ・バーク男爵家令嬢がエヴァンス侯爵邸を訪れた。
なんでも彼の子供が出来たから、シリルと別れてくれとのこと。
アイリーンはそれを承諾し、二人を追い返そうとするが、シリルとエイダはこの子を侯爵家の跡取りにして、アイリーンは侯爵家から出て行けというとんでもないことを主張する。
※設定は緩いので物語としてお楽しみ頂けたらと思います
☆HOTランキング20位(2021.6.21)
感謝です*.*
HOTランキング5位(2021.6.22)
婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。
待鳥園子
恋愛
婚約者が病弱な妹を見掛けて一目惚れし、私と婚約者を交換できないかと両親に聞いたらしい。
妹は清楚で可愛くて、しかも性格も良くて素直で可愛い。私が男でも、私よりもあの子が良いと、きっと思ってしまうはず。
……これは、二人は悪くない。仕方ないこと。
けど、二人の邪魔者になるくらいなら、私が家出します!
自覚のない純粋培養貴族令嬢が腹黒策士な護衛騎士に囚われて何があっても抜け出せないほどに溺愛される話。
婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた
cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。
お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。
婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。
過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。
ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。
婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。
明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。
「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。
そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。
茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。
幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。
「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?!
★↑例の如く恐ろしく省略してます。
★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。
★コメントの返信は遅いです。
★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません
【完結】そんなに側妃を愛しているなら邪魔者のわたしは消えることにします。
たろ
恋愛
わたしの愛する人の隣には、わたしではない人がいる。………彼の横で彼を見て微笑んでいた。
わたしはそれを遠くからそっと見て、視線を逸らした。
ううん、もう見るのも嫌だった。
結婚して1年を過ぎた。
政略結婚でも、結婚してしまえばお互い寄り添い大事にして暮らしていけるだろうと思っていた。
なのに彼は婚約してからも結婚してからもわたしを見ない。
見ようとしない。
わたしたち夫婦には子どもが出来なかった。
義両親からの期待というプレッシャーにわたしは心が折れそうになった。
わたしは彼の姿を見るのも嫌で彼との時間を拒否するようになってしまった。
そして彼は側室を迎えた。
拗れた殿下が妻のオリエを愛する話です。
ただそれがオリエに伝わることは……
とても設定はゆるいお話です。
短編から長編へ変更しました。
すみません
妹に魅了された婚約者の王太子に顔を斬られ追放された公爵令嬢は辺境でスローライフを楽しむ。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
マクリントック公爵家の長女カチュアは、婚約者だった王太子に斬られ、顔に醜い傷を受けてしまった。王妃の座を狙う妹が王太子を魅了して操っていたのだ。カチュアは顔の傷を治してももらえず、身一つで辺境に追放されてしまった。
妹に婚約者を寝取られましたが、私には不必要なのでどうぞご自由に。
酒本 アズサ
恋愛
伯爵家の長女で跡取り娘だった私。
いつもなら朝からうるさい異母妹の部屋を訪れると、そこには私の婚約者と裸で寝ている異母妹。
どうやら私から奪い取るのが目的だったようだけれど、今回の事は私にとって渡りに舟だったのよね。
婚約者という足かせから解放されて、侯爵家の母の実家へ養女として迎えられる事に。
これまで母の実家から受けていた援助も、私がいなくなれば当然なくなりますから頑張ってください。
面倒な家族から解放されて、私幸せになります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる