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第4章 陰謀、逆襲、リバイバル
間違ってても関係ないのですわ!
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ヴェロニカが愛を伝えても、しかし、彼はあまりにもそっけない。
「知ってるか、誘拐犯と恋に落ちることがあるんだと。自分を守るために、被害者は犯人と心理的つながりを持とうとするんだ。そいつの許可がなければ生きることもままならないから」
「そんなんじゃないわ」
ロスが何を言おうとしているか分かる。ヴェロニカは言い返すが、聞こえていなかったかのように彼は続ける。
「ああ、俺のせいだな。お前を扱いやすくするために、最初に命を預かると言ったんだった。だからお前は、生き延びるために俺に好意的になるしかなかった。そう自分を責めるな。おかしなことじゃない。生存本能として備わってる、ごく自然な現象だ。だが、勘違いするな、それは愛じゃない」
「……そんなんじゃないわ」
「じゃあ吊り橋効果だ。緊張を恋の……これは前も言ったか?」
「そんなんじゃない!」
我慢できず叫んだ。また銃弾が近くをかすめる。ロスはわざと突き放すような事を言っていると感じる。その無機質な横顔には、愛情の欠片すら滲ませてはくれない。それがいかにもわざとらしく嘘くさいと思った。
ヴェロニカの言葉は止まらない。
「そんなんじゃないわ! あなただって、本当は気づいているんでしょう!? だって触れるだけで、こんなに心臓がときめくんですもの。死んでしまいそうなくらいドキドキするのよ! それがなに!? 生存本能!? 勘違い!? そうじゃないわ。あなたのことが好きだからよ! これを愛と呼ばずに何というの!?」
ロスは黙る。思案しているようだった。次に口を開いたとき、きっとヴェロニカをやり込めようと何かを言ってくるのは知っている。だから隙を与えぬまま次の言葉を言わねばと口を出たのは、子供が言いそうな罵りだった。
「結局、あなたは怖いのよ! 怖がり! 臆病者!」
「いかにも俺は臆病者だ。だから生きてこれた」
ロスは努めて冷静に振る舞うことに決めたようだ。まともに相手にしない。これではこちらが駄々っ子のようだ。
「蛇のような男ね! だけどわたしにはあなたの気持ちが分かってるわ」
ヴェロニカは一発、敵に銃弾をくれた後、ロスに銃を向けて構えた。
「……素直になるチャンスをあげる」
「脅しのつもりか」
苦笑はしたが、しかしロスは本音のひとかけらとも思えることを言った。
「俺は、きっとお前から何もかも奪ってしまう。気高さも、美しさも、命も……」
それから、ようやくヴェロニカに顔を向けた。意外なことに怒ってはおらず、ただその黒い瞳が柔らかにヴェロニカを見つめ返す。
しかし瞳に宿る感情を否定するが如く、口調は厳しかった。
「俺じゃない。俺じゃないんだ。間違えるなヴェロニカ」
その態度はやはり気にくわない。
だがやっと、彼は話す気になったようだ。ヴェロニカはずい、と顔を更に近づけて、それからぴしゃりと言った。
「おだまり! 何が正しくて間違っているのか、決めるのはわたしよ! 誰になんと言われようとも、わたしは強い。わたしは美しい。わたしは生きてる! たとえ全部あなたに捧げたって、だからって何一つ奪えるものですか! だって内側から、無限にあふれ出てくるのよ。真の淑女というものは、誰かに幸せにして貰うんじゃない。自分で自分を幸せにするものよ!」
それから今度は銃を兵士に向けて引き金を引く。乾いた音の先で、人のうめき声が聞こえた。ロスも撃つ。顔はこちらに向いていた。
「……銃なんぞぶっ放して、本当に淑女かよ」
ヴェロニカは知っていた。人の感情は言葉ではなく、その態度に現れるものだと。いつだってロスがヴェロニカを見つめる目には、そっと触れる手には、発せられる声色には、それが宿っていると、とっくの昔に気がついていたのだ。
ついにロスの片手がヴェロニカの背に触れ、そのまま更に引き寄せられる。二人の顔は近い。照れを隠すように、ヴェロニカは言った。
「そういえば、わたし、髪の毛切ったのよ」
「ああ」
ロスはその髪を撫でる。それがたまらなく嬉しい。
「あなたも切ったのね」
「ああ」
「わたしの真似でしょ?」
「ああ……いや、違う」
「似合ってるわ。野暮ったさが少し抜けたもの」
「そりゃどうも」
言いながら、ロスは更にヴェロニカを側に寄せる。顔が迫る。
鼻先が触れた瞬間に、彼が何をしようとしているか悟ったヴェロニカはそっと目を閉じた。夜で良かった。赤い顔を見られずにすむのだから。
「知ってるか、誘拐犯と恋に落ちることがあるんだと。自分を守るために、被害者は犯人と心理的つながりを持とうとするんだ。そいつの許可がなければ生きることもままならないから」
「そんなんじゃないわ」
ロスが何を言おうとしているか分かる。ヴェロニカは言い返すが、聞こえていなかったかのように彼は続ける。
「ああ、俺のせいだな。お前を扱いやすくするために、最初に命を預かると言ったんだった。だからお前は、生き延びるために俺に好意的になるしかなかった。そう自分を責めるな。おかしなことじゃない。生存本能として備わってる、ごく自然な現象だ。だが、勘違いするな、それは愛じゃない」
「……そんなんじゃないわ」
「じゃあ吊り橋効果だ。緊張を恋の……これは前も言ったか?」
「そんなんじゃない!」
我慢できず叫んだ。また銃弾が近くをかすめる。ロスはわざと突き放すような事を言っていると感じる。その無機質な横顔には、愛情の欠片すら滲ませてはくれない。それがいかにもわざとらしく嘘くさいと思った。
ヴェロニカの言葉は止まらない。
「そんなんじゃないわ! あなただって、本当は気づいているんでしょう!? だって触れるだけで、こんなに心臓がときめくんですもの。死んでしまいそうなくらいドキドキするのよ! それがなに!? 生存本能!? 勘違い!? そうじゃないわ。あなたのことが好きだからよ! これを愛と呼ばずに何というの!?」
ロスは黙る。思案しているようだった。次に口を開いたとき、きっとヴェロニカをやり込めようと何かを言ってくるのは知っている。だから隙を与えぬまま次の言葉を言わねばと口を出たのは、子供が言いそうな罵りだった。
「結局、あなたは怖いのよ! 怖がり! 臆病者!」
「いかにも俺は臆病者だ。だから生きてこれた」
ロスは努めて冷静に振る舞うことに決めたようだ。まともに相手にしない。これではこちらが駄々っ子のようだ。
「蛇のような男ね! だけどわたしにはあなたの気持ちが分かってるわ」
ヴェロニカは一発、敵に銃弾をくれた後、ロスに銃を向けて構えた。
「……素直になるチャンスをあげる」
「脅しのつもりか」
苦笑はしたが、しかしロスは本音のひとかけらとも思えることを言った。
「俺は、きっとお前から何もかも奪ってしまう。気高さも、美しさも、命も……」
それから、ようやくヴェロニカに顔を向けた。意外なことに怒ってはおらず、ただその黒い瞳が柔らかにヴェロニカを見つめ返す。
しかし瞳に宿る感情を否定するが如く、口調は厳しかった。
「俺じゃない。俺じゃないんだ。間違えるなヴェロニカ」
その態度はやはり気にくわない。
だがやっと、彼は話す気になったようだ。ヴェロニカはずい、と顔を更に近づけて、それからぴしゃりと言った。
「おだまり! 何が正しくて間違っているのか、決めるのはわたしよ! 誰になんと言われようとも、わたしは強い。わたしは美しい。わたしは生きてる! たとえ全部あなたに捧げたって、だからって何一つ奪えるものですか! だって内側から、無限にあふれ出てくるのよ。真の淑女というものは、誰かに幸せにして貰うんじゃない。自分で自分を幸せにするものよ!」
それから今度は銃を兵士に向けて引き金を引く。乾いた音の先で、人のうめき声が聞こえた。ロスも撃つ。顔はこちらに向いていた。
「……銃なんぞぶっ放して、本当に淑女かよ」
ヴェロニカは知っていた。人の感情は言葉ではなく、その態度に現れるものだと。いつだってロスがヴェロニカを見つめる目には、そっと触れる手には、発せられる声色には、それが宿っていると、とっくの昔に気がついていたのだ。
ついにロスの片手がヴェロニカの背に触れ、そのまま更に引き寄せられる。二人の顔は近い。照れを隠すように、ヴェロニカは言った。
「そういえば、わたし、髪の毛切ったのよ」
「ああ」
ロスはその髪を撫でる。それがたまらなく嬉しい。
「あなたも切ったのね」
「ああ」
「わたしの真似でしょ?」
「ああ……いや、違う」
「似合ってるわ。野暮ったさが少し抜けたもの」
「そりゃどうも」
言いながら、ロスは更にヴェロニカを側に寄せる。顔が迫る。
鼻先が触れた瞬間に、彼が何をしようとしているか悟ったヴェロニカはそっと目を閉じた。夜で良かった。赤い顔を見られずにすむのだから。
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