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第4章 陰謀、逆襲、リバイバル
譲れない意地があるのですわ!
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「何してる! お前は撃たなくていい!」
久しぶりに会ったというのに、ロスは感慨に更けるでも、感動するでもなくただただヴェロニカを叱りつける。それにヴェロニカは憤慨した。
「いいえ、撃つわ! あなたね、馬鹿じゃないの!?」
B国から決死の覚悟で国境を越え、冬の雪山で命の危機に何度も脅かされ、やっと見えた王都の街明かりにほっとしたのもつかの間、聞こえた激しい銃声を不穏に思い、覚悟を決めてやってきたのに、久しぶりの会話で怒鳴られるなど――ヴェロニカが見過ごすはずがない。当然、怒る。
「わたしを何もできないか弱い女の子だと思わないで!」
「お前のどこがか弱いんだよ!」
「わたしだって命に危険が迫れば、迷いなく撃つわ! 相手がわたしを殺す気ならね!」
言葉どおりまた撃った。ヴェロニカの銃の腕は比べ物にならないほど上がっている。兵士達は隙間なく銃弾を浴びせてくる。いつかあったような光景だ。森で襲われたときだ。
あの時はまだ守られるだけだった。だが今はこうして横で戦える。
なのにどうか、この男はそれを喜ぶどころか邪険に扱ってくる。あれだけ彼を大切だ、愛おしかったと思っていたが、いざ実物を目の前にするとふつふつと沸き上がるのは怒りだった。
「よくもわたしをB国に捨てたわね!」
兵士に向け撃つ。撃ち返される。が、彼らもそれなりの距離を取っている。こちら側に撃つ者が増えたと知り、警戒しているようだ。
「捨てたんじゃない、安全な場所に避難させたんだ」
「安全!? わたしB国で向こうのオトコたちにあんな目やこんな目にあわされたわ!」
そこで初めてロスはヴェロニカを見た。驚いた表情をしている。それをやや愉快に思った。
「あーら心配した? 嘘に決まってるじゃない! 皆紳士だったわ! あなたと違ってね!」
「いらつく女だ」
舌打ちとともにロスが言う。彼にも余裕がないのか、いつにも増して口が悪い。
「それに、何よこれは。もしかしてお父様を逃がそうとしてくれてたわけ!?」
ロスは黙ったままだ。
「あなたって、案外計画性がないタイプよね? こんなピンチになるなんて」
「大抵は上手くいくんだ。気が散るからいい加減静かにしてくれ」
「でも感謝することね。わたしが助けに来たんだから」
「あのな、俺がなんのために」
言い返そうとロスがヴェロニカに頭を近づけた瞬間、ヴェロニカはその頭を掴み地面に押しつけた。ロスの頭があった場所を銃弾が飛んでいく。もし避けなければ、ロスの命はなかっただろう。
「いいこと!? わたしとあなたの関係は対等よ! もっとわたしに敬意を払いなさい! 今わたしがいなかったら、あなたは死んでたわ。いい加減認めなさい、あなたには、わたしが必要だってことを!」
怒鳴りつけられたロスの目にはほんのわずか怒りが宿った。彼はヴェロニカの両肩を掴むと思い切り自分の側に引き寄せ抱き締める。その瞬間、ヴェロニカの心臓は大きく弾み、そして沸いていた怒りが消え去るのを感じた。
刹那、ヴェロニカのいた場所を銃弾がかすめる。危機一髪、命が助かったようだ。
「これでおあいこだ」
勝ち誇ったかのように言うと、ロスはヴェロニカの体を離した。一つの大木の陰で銃弾から隠れる二人の距離は先ほどよりも格段に近い。
やや冷静になったヴェロニカは、しかしため息を抑えきれない。
「あなたって、本当に意地っ張りよね」
「どちらかって言うと、お前の方がそうだと思うが」
どこまでも互いに譲らない平行線の言い合いに、思わず二人で笑ってしまった。ロスの目尻が下がるのを、至近距離で確認する。
銃声と銃弾の勢いから、兵士達が先ほどよりも近づいて来ているのを感じる。そちらに銃先と目線を向けながらも、意識はもう一方に向いていた。
久しぶりに会ったというのに、ロスは感慨に更けるでも、感動するでもなくただただヴェロニカを叱りつける。それにヴェロニカは憤慨した。
「いいえ、撃つわ! あなたね、馬鹿じゃないの!?」
B国から決死の覚悟で国境を越え、冬の雪山で命の危機に何度も脅かされ、やっと見えた王都の街明かりにほっとしたのもつかの間、聞こえた激しい銃声を不穏に思い、覚悟を決めてやってきたのに、久しぶりの会話で怒鳴られるなど――ヴェロニカが見過ごすはずがない。当然、怒る。
「わたしを何もできないか弱い女の子だと思わないで!」
「お前のどこがか弱いんだよ!」
「わたしだって命に危険が迫れば、迷いなく撃つわ! 相手がわたしを殺す気ならね!」
言葉どおりまた撃った。ヴェロニカの銃の腕は比べ物にならないほど上がっている。兵士達は隙間なく銃弾を浴びせてくる。いつかあったような光景だ。森で襲われたときだ。
あの時はまだ守られるだけだった。だが今はこうして横で戦える。
なのにどうか、この男はそれを喜ぶどころか邪険に扱ってくる。あれだけ彼を大切だ、愛おしかったと思っていたが、いざ実物を目の前にするとふつふつと沸き上がるのは怒りだった。
「よくもわたしをB国に捨てたわね!」
兵士に向け撃つ。撃ち返される。が、彼らもそれなりの距離を取っている。こちら側に撃つ者が増えたと知り、警戒しているようだ。
「捨てたんじゃない、安全な場所に避難させたんだ」
「安全!? わたしB国で向こうのオトコたちにあんな目やこんな目にあわされたわ!」
そこで初めてロスはヴェロニカを見た。驚いた表情をしている。それをやや愉快に思った。
「あーら心配した? 嘘に決まってるじゃない! 皆紳士だったわ! あなたと違ってね!」
「いらつく女だ」
舌打ちとともにロスが言う。彼にも余裕がないのか、いつにも増して口が悪い。
「それに、何よこれは。もしかしてお父様を逃がそうとしてくれてたわけ!?」
ロスは黙ったままだ。
「あなたって、案外計画性がないタイプよね? こんなピンチになるなんて」
「大抵は上手くいくんだ。気が散るからいい加減静かにしてくれ」
「でも感謝することね。わたしが助けに来たんだから」
「あのな、俺がなんのために」
言い返そうとロスがヴェロニカに頭を近づけた瞬間、ヴェロニカはその頭を掴み地面に押しつけた。ロスの頭があった場所を銃弾が飛んでいく。もし避けなければ、ロスの命はなかっただろう。
「いいこと!? わたしとあなたの関係は対等よ! もっとわたしに敬意を払いなさい! 今わたしがいなかったら、あなたは死んでたわ。いい加減認めなさい、あなたには、わたしが必要だってことを!」
怒鳴りつけられたロスの目にはほんのわずか怒りが宿った。彼はヴェロニカの両肩を掴むと思い切り自分の側に引き寄せ抱き締める。その瞬間、ヴェロニカの心臓は大きく弾み、そして沸いていた怒りが消え去るのを感じた。
刹那、ヴェロニカのいた場所を銃弾がかすめる。危機一髪、命が助かったようだ。
「これでおあいこだ」
勝ち誇ったかのように言うと、ロスはヴェロニカの体を離した。一つの大木の陰で銃弾から隠れる二人の距離は先ほどよりも格段に近い。
やや冷静になったヴェロニカは、しかしため息を抑えきれない。
「あなたって、本当に意地っ張りよね」
「どちらかって言うと、お前の方がそうだと思うが」
どこまでも互いに譲らない平行線の言い合いに、思わず二人で笑ってしまった。ロスの目尻が下がるのを、至近距離で確認する。
銃声と銃弾の勢いから、兵士達が先ほどよりも近づいて来ているのを感じる。そちらに銃先と目線を向けながらも、意識はもう一方に向いていた。
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