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第3章 望郷、邂逅、アセンブル

拷問って痛そうですわ!

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 ロスはA国王都にてを受けていた。殺すな、とでも命じられているのか命まで奪われることはなかったが、逆に言えば、それ以外ならされたということだ。

 拷問の邪魔になったのか、あるいは囚人だと知らしめるためか、長髪は短く切られた。別に構わない。ポリシーがあって伸ばしていたわけではない。ただ、生えてくるものを放置していただけだ。

 兵士に混じり、ある人物がロスの前に現れる。それはヴェロニカ暗殺を命じた人物だ。高そうな生地の服を品良く着こなす男。彼の前に跪かされる。

「貴様の独断で、あの娘を助けた訳ではあるまい」

 男は静かに問う。
 しっかりとした口調で言うところを見ると、それなりの事実は掴んでいるらしい。だが、最も重要な部分が判明せずにいるに違いない。誰が彼を裏切ったのか、という部分だ。

 この人物は自分の邪魔になると判断したものを、徹底的に叩き潰してきた。今回の場合は、クオーレツィオーネ家だ。当主カルロを反逆罪で死罪にし、娘二人も始末するつもりだったのだろう。チェチーリアは目の届く修道院に置き、頃合いを見る気だったに違いない。
 ヴェロニカの場合はより簡単だったはずだ。家にいる時を狙えばよい。しかし、彼女は逃げ出した。それを恐らくエリザから聞き出したこの人物は、即座にロス率いる一隊にヴェロニカの暗殺を命じたのだ。

 ヴェロニカを生かすことは、単に娘を助けるだけの意味を持つのではない。彼女が生き延びれば、クオーレツィオーネ家がいつか再興し、いずれこの人物にとって脅威になるであろうことを意味していた。そしてヴェロニカを助けた者がいるということは、この人物に近い場所に、彼に害をなす者がいるということだ。
 ロスだけが、その害をなす者を知っている。

「誰が命じた?」

 冷たい瞳が向けられる。汚物を見るような――。
 内心苦笑する。貴族が自分を見る目はいつもこうだ。大勢殺したロスを、恐れるか、侮蔑する。

 お前たちの方が、人を殺しているというのに。ただ指先で命じるだけだから実感がないだけだ。血塗られているのは一体どっちだ。

(俺の方がまだ人間くさい)

 対面して、きっちり死に顔を見てやってるんだから。
 答えずに黙っていると、抑えつける兵士たちによって無理矢理頭を上げさせられた。その人物と目が合う。冷ややかな瞳だった。ロスは笑った。真面目に答えてやる気などさらさらない。

「……独断さ、美人だったからな。つい下心が出たんだ」

 途端腹に、鋭い革靴の先端がめり込む。痛みが襲うが、誰が命じたかも、ヴェロニカが今どこにいるのかもロスは口を割らなかった。彼女はA国人が決して手出しをできない場所にいる。あの気高い女が、こんなゴミだめのような国にいる必要は無い。

 ロスに蹴りを入れたその人物はハンカチを取り出すと、まるで汚泥を拭うように革靴を拭き、そしてハンカチを持っているのも耐えられない、というように床に捨てた。

「吐くまで続きをやれ、死んだらもう、それまでだ」

 そう言って、彼は去った。兵士たちはロスにまた続きをする。

(クソが。全員、顔覚えたからな)

 ……ここを出たら、順番に殺してやる。


 *


 夜の森で、ヴェロニカがロスを抱いていた。その温かな体に触れていると、なお離れがたく……。

 耳元で彼女が囁く。

 ――わたしが怖いの? かわいい人ね。

 聖母のような柔和な表情。
 抱かれているのは、気がつけば自分ではない。
 だ。あの時心臓を取り出した、あいつだ。
 
 二人分の目が自分を見つめる。
 神など知らない。
 しかし、その目は、まるでそれではないか。
 その目が、告げる。

 “お前がやるべき事を、やれ”
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