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ヒロインの転落
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「ルーシー・アンダーソン公爵令嬢、私第一王子レナード・フェリスは、ここに貴殿との婚約を破棄し、新たにここにいるマロワ男爵令嬢、エリカとの婚約を宣言する!」
卒業パーティーの最中、突然高らかに宣言された第一王子のご乱心に会場は、沈黙した。
第一王子レナードは、腕に婚約者ではない女性を抱きしめていて、昨今市井で人気の恋愛小説に倣い、このような劇を引き起こしたと思われた。
皆が戸惑いの表情を見せる中、毅然とした態度を貫いたのは、王子の婚約者であり、今正に破棄されようとしている婚約者の公爵令嬢、ルーシー。
「婚約破棄の件、承知いたしました。」
あっさり言い放ち、綺麗なカーテシーの後、会場を後にする。
第一王子レナードは拍子抜けした顔をしたが、特に止めることはなく、胸に抱いた男爵令嬢を愛でている。
その後、何もなかったかのように、卒業パーティーは進み、勝利の美酒に酔った王子らは、パーティー後王子の自室で、すっかり眠ってしまったのだった。
目覚めたのは、エリカが先だった。寝床がガタガタ音を立てており、全身が酷い揺れで悲鳴をあげていた。
(何……ここどこ?)
手足を縛られた状態で、大きな麻の袋に入れられている。外の様子はわからないが、舗装のされていない道を、馬車が通っているのか、昨日飲んだお酒の力も相まって、気持ち悪さに吐きそうになる。
口も塞がれていて、呼吸はできるが、うー、とかあーとか、しか話せない。
昨日の記憶を思い出してみるが、エリカは、王子レナードの自室で、明日の妃を夢見て眠っていた筈だ。
混乱した状態でいると、目的地についたのか、馬車が止まった。
袋が開けられ、屈強な男の顔が見える。
(あ、あれはアレックス!もしかして、助けに来てくれたの?)
アレックス・シュナイダーは、公爵家の次男で、騎士団では副団長にあたり、レナードの側近だった。
エリカは何らかの事件に巻き込まれ、それを彼が助けてくれたのか、と思った。だが、それは間違いだった。
「降ろせ。」
誰かの声と共に乱暴に麻袋が捨てられる。麻袋は他にも一つあって、その中から男性の呻き声が聞こえた。
拘束された縄を解き、話せる様になったエリカは、自分が着ているものに気づき、目を丸くした。
昨日までの綺麗なドレスではなく、ボロボロの布を纏っただけの格好をさせられている。
「アレックス、これはどう言うこと?」
彼はその呼びかけに答えず、もう一つの麻袋から、男性を出し、一方的に告げた。
「お前たちは、公爵令嬢に不敬を働き、虚偽の申告をしたとして、罪人になった。国外追放の刑となるので、出て行ってもらう。これは少しばかりのお金だ。大切に使え。」
渡されたのはほんの少しの銀貨。これで、どうやって過ごせと言うの?
「陛下から伝言だ。お前達の結婚は認められたが、離縁することは許さない。以上だ。達者で暮らせ。」
言うだけ言って、馬車で去っていく彼らを呆然と見送ったエリカは、隣の薄汚い男を盗み見た。
同じくぼろを纏う男に面識はない。一体この男は誰なんだろう。私のレナードはどこに行ったのだろう。
エリカと目があった男は嬉しそうに笑う。
(気持ち悪い)
「名前は?」
「レナードだよ。私の奥さん。」
「はあ?冗談言わないで。」
エリカへの当て付けか。彼は自身をレナードだと言い、自分が夫だと主張する。
(頭がおかしいんじゃない?)
エリカは何故こんなことになっているのか皆目見当がつかない。
だってどう考えてもこの男に会ったことはないからだ。
(レナード……私の王子様、どこにいるの。早く助けに来て。)
見知らぬ場所で、見知らぬ男と放り出され、エリカは途方にくれた。
「ねえ、わかっていることを教えてくれない?私のレナードはどこにいるの?私が愛したのは王子様のレナードであって、ただのレナードではないの!」
ただのレナードは俯いた。エリカにとって残酷な事実を突きつける。
「君には申し訳ないことをした。もう二度と王子様のレナードには会えないんだ。ただのレナードしかいない。君は私と生きていくしかないんだ。」
エリカに向けて、右腕を突き出し、魔道具に触れる。
「もし、君が王子ではないただのレナードを受け入れてくれるなら、この魔道具に触れて魔力を流して欲しいんだ。先着一名だけに、この魔法を使う制限がかけられている。私はその相手を君にしたいんだ。」
エリカは意味がわからない。魔法や魔道具についての授業をちゃんと聞いていなかったのだから、理解できる筈もない。
「王子のレナードには会えないけれど、愛するレナードには会えるよ。」
エリカにそう言って誑かそうとする男は、今までのレナードとは似ても似つかない。
卒業パーティーの最中、突然高らかに宣言された第一王子のご乱心に会場は、沈黙した。
第一王子レナードは、腕に婚約者ではない女性を抱きしめていて、昨今市井で人気の恋愛小説に倣い、このような劇を引き起こしたと思われた。
皆が戸惑いの表情を見せる中、毅然とした態度を貫いたのは、王子の婚約者であり、今正に破棄されようとしている婚約者の公爵令嬢、ルーシー。
「婚約破棄の件、承知いたしました。」
あっさり言い放ち、綺麗なカーテシーの後、会場を後にする。
第一王子レナードは拍子抜けした顔をしたが、特に止めることはなく、胸に抱いた男爵令嬢を愛でている。
その後、何もなかったかのように、卒業パーティーは進み、勝利の美酒に酔った王子らは、パーティー後王子の自室で、すっかり眠ってしまったのだった。
目覚めたのは、エリカが先だった。寝床がガタガタ音を立てており、全身が酷い揺れで悲鳴をあげていた。
(何……ここどこ?)
手足を縛られた状態で、大きな麻の袋に入れられている。外の様子はわからないが、舗装のされていない道を、馬車が通っているのか、昨日飲んだお酒の力も相まって、気持ち悪さに吐きそうになる。
口も塞がれていて、呼吸はできるが、うー、とかあーとか、しか話せない。
昨日の記憶を思い出してみるが、エリカは、王子レナードの自室で、明日の妃を夢見て眠っていた筈だ。
混乱した状態でいると、目的地についたのか、馬車が止まった。
袋が開けられ、屈強な男の顔が見える。
(あ、あれはアレックス!もしかして、助けに来てくれたの?)
アレックス・シュナイダーは、公爵家の次男で、騎士団では副団長にあたり、レナードの側近だった。
エリカは何らかの事件に巻き込まれ、それを彼が助けてくれたのか、と思った。だが、それは間違いだった。
「降ろせ。」
誰かの声と共に乱暴に麻袋が捨てられる。麻袋は他にも一つあって、その中から男性の呻き声が聞こえた。
拘束された縄を解き、話せる様になったエリカは、自分が着ているものに気づき、目を丸くした。
昨日までの綺麗なドレスではなく、ボロボロの布を纏っただけの格好をさせられている。
「アレックス、これはどう言うこと?」
彼はその呼びかけに答えず、もう一つの麻袋から、男性を出し、一方的に告げた。
「お前たちは、公爵令嬢に不敬を働き、虚偽の申告をしたとして、罪人になった。国外追放の刑となるので、出て行ってもらう。これは少しばかりのお金だ。大切に使え。」
渡されたのはほんの少しの銀貨。これで、どうやって過ごせと言うの?
「陛下から伝言だ。お前達の結婚は認められたが、離縁することは許さない。以上だ。達者で暮らせ。」
言うだけ言って、馬車で去っていく彼らを呆然と見送ったエリカは、隣の薄汚い男を盗み見た。
同じくぼろを纏う男に面識はない。一体この男は誰なんだろう。私のレナードはどこに行ったのだろう。
エリカと目があった男は嬉しそうに笑う。
(気持ち悪い)
「名前は?」
「レナードだよ。私の奥さん。」
「はあ?冗談言わないで。」
エリカへの当て付けか。彼は自身をレナードだと言い、自分が夫だと主張する。
(頭がおかしいんじゃない?)
エリカは何故こんなことになっているのか皆目見当がつかない。
だってどう考えてもこの男に会ったことはないからだ。
(レナード……私の王子様、どこにいるの。早く助けに来て。)
見知らぬ場所で、見知らぬ男と放り出され、エリカは途方にくれた。
「ねえ、わかっていることを教えてくれない?私のレナードはどこにいるの?私が愛したのは王子様のレナードであって、ただのレナードではないの!」
ただのレナードは俯いた。エリカにとって残酷な事実を突きつける。
「君には申し訳ないことをした。もう二度と王子様のレナードには会えないんだ。ただのレナードしかいない。君は私と生きていくしかないんだ。」
エリカに向けて、右腕を突き出し、魔道具に触れる。
「もし、君が王子ではないただのレナードを受け入れてくれるなら、この魔道具に触れて魔力を流して欲しいんだ。先着一名だけに、この魔法を使う制限がかけられている。私はその相手を君にしたいんだ。」
エリカは意味がわからない。魔法や魔道具についての授業をちゃんと聞いていなかったのだから、理解できる筈もない。
「王子のレナードには会えないけれど、愛するレナードには会えるよ。」
エリカにそう言って誑かそうとする男は、今までのレナードとは似ても似つかない。
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