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良い奴

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トーナメントは予定通りに始まった。新人同士の戦いは見ていて、とてもハラハラした。昨夜に色々なことがあったのに、案外普通にしていることが我ながら不思議だった。それをいうなら、グレイもそうだ。あの後、フランクと少し話した後に、寝てしまった自分とは違い、最後まで残って後始末をしてくれたグレイは、朝早くからいつもの彼と変わりなく、まるで全てが夢だったような錯覚すら覚える。

それでも、フランクもルーナもニコルもいないこの場では自分達がしっかりする必要があり、喪失感などで立ち止まっている場合ではない、と理解している。

皆の試合を見ながら、ぼんやりしていたようで、グレイに心配されてしまっている。

新人達の中で一番人気のグリドは、順調に勝ち進んでいる。危なげない戦い方だったが、忙しい日が続いた為か少し疲れているようだ。これまで新人同士の交流はそんなになかったが、この前の一件からよく話すようになって、少しずつ彼らが成長しているようで、ホッとした。

新人がアネットと同じ年ぐらいになった時、自分を師と仰ぐ者はどれぐらいいるのだろう。グリドなどは、きっと口うるさい奴ぐらいしか思っていない気がする。そういう自分はどうだっただろう。他にも新人教育に携わった騎士はいただろうに、どうしてフランクをあれだけ慕うことが出来たのか。

「いつから、」

一体いつから?

「会った時からじゃないか。お前あの時皆に先生呼びしてたじゃないか。他の騎士達はやめてくれ、と言われてすぐに呼び名を改めたけれど、フランクだけは違った。先生呼びが良かったと言う訳じゃなくて、名前で呼ぶのを躊躇っただけ、だろ?名前呼びを躊躇った理由は聞くなよ?お前が一番わかってるだろ。」

グレイは心の中が読めるのかと思ったら、自分は随分と考えていることがわかりやすいらしい。

「フランクは、何も言わなかった。」
話をするわけでもない。ただ寂しそうな顔をして、彼は行ってしまった。

「何も言わないではなく、言えなかっただけじゃないか。なんて言うか、お前ら似てるんだよな。肝心なこと何も言わないくせに、周りをどんどん巻き込んでいくところとか。俺は正直、あの人がこのまま、居なくなって貰っても全然良いんだ。ただ、お前のその辛気臭い顔を見るのが続くのは勘弁してほしいぐらいで。

一番良いのは、お前があいつを吹っ切ることなんだけど。」

「吹っ切るなんて、できるかな。」

「人には誰だって、人に知られたくない過去の一つや二つあるだろ。あの人が隠そうとしているものを、何とか調べて暴かないことには、辛気臭い顔を続けることになるぞ。それでお前は良くても俺は嫌だ。だから、どうにかしろ。」

話しているうちにどんどん暴論になっていく、優しい男グレイに、苦笑しながら、自分でもその通りだなと思う。

アネットには知らないことが多すぎる。無知のままいられるのは幼い子供にのみ許されること。

「ねえ、今から酷いことを言うけどいい?」

グレイはこちらが言わない内から頷いて、「協力するよ。」と今まで聞いたことのない優しい声で返事をした。
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