17 / 44
敵か味方か
しおりを挟む
「どう思います?」
雨に降られた所為で熱を出した男爵令嬢の意識は一度戻った後、一言二言呟いて、また彼女は寝込んでしまった。侍女はつきっきりで看病しているが、うわ言で何度も、助けてくれた誰かの安否を確認するような言葉を発しているという。
「彼女が連れて行かれた先に騎士がいたと言うことね。多分、その人物が騎士服を着せて彼女を逃したのだと思うけれど。それって、どういうこと?」
「どこの所属かはわからないけれど、騎士がいたということだと思います。それが彼方に協力している者か、此方の側かわかりませんが、助けてくれたなら、此方側だと思いたいところですね。」
「彼女が着せられた騎士服は、サイズは男性用っぽいですね。しかもアネットよりも背が高い女性騎士は中々いませんから、女性騎士のふりをしていた男性騎士がいた、という認識でいいんじゃないですか?」
「それってつまり潜入捜査をしている騎士がいたってことでいいのかしら。」
騎士が内偵を行っているところには、軽々しく踏み入ってはいけないという暗黙の了解がある。
騎士同士は互いに認識がなくとも、仕草や行動から相手が騎士であると確実に理解するし、彼らと話をしようにも、その行動が、彼方側の邪魔になる未来しか見えないからだ。
「エミリアがこんな時、騎士のままだったら、彼女ほどうってつけの人材はいないのだけど。」
マリアが呟いたように、アネットも同じことを考えていたが、それはそれ。きっとエミリアに頼んだところで彼女が此方の希望通りに動いてくれる保証もない。
「いえ、あのエミリアですよ?彼女は何も知らないままでいて貰う方が良いと思います。下手に教えて暴れられたら、折角のチャンスをフイにしてしまうと思うんです。」
「確かに、それはそうね。とりあえずその騎士服の持ち主を調べられる?騎士の制服に詳しい人……団長、わかる?」
「……多分、これ、南の辺境伯領の、どっかの騎士服だと思う。ここの紋章に見覚えがあるんだ。この花が多分百合か何か何だが、その地方にしか咲かない種類の花だったような、そんな話を聞いた気がするんだ。」
団長であるロクセル侯爵家の三男坊マイクは、幼い頃、騎士服マニアと呼ばれていた知識を惜しげもなく晒した。昔の記憶すぎて、詳細は忘れてしまっていたが。
「南の辺境伯領内で、この百合が咲いている地方は、多分、ここね。この辺りにいる騎士団は、二つ。ルートス伯爵家が管理する騎士団と、サバン侯爵家が有する騎士団。どちらかの騎士があの場にいたということで話を進めましょう。」
「いや、多分サバン侯爵家だ。」
さっきは口を濁した団長が、やけにはっきりと口にした名前は、アネットにも覚えがある。
「あの、新しい婦人、居たじゃないですか。あのエミリアとのお見合いの話を持ってきたご婦人。あのご婦人を調べたところサバン侯爵家のご出身でした。辺境騎士とは再婚です。結婚してからずっと王都に住んでいますが、最近生家のサバン侯爵家とよく連絡をとっているようです。」
「ならば騎士は、彼女の護衛か監視か。此方はエミリアに監視をする方向で、行きましょうか。それなら彼方からの追及もうまく躱せると思うんですがどうですか、団長。」
ニコルは副団長に任命される前から、さっさと重大なことを決めてしまうことが多かった。じっくり考える団長とは少し足並みが揃わない気もしたが、案外うまくいっているようで安堵した。
「それでいい。」
あくまでも私達の狙いはエミリアで。だから内偵の邪魔はしてません、と言い張るつもりらしい。
潜入は案の定、新人騎士が行くことになった。彼女達以外は皆育ちすぎていて、女性のフリができなかったのだ。アネットは顔がバレているから駄目で蚊帳の外からサポートすることになった。
雨に降られた所為で熱を出した男爵令嬢の意識は一度戻った後、一言二言呟いて、また彼女は寝込んでしまった。侍女はつきっきりで看病しているが、うわ言で何度も、助けてくれた誰かの安否を確認するような言葉を発しているという。
「彼女が連れて行かれた先に騎士がいたと言うことね。多分、その人物が騎士服を着せて彼女を逃したのだと思うけれど。それって、どういうこと?」
「どこの所属かはわからないけれど、騎士がいたということだと思います。それが彼方に協力している者か、此方の側かわかりませんが、助けてくれたなら、此方側だと思いたいところですね。」
「彼女が着せられた騎士服は、サイズは男性用っぽいですね。しかもアネットよりも背が高い女性騎士は中々いませんから、女性騎士のふりをしていた男性騎士がいた、という認識でいいんじゃないですか?」
「それってつまり潜入捜査をしている騎士がいたってことでいいのかしら。」
騎士が内偵を行っているところには、軽々しく踏み入ってはいけないという暗黙の了解がある。
騎士同士は互いに認識がなくとも、仕草や行動から相手が騎士であると確実に理解するし、彼らと話をしようにも、その行動が、彼方側の邪魔になる未来しか見えないからだ。
「エミリアがこんな時、騎士のままだったら、彼女ほどうってつけの人材はいないのだけど。」
マリアが呟いたように、アネットも同じことを考えていたが、それはそれ。きっとエミリアに頼んだところで彼女が此方の希望通りに動いてくれる保証もない。
「いえ、あのエミリアですよ?彼女は何も知らないままでいて貰う方が良いと思います。下手に教えて暴れられたら、折角のチャンスをフイにしてしまうと思うんです。」
「確かに、それはそうね。とりあえずその騎士服の持ち主を調べられる?騎士の制服に詳しい人……団長、わかる?」
「……多分、これ、南の辺境伯領の、どっかの騎士服だと思う。ここの紋章に見覚えがあるんだ。この花が多分百合か何か何だが、その地方にしか咲かない種類の花だったような、そんな話を聞いた気がするんだ。」
団長であるロクセル侯爵家の三男坊マイクは、幼い頃、騎士服マニアと呼ばれていた知識を惜しげもなく晒した。昔の記憶すぎて、詳細は忘れてしまっていたが。
「南の辺境伯領内で、この百合が咲いている地方は、多分、ここね。この辺りにいる騎士団は、二つ。ルートス伯爵家が管理する騎士団と、サバン侯爵家が有する騎士団。どちらかの騎士があの場にいたということで話を進めましょう。」
「いや、多分サバン侯爵家だ。」
さっきは口を濁した団長が、やけにはっきりと口にした名前は、アネットにも覚えがある。
「あの、新しい婦人、居たじゃないですか。あのエミリアとのお見合いの話を持ってきたご婦人。あのご婦人を調べたところサバン侯爵家のご出身でした。辺境騎士とは再婚です。結婚してからずっと王都に住んでいますが、最近生家のサバン侯爵家とよく連絡をとっているようです。」
「ならば騎士は、彼女の護衛か監視か。此方はエミリアに監視をする方向で、行きましょうか。それなら彼方からの追及もうまく躱せると思うんですがどうですか、団長。」
ニコルは副団長に任命される前から、さっさと重大なことを決めてしまうことが多かった。じっくり考える団長とは少し足並みが揃わない気もしたが、案外うまくいっているようで安堵した。
「それでいい。」
あくまでも私達の狙いはエミリアで。だから内偵の邪魔はしてません、と言い張るつもりらしい。
潜入は案の定、新人騎士が行くことになった。彼女達以外は皆育ちすぎていて、女性のフリができなかったのだ。アネットは顔がバレているから駄目で蚊帳の外からサポートすることになった。
48
お気に入りに追加
1,612
あなたにおすすめの小説

くれくれ幼馴染に苦手な婚約者を宛がったら人生終わった
毒島醜女
恋愛
人のものを奪うのが大好きな幼馴染と同じクラスになったセーラ。
そんな幼馴染が自分の婚約者であるジェレミーに目をつけたのは、不幸中の幸いであった。
苦手な婚約者であるジェレミーと彼女をくっ付けてやろうと、セーラは計画する…


もう、愛はいりませんから
さくたろう
恋愛
ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。
王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。

【短編】お姉さまは愚弟を赦さない
宇水涼麻
恋愛
この国の第1王子であるザリアートが学園のダンスパーティーの席で、婚約者であるエレノアを声高に呼びつけた。
そして、テンプレのように婚約破棄を言い渡した。
すぐに了承し会場を出ようとするエレノアをザリアートが引き止める。
そこへ颯爽と3人の淑女が現れた。美しく気高く凛々しい彼女たちは何者なのか?
短編にしては長めになってしまいました。
西洋ヨーロッパ風学園ラブストーリーです。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結】姉は全てを持っていくから、私は生贄を選びます
かずきりり
恋愛
もう、うんざりだ。
そこに私の意思なんてなくて。
発狂して叫ぶ姉に見向きもしないで、私は家を出る。
貴女に悪意がないのは十分理解しているが、受け取る私は不愉快で仕方なかった。
善意で施していると思っているから、いくら止めて欲しいと言っても聞き入れてもらえない。
聞き入れてもらえないなら、私の存在なんて無いも同然のようにしか思えなかった。
————貴方たちに私の声は聞こえていますか?
------------------------------
※こちらの作品はカクヨムにも掲載しています
公爵令嬢は逃げ出すことにした【完結済】
佐原香奈
恋愛
公爵家の跡取りとして厳しい教育を受けるエリー。
異母妹のアリーはエリーとは逆に甘やかされて育てられていた。
幼い頃からの婚約者であるヘンリーはアリーに惚れている。
その事実を1番隣でいつも見ていた。
一度目の人生と同じ光景をまた繰り返す。
25歳の冬、たった1人で終わらせた人生の繰り返しに嫌気がさし、エリーは逃げ出すことにした。
これからもずっと続く苦痛を知っているのに、耐えることはできなかった。
何も持たず公爵家の門をくぐるエリーが向かった先にいたのは…
完結済ですが、気が向いた時に話を追加しています。

虐げられた令嬢は、耐える必要がなくなりました
天宮有
恋愛
伯爵令嬢の私アニカは、妹と違い婚約者がいなかった。
妹レモノは侯爵令息との婚約が決まり、私を見下すようになる。
その後……私はレモノの嘘によって、家族から虐げられていた。
家族の命令で外に出ることとなり、私は公爵令息のジェイドと偶然出会う。
ジェイドは私を心配して、守るから耐える必要はないと言ってくれる。
耐える必要がなくなった私は、家族に反撃します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる