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やり直せ
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サイラスが来てからは、仕事は目に見えて楽になった。マリアとアネットが担当する新人教育も書類仕事はなくなり、剣術、体術などに限った分野に定められた。
「やり直し」
「やり直し」
「却下」
「定型を揃えろ」
「誤字脱字を見直せ」
「やり直し」
新人達は一度にたくさんのことはできないようで何度も何度も何度もやり直しをくらう。正直、少しは自分で考える癖をつけなさいよ、と思う。
ただこれは私の仕事ではないので、いくらイライラしようが手を出してはならない。
ビース家の四男は、兄のスパルタに苦い顔をし続け、何度もやり直しをさせられているが、自分が悪いのだから文句を言えないようで、困った顔をしている。
「でもあんな大物が来てくれるなんて意外だったわ。こちらはすごく助かるけれど、文官じゃなくて、官僚なんて畏れ多いわよ。」
「でも、女だからって馬鹿にするような奴らには、一番効果があるわよね。男性で宰相補佐、しかも、ビースにとっては、厄介な身内。兄弟でも仲が悪いって聞いたけれど、それはそうよね。」
「あんなにできなくて、よく学園を卒業できたわね。」
「それは、アネット。貴女の所為らしいわよ。貴女、卒業する時に後輩に使っていたノートをあげたでしょう。勉強が苦手な子でも卒業できるように、って。あれが卒業試験の内容を網羅しているおかげで、そのノートで勉強すれば、卒業できてしまうらしいわ。」
「それは、また……学園を卒業してから、試験の内容を変えたりしなかったってこと?それは私の所為ではなくて、寧ろ学園側の所為では?」
確かに後輩に泣きつかれて、ノートを渡したことがある。あの時は王女殿下が少々お疲れで、勉強するのが辛いというから、わかりやすいノートを作成したのだったわ。サイラスにも少し手伝ってもらったけれど。
もう使わないと、善意で渡したものが、こんなところで悪影響を及ぼしているなんて。アネットは遅ればせながら反省した。
「女騎士は成り手が少ないからそもそもそんな難しい試験が作られていない。それでも騎士であるからには、鍛錬は必要だが。」
いつのまにか、サイラスが部屋に入ってきていた。お喋りに夢中で気がつかないなんて迂闊すぎる。彼は、こちらの要望だけではなく、実際の女騎士の能力を見極めに来たらしい。
エミリアを基準に考えると、明らかに失敗ではあるが、他にも新人の女騎士はいる。
「エミリアは多分特殊な方だと思うのよね。もう二人騎士ならいるでしょう?彼女達を参考にしたらどう?」
エミリアが強烈だったから、空気のようになっていた二人は、エミリアより半年早く入団してきた先輩達である。
二人とも、エミリアと話しているのを見たことがないから、仲は良くないのだろう。二人は二人でつるんでいるようなところがある。
「勿論、彼女達を紹介した人物は、真面目を絵に描いたような人だからな。適当を絵に描いたような、前副団長とは、訳が違う。問題は愚弟共だな。アレは正直すでに退団間近まで来ているんじゃないのか。」
ニコルが彼らの資料をささっと出して確認する。
「確かにもう三つはついてるわね。」
騎士団の中でも、一番厳しい近衛騎士団は、失格が一つでも付くと、再教育で、二つになると退団になるらしい。
対する我が騎士団は比較的若い新人が入ってくる影響もあって、失格は四つまで。五つで退団になる。
エミリアは、ズル休みと上司の指示を聞かない、仕事をしない、生活態度が悪い、で四つ。鍛錬を怠り、騎士の本分を忘れたことで退団勧告となった。
騎士団という条件で見ると、仕事はキツく、給料は安くなるけれど、貴族家で騎士団を持っているところもあるし、名前は傭兵団となるが、騎士が活躍できる場はたくさんある。女騎士に限っていえば辺境伯という聖地もある。
「身分制度を理解しない、仕事をサボる、鍛錬は、一応やっているのよね。あと、生活態度、かな?」
因みにこの失格は消えたりしないので、やらかし具合によっては、挽回できずにいつのまにか退団になることもある。
「身分制度も生活態度も、本来なら学園もしくは家で教わることでしょう。」
「まあ、それはそうだな。君達には随分迷惑をかけていると聞いた。すまない。」
「別に良いわよ。若い時って誰でも視野は狭いものよ。ただ女騎士をママみたいに扱うのは何なの。不思議で仕方ないわ。あんな子供を持った記憶はないんだけど。」
マリアの疑問にサイラスは首を傾げ、聞き捨てならないことを言った。
「単に構ってほしいんじゃないか。あいつの頭は小さな頃からあまり変わってないし。どうにかして、視界に入りたいんじゃないか。」
「うわー、めんどくさい。拗らせってやつ?」嫌がりながら他人事のニコルは嬉しそう。
「あいつの初恋は、家庭教師だったぞ。マリア嬢によく似た。」
マリアは、無表情でポツリと「無理。」と言った。マリアには今のところ婚約者はいない。
「気持ち悪いから失格、でいいんじゃない?」
サイラスも中々容赦がない。アネットはサイラスとこんな風に話せるとは思っていなかった。仲が悪かったわけではないが、何となく、勝手に壁を感じていたようだ。
「やり直し」
「やり直し」
「却下」
「定型を揃えろ」
「誤字脱字を見直せ」
「やり直し」
新人達は一度にたくさんのことはできないようで何度も何度も何度もやり直しをくらう。正直、少しは自分で考える癖をつけなさいよ、と思う。
ただこれは私の仕事ではないので、いくらイライラしようが手を出してはならない。
ビース家の四男は、兄のスパルタに苦い顔をし続け、何度もやり直しをさせられているが、自分が悪いのだから文句を言えないようで、困った顔をしている。
「でもあんな大物が来てくれるなんて意外だったわ。こちらはすごく助かるけれど、文官じゃなくて、官僚なんて畏れ多いわよ。」
「でも、女だからって馬鹿にするような奴らには、一番効果があるわよね。男性で宰相補佐、しかも、ビースにとっては、厄介な身内。兄弟でも仲が悪いって聞いたけれど、それはそうよね。」
「あんなにできなくて、よく学園を卒業できたわね。」
「それは、アネット。貴女の所為らしいわよ。貴女、卒業する時に後輩に使っていたノートをあげたでしょう。勉強が苦手な子でも卒業できるように、って。あれが卒業試験の内容を網羅しているおかげで、そのノートで勉強すれば、卒業できてしまうらしいわ。」
「それは、また……学園を卒業してから、試験の内容を変えたりしなかったってこと?それは私の所為ではなくて、寧ろ学園側の所為では?」
確かに後輩に泣きつかれて、ノートを渡したことがある。あの時は王女殿下が少々お疲れで、勉強するのが辛いというから、わかりやすいノートを作成したのだったわ。サイラスにも少し手伝ってもらったけれど。
もう使わないと、善意で渡したものが、こんなところで悪影響を及ぼしているなんて。アネットは遅ればせながら反省した。
「女騎士は成り手が少ないからそもそもそんな難しい試験が作られていない。それでも騎士であるからには、鍛錬は必要だが。」
いつのまにか、サイラスが部屋に入ってきていた。お喋りに夢中で気がつかないなんて迂闊すぎる。彼は、こちらの要望だけではなく、実際の女騎士の能力を見極めに来たらしい。
エミリアを基準に考えると、明らかに失敗ではあるが、他にも新人の女騎士はいる。
「エミリアは多分特殊な方だと思うのよね。もう二人騎士ならいるでしょう?彼女達を参考にしたらどう?」
エミリアが強烈だったから、空気のようになっていた二人は、エミリアより半年早く入団してきた先輩達である。
二人とも、エミリアと話しているのを見たことがないから、仲は良くないのだろう。二人は二人でつるんでいるようなところがある。
「勿論、彼女達を紹介した人物は、真面目を絵に描いたような人だからな。適当を絵に描いたような、前副団長とは、訳が違う。問題は愚弟共だな。アレは正直すでに退団間近まで来ているんじゃないのか。」
ニコルが彼らの資料をささっと出して確認する。
「確かにもう三つはついてるわね。」
騎士団の中でも、一番厳しい近衛騎士団は、失格が一つでも付くと、再教育で、二つになると退団になるらしい。
対する我が騎士団は比較的若い新人が入ってくる影響もあって、失格は四つまで。五つで退団になる。
エミリアは、ズル休みと上司の指示を聞かない、仕事をしない、生活態度が悪い、で四つ。鍛錬を怠り、騎士の本分を忘れたことで退団勧告となった。
騎士団という条件で見ると、仕事はキツく、給料は安くなるけれど、貴族家で騎士団を持っているところもあるし、名前は傭兵団となるが、騎士が活躍できる場はたくさんある。女騎士に限っていえば辺境伯という聖地もある。
「身分制度を理解しない、仕事をサボる、鍛錬は、一応やっているのよね。あと、生活態度、かな?」
因みにこの失格は消えたりしないので、やらかし具合によっては、挽回できずにいつのまにか退団になることもある。
「身分制度も生活態度も、本来なら学園もしくは家で教わることでしょう。」
「まあ、それはそうだな。君達には随分迷惑をかけていると聞いた。すまない。」
「別に良いわよ。若い時って誰でも視野は狭いものよ。ただ女騎士をママみたいに扱うのは何なの。不思議で仕方ないわ。あんな子供を持った記憶はないんだけど。」
マリアの疑問にサイラスは首を傾げ、聞き捨てならないことを言った。
「単に構ってほしいんじゃないか。あいつの頭は小さな頃からあまり変わってないし。どうにかして、視界に入りたいんじゃないか。」
「うわー、めんどくさい。拗らせってやつ?」嫌がりながら他人事のニコルは嬉しそう。
「あいつの初恋は、家庭教師だったぞ。マリア嬢によく似た。」
マリアは、無表情でポツリと「無理。」と言った。マリアには今のところ婚約者はいない。
「気持ち悪いから失格、でいいんじゃない?」
サイラスも中々容赦がない。アネットはサイラスとこんな風に話せるとは思っていなかった。仲が悪かったわけではないが、何となく、勝手に壁を感じていたようだ。
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