それは私の仕事ではありません

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言い掛かり

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副団長の仕事が回ってこなくなって、快適な毎日となった。副団長の仕事が終わらないから、彼方は残業ばかり。アネット達が帰る頃には、副団長の補佐官達からの恨みがましい視線が飛んでくることはあるけれど、副団長に挨拶だけしてさっさと帰るようにしている。

要はエミリアを含め、甘えてきた奴らばかりなのだ。自分はできない、助けて、と人を頼っては、甘えて、好意を踏み躙って来た奴らばかり。そんな奴らに気を遣って何になる?

アネット達が、早く上がって食事に行こうと話していると、後ろから声をかけられた。

「あんた達、弱い者いじめして、恥ずかしくないのか。」

振り向けばさっきまで、書類と睨めっこしていた副団長の補佐官の一人がそこにいた。

「誰?」
咄嗟に名前が出てこない。

「ビール、じゃない。ビースよ。子爵家の四男だったかな。」

「何を言っているかわからないけれど、目上の者には敬語で話しなさい、って習わなかった?」

「失礼なやつにはあんたで十分だろ。」

「はあ。貴方も、まだ学生気分が抜けてないようね。学生の頃はね、許されたことも社会に出たらそうはいかないの。たかが子爵家の嫡男でもない者が、そんな態度でそちらこそ許されると?」

マリアの背後から覇気が放たれる。アネットもニコルも只ならぬ雰囲気に圧倒されているのに、彼方は気がついてさえもいない。

「あんたらさぁ、同じ補佐官なら助け合うのが普通だろ。良心が痛まないのかよ。」

「全然。」
「だって、私達の仕事じゃないから。」

「全く話にならないわね。貴方こそここでこうして話している間に出来ることはあるでしょう?それか貴方以外はもう帰っているかもしれないわよ?大丈夫?」

あ、確かに。言われてみれば、そういう奴らは多そう。

「副団長は流石に残っているでしょうけど。他の奴らは貴方と同類だから、貴方が私達を口実にこうしてサボっているように、彼らも貴方を口実に押し付けて帰るんじゃない?」

そういうと、不安だったのか彼の顔色は悪くなる。

「話なら今度聞いてあげるから早く戻りなさいな。今からなら間に合うかもしれないわよ。」

ニコルがそう告げると、一目散に走っていく。礼儀も何もあったもんじゃない。

「何あれ。」
「さぁ?」

アネットもニコルもマリアも、皆まだ独身だからか、家から出ても、実家に籍は残っている。「たかが子爵家」と言ったのは訳があって、アネットは伯爵家、マリアは侯爵家、ニコルに至っては、公爵家のこれでも令嬢なのだった。

だから、身分的に、騎士団では浮く為に騎士団長の補佐官として置かれたのである。身分だけで見ると、副団長より遥かに上なので、ある意味厄介者とされている私達。そんな私達に迷惑をかけるなんて、副団長の補佐官達は大物揃いである。

「あまり実家には頼りたくないんだけど、流石に、よね?」

ニコルは笑う。笑顔が眩しいぐらい。

「任せるわ。」アネットはそう伝えるしかできない。アネットもたかが伯爵令嬢。長いものには巻かれるスタイルだ。
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