踏み台(王女)にも事情はある

mios

文字の大きさ
上 下
14 / 14

シスターフローレンス

しおりを挟む
イザベラが最初に入って来た時はまるで昔の自分を見ているかのようだった。

「救国の聖女」と呼ばれ、讃えられた自分が、今「監獄」でシスターフローレンスとして働いているのだから、経緯は察せられるものだ。

どうしてこうなったかと言えば、今回のイザベラと全く同じ。力を持ちすぎたからである。一人に持てる量以上のものをどうにか持ち続けようと足掻いた結果、あるものは簡単に奪われ、あるものは取り上げられ、あるものは壊され、根こそぎ荷物らしい荷物を減らされたのだ。

自分もこの場所に入った時は皆が敵で頼れる人はいないと思い込んでいた。彼女は自分なりに戦う意思があったけれど、昔の自分にはそんなものはなかった。

ただ閉ざされた場所で自分を慰めていただけ。

長く生きているおかげで、昔の自分の敵だった人達はすでに亡くなっている。外へ出ようとするなら、それも可能だ。もう口封じに殺されることはないだろう。

イザベラと入れ替わりに入ってきたビアンカと言う少女は、フローレンスのことを「おばあちゃん」と呼ぶ。家族とは縁が薄かった自分にも、子を通り越して孫ができたようで、何だかこそばゆい。

イザベラとは手紙のやり取りをして、会えなくなっても縁は繋がっていく。今思えば、昔の自分は、目の前の仕事に没頭することで、人との関係を疎かにしていたみたいだ。

だから、突然の出来事に、味方になってくれる人も見つけられず、自分だけでどうにかしないといけない、と思い込んでしまった。

人の行動を見ていると、どうしてか自分の失敗が先に見えてくることがある。イザベラの姿を追いながら、昔の自分を追体験してわかることもある。

イザベラには頼りになる旦那様ができた。昔からの恋が実って幸せいっぱいの彼女の様子に自分の心まで温かくなっていく。


幸せは人それぞれである。人それぞれの物語があって、人それぞれの価値観の元に、人生が成り立っている。

昔のフローレンスの幸せを、今のフローレンスが叶えられないように、今のフローレンスの幸せを昔のフローレンスは理解できないだろう。

シスターフローレンスは以前の婚約者を思い出すことはもうない。生きる道が違うと理解してからは追いかけることもなかった。あの時諦めなかったら違う人生が待っていただろうか?


とはいえ、彼と自分の昔の姿すら、想像もできないのだから、そんな未来は起こり得ないことだったのだと納得している。






「監獄」での生活は過酷だ。慣れるとそうでもないが、自分と向き合う時間が多いことは、人によってはとにかく退屈で厳しい罰になるらしい。ビアンカが来てからは元気な彼女の笑い声が、他の人間の元気の源になっている。



「私、大きくなったら神様と結婚する。そしてね、ここにいる皆を幸せにするの。」

可愛い笑顔に釣られて、笑みを返すと、シスターフローレンスはここに来て初めて長生きを神に願った。




終わり

読んでいただきありがとうございました。      mios
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

【完結】王太子妃の初恋

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
カテリーナは王太子妃。しかし、政略のための結婚でアレクサンドル王太子からは嫌われている。 王太子が側妃を娶ったため、カテリーナはお役御免とばかりに王宮の外れにある森の中の宮殿に追いやられてしまう。 しかし、カテリーナはちょうど良かったと思っていた。婚約者時代からの激務で目が悪くなっていて、これ以上は公務も社交も難しいと考えていたからだ。 そんなカテリーナが湖畔で一人の男に出会い、恋をするまでとその後。 ★ざまぁはありません。 全話予約投稿済。 携帯投稿のため誤字脱字多くて申し訳ありません。 報告ありがとうございます。

元妻からの手紙

きんのたまご
恋愛
家族との幸せな日常を過ごす私にある日別れた元妻から一通の手紙が届く。

【完結】聖女の妊娠で王子と婚約破棄することになりました。私の場所だった王子の隣は聖女様のものに変わるそうです。

五月ふう
恋愛
「聖女が妊娠したから、私とは婚約破棄?!冗談じゃないわよ!!」 私は10歳の時から王子アトラスの婚約者だった。立派な王妃になるために、今までずっと頑張ってきたのだ。今更婚約破棄なんて、認められるわけないのに。 「残念だがもう決まったことさ。」 アトラスはもう私を見てはいなかった。 「けど、あの聖女って、元々貴方の愛人でしょうー??!絶対におかしいわ!!」 私は絶対に認めない。なぜ私が城を追い出され、あの女が王妃になるの? まさか"聖女"に王妃の座を奪われるなんて思わなかったわーー。

残念ながら、定員オーバーです!お望みなら、次期王妃の座を明け渡しますので、お好きにしてください

mios
恋愛
ここのところ、婚約者の第一王子に付き纏われている。 「ベアトリス、頼む!このとーりだ!」 大袈裟に頭を下げて、どうにか我儘を通そうとなさいますが、何度も言いますが、無理です! 男爵令嬢を側妃にすることはできません。愛妾もすでに埋まってますのよ。 どこに、捻じ込めると言うのですか! ※番外編少し長くなりそうなので、また別作品としてあげることにしました。読んでいただきありがとうございました。

危害を加えられたので予定よりも早く婚約を白紙撤回できました

しゃーりん
恋愛
階段から突き落とされて、目が覚めるといろんな記憶を失っていたアンジェリーナ。 自分のことも誰のことも覚えていない。 王太子殿下の婚約者であったことも忘れ、結婚式は来年なのに殿下には恋人がいるという。 聞くところによると、婚約は白紙撤回が前提だった。 なぜアンジェリーナが危害を加えられたのかはわからないが、それにより予定よりも早く婚約を白紙撤回することになったというお話です。

聖女であることを隠す公爵令嬢は国外で幸せになりたい

カレイ
恋愛
 公爵令嬢オデットはある日、浮気というありもしない罪で国外追放を受けた。それは王太子妃として王族に嫁いだ姉が仕組んだことで。  聖女の力で虐待を受ける弟ルイスを護っていたオデットは、やっと巡ってきたチャンスだとばかりにルイスを連れ、その日のうちに国を出ることに。しかしそれも一筋縄ではいかず敵が塞がるばかり。  その度に助けてくれるのは、侍女のティアナと、何故か浮気相手と疑われた副騎士団長のサイアス。謎にスキルの高い二人と行動を共にしながら、オデットはルイスを救うため奮闘する。 ※胸糞悪いシーンがいくつかあります。苦手な方はお気をつけください。

【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい

宇水涼麻
恋愛
 ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。 「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」  呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。  王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。  その意味することとは?  慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?  なぜこのような状況になったのだろうか?  ご指摘いただき一部変更いたしました。  みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。 今後ともよろしくお願いします。 たくさんのお気に入り嬉しいです! 大変励みになります。 ありがとうございます。 おかげさまで160万pt達成! ↓これよりネタバレあらすじ 第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。 親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。 ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。

処理中です...