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聖女の瞳の色
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聖女は目覚めた。スッキリとした目覚めだ。イザベラがいなくなって、初めてのスッキリした感覚に、最初は彼女が戻って来てくれたのかと期待した。けれど、ガーランド卿の瞳に、それはまだ早いと悟った。
あの日、彼女は言った。
「何があろうと、貴女のせいではありません。私を信じて待っていて下さい。代わりの人を連れて来ますから。」と。そして、自分がいなくなり、現れた人に対して、決して力を使ってはいけません、とも。
代わりの人なんて、要らないから、とは言っても、周りはそうではないらしい。何故か聖女がイザベラと一緒にいるのを嫌がる。それは私にはわからない大人の事情らしいけれど。
ビアンカには大好きな人が、三人いる。彼女達は、ビアンカを助けてくれた恩人達だ。
一人目は、前にいた国で元いた施設に居られなくなり、連れてこられた王宮で虐げられていた時に側に居てくれた侍女の人。名前は確かアリー。彼女は皆がビアンカを役立たずだと言い、叩いたり蹴ったりした後に傷の手当てをしたり、美味しいパンをくれたりした優しい人。
二人目は、この国に連れて来てくれたお姉さんナタリー。彼女は、イザベラの義理の姉になるはずだった人で、とても可愛らしい人だった。彼女はとても心が傷ついていたけれど、ビアンカにはいつも優しくしてくれた。彼女も王宮ではいつも泣いていた。ビアンカと彼女が国を出る時、他の人が皆厄介者が一気に片付いた、と笑っていたけれど、此方もこの国を出られることを楽しみにしていたから気にはならなかった。
彼女は、今から行く国がどれだけ素晴らしい国かを教えてくれた。ナタリーは、イザベラに昔意地悪をしてしまって、それ以来ずっと後悔しているらしい。
だから、ナタリーが今やっていることは、意地悪した妹に対する罪滅ぼしなんだと言っていた。
彼女とは国に入ってこの国の王様に挨拶した後からは別れてしまって、会えなくなったけれど、その代わりにイザベラが来てくれた。
三人目は、王女イザベラだ。イザベラは、聖騎士の、何だっけ。あの声の大きな人の婚約者だった。だけど、いつもイザベラを助けてくれるのはガーランドで。彼はイザベラが好きなんだろうな、と思っていた。イザベラは彼の前ではよく笑う。いつもは澄ました顔で綺麗だけど、笑ったらとても可愛い。魔法が上手く使えないビアンカに何度も丁寧に指導してくれる優しい王女様。
イザベラが何か思い詰めているのはわかっていた。出来れば私は大好きな人達の言うことだけを聞いていたいけれど、それだけではいられないことは、イザベラを見ていたらよくわかる。
王女の負担を少なくする為に、と言われたら、本当はしたくなくても彼女を助けたいからしてしまう。
「魔物だから、良いのではありません。誰からも力を奪ってはいけません。」
新しく習得した魔法を披露した際に、褒めてもらえる、と期待したビアンカは、イザベラのあまりの剣幕に感情の行き先を失った。
イザベラはとても顔色が悪く、倒れそうになっていた。ガーランドも、怖い顔をしている。
二人はそのままいなくなってしまったけれど、去り際に、二人の口から「まさか」とか「兄も」とか「仕組まれて」と聞こえたから、何かトラウマみたいなものでも引き起こしてしまったのだと反省した。
イザベラの兄といえば、前の国で罪人に仕立て上げられたお兄さん。彼のこともよく知っている。ビアンカが彼の最後に立ち会ったことは、なんとなく悲しませる気がして、ナタリーにもイザベラにも話せなかった。
彼は良い人だった。とても良い人で優しい人だった。困った人がいたら放って置けない、おせっかいな人。だから、利用されたのだ。彼は私に掌サイズの小さな魔石をくれた。
「これは無駄になったな。」
それは大切な家族からのお守りで肌身離さず持っていた大切なもの。
「奴らの手に渡すよりは、君に持っていて貰いたいんだ。ほら、君の瞳に似ているだろう?」
ビアンカは自分の瞳の色なんて今まで気にしたことはない。でも、その魔石はとても美しく、綺麗だった。彼の瞳の色と同じ色。
「貴方の瞳も同じ。」
「よく似合うよ。」
彼が微笑んだ後のことはあまり覚えていない。気がつけば、彼は死に、ナタリーが来た。
ナタリーはあのお兄さんの婚約者だった人だけど、魔石のことを話す気にはならなかった。大好きな人だけど、この魔石は彼からビアンカに渡されたものだ。
お兄さんと同じ瞳の色。ビアンカは、その気持ちを説明できる言葉を持たないでいた。
まだイザベラが帰っていないと言うことは。
「彼が来たのね?」
ガーランド卿は頷き、何度も聞いた言葉を確認する。
「覚えてますよね。」
「ええ、ちゃんと覚えてるわ。彼には力は使わない。イザベラとの約束。」
「御礼にうかがいましょう。」
イザベラは彼が、あの施設からビアンカを出した人だと言っていた。ならば、知っているかもしれない。あの日離れ離れになった彼らのことを。ビアンカの家族達のことを。
あの日、彼女は言った。
「何があろうと、貴女のせいではありません。私を信じて待っていて下さい。代わりの人を連れて来ますから。」と。そして、自分がいなくなり、現れた人に対して、決して力を使ってはいけません、とも。
代わりの人なんて、要らないから、とは言っても、周りはそうではないらしい。何故か聖女がイザベラと一緒にいるのを嫌がる。それは私にはわからない大人の事情らしいけれど。
ビアンカには大好きな人が、三人いる。彼女達は、ビアンカを助けてくれた恩人達だ。
一人目は、前にいた国で元いた施設に居られなくなり、連れてこられた王宮で虐げられていた時に側に居てくれた侍女の人。名前は確かアリー。彼女は皆がビアンカを役立たずだと言い、叩いたり蹴ったりした後に傷の手当てをしたり、美味しいパンをくれたりした優しい人。
二人目は、この国に連れて来てくれたお姉さんナタリー。彼女は、イザベラの義理の姉になるはずだった人で、とても可愛らしい人だった。彼女はとても心が傷ついていたけれど、ビアンカにはいつも優しくしてくれた。彼女も王宮ではいつも泣いていた。ビアンカと彼女が国を出る時、他の人が皆厄介者が一気に片付いた、と笑っていたけれど、此方もこの国を出られることを楽しみにしていたから気にはならなかった。
彼女は、今から行く国がどれだけ素晴らしい国かを教えてくれた。ナタリーは、イザベラに昔意地悪をしてしまって、それ以来ずっと後悔しているらしい。
だから、ナタリーが今やっていることは、意地悪した妹に対する罪滅ぼしなんだと言っていた。
彼女とは国に入ってこの国の王様に挨拶した後からは別れてしまって、会えなくなったけれど、その代わりにイザベラが来てくれた。
三人目は、王女イザベラだ。イザベラは、聖騎士の、何だっけ。あの声の大きな人の婚約者だった。だけど、いつもイザベラを助けてくれるのはガーランドで。彼はイザベラが好きなんだろうな、と思っていた。イザベラは彼の前ではよく笑う。いつもは澄ました顔で綺麗だけど、笑ったらとても可愛い。魔法が上手く使えないビアンカに何度も丁寧に指導してくれる優しい王女様。
イザベラが何か思い詰めているのはわかっていた。出来れば私は大好きな人達の言うことだけを聞いていたいけれど、それだけではいられないことは、イザベラを見ていたらよくわかる。
王女の負担を少なくする為に、と言われたら、本当はしたくなくても彼女を助けたいからしてしまう。
「魔物だから、良いのではありません。誰からも力を奪ってはいけません。」
新しく習得した魔法を披露した際に、褒めてもらえる、と期待したビアンカは、イザベラのあまりの剣幕に感情の行き先を失った。
イザベラはとても顔色が悪く、倒れそうになっていた。ガーランドも、怖い顔をしている。
二人はそのままいなくなってしまったけれど、去り際に、二人の口から「まさか」とか「兄も」とか「仕組まれて」と聞こえたから、何かトラウマみたいなものでも引き起こしてしまったのだと反省した。
イザベラの兄といえば、前の国で罪人に仕立て上げられたお兄さん。彼のこともよく知っている。ビアンカが彼の最後に立ち会ったことは、なんとなく悲しませる気がして、ナタリーにもイザベラにも話せなかった。
彼は良い人だった。とても良い人で優しい人だった。困った人がいたら放って置けない、おせっかいな人。だから、利用されたのだ。彼は私に掌サイズの小さな魔石をくれた。
「これは無駄になったな。」
それは大切な家族からのお守りで肌身離さず持っていた大切なもの。
「奴らの手に渡すよりは、君に持っていて貰いたいんだ。ほら、君の瞳に似ているだろう?」
ビアンカは自分の瞳の色なんて今まで気にしたことはない。でも、その魔石はとても美しく、綺麗だった。彼の瞳の色と同じ色。
「貴方の瞳も同じ。」
「よく似合うよ。」
彼が微笑んだ後のことはあまり覚えていない。気がつけば、彼は死に、ナタリーが来た。
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まだイザベラが帰っていないと言うことは。
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「覚えてますよね。」
「ええ、ちゃんと覚えてるわ。彼には力は使わない。イザベラとの約束。」
「御礼にうかがいましょう。」
イザベラは彼が、あの施設からビアンカを出した人だと言っていた。ならば、知っているかもしれない。あの日離れ離れになった彼らのことを。ビアンカの家族達のことを。
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