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エミリー
兄の心妹知らず①
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ミロード侯爵家には、不満げなご令嬢が一人。学園から謹慎の命が下り、家に返されたリリアンヌは、謹慎となった理由を詳しく聞いていなかった。兄であり、学園の卒業生で元生徒会役員のエリクが、学園に詳細を確認し、納得の上に謹慎を受け入れた時も、兄の態度に不信感を抱き、自分に落ち度はない、と思っていた。
リリアンヌへの謹慎は、高位貴族に対してからなのか、若干甘いと言われる程の寛大なものであったが、全体がわからない本人からすれば、不当以外の何ものでもない。
侯爵令嬢のリリアンヌの家格に見合う男性は限られる。我が国は公爵家の男子が限りなく少ない。王族には既に空きがない、となれば公爵家の嫡男に人気が集中するのは致し方ないと言える。
エミリー嬢にも気の毒に思うことはある。同じく公爵家のオリバー・ローエルとの婚約が破談になったのだから。その原因は、相手側が平民女に傾倒し、乱心したと聞いている。だからといって、ルーミス公爵令息に狙いを定めるのはやめてほしい。
こういっては何だが、身の程と言うものがある。元々が分不相応な縁組だった。公爵家と容易に縁組が叶ったからと言って、彼方がだめなら、此方などと、一介の伯爵令嬢が考える方がおかしい。完全に、ルーミス公爵令息の優しさに付け込んだ勘違い女に、警告しただけなのに、とリリアンヌは憤っていた。
ルーミス公爵令息に懸想する学生は多い。一度は憧れる皆の王子様。下位貴族の中にも、彼に恋心を抱く女性はいたが、それに関してはリリアンヌがどうこうする気はない。彼女達はちゃんと分を弁えている。下位貴族の自分如きが彼に釣り合う訳がない、とちゃんとわかっているのだから。それでいて、好きで居続けるなんて、何ていじらしい。
「お嬢様にお客様がいらっしゃいました。」
リリアンヌの兄エリクは、謹慎中の妹が勝手に人を呼びつけたことを知り、頭を抱えた。
相手の素性を聞くが、不自然なことはない。一緒に謹慎を食らった下位貴族のご令嬢ではないし、呼びつけられたご令嬢は至極真面目なご令嬢だと言うのだから、心配することはないのかもしれない。だが……
「念の為、監視をつけろ。妹と、その女性の話を報告してくれ。判断はこちらでする。」
妹に婚約者をつけずにいたことを後悔しても遅いのだが、リリアンヌは昔から思い込みの激しい子だった。侯爵令嬢としては、些か地味な面白味のない人間に育ったと思っていたが、そうではなかった。
学園に入った頃から、ルーミス公爵家のジョージアとの婚約を打診されなかったかと、何度か聞かれた。
ない、と答えると、不思議そうな顔をして、首を傾げている。
「おかしいわね。あの方のお眼鏡に叶うのは私を置いてないはずなのに。恥ずかしがっているのかしら。」
あの頃はその発言に眉を顰めることもなく、無邪気に喜んでいた。
まさか、格上の公爵家のご令息が妹を見染めたのかと。
ところが、待てど暮らせど、婚約の打診などは来なかった。
調べても何もわからず、妹の勘違いだと判明した矢先、ルーミス公爵家嫡男に春がきたとの噂だ。相手は伯爵家のご令嬢で、少し前までローエル公爵家のご令息の婚約者だった。
その経歴を聞いただけで、エリクは分が悪いと言わずにはいられなかった。
可哀想だけれど、公爵家に狙われる伯爵令嬢が凡庸な訳がないと、妹を慰める準備さえしていたと言うのに。
しかも、今回は本当に分が悪い。謹慎の理由を聞きに行った両親が、見るも無残な様子で帰ってきたからだ。
リリアンヌが謹慎だなんて、と憤り、文句を言いに行った二人が、帰ってきた時には虫の息だった。
ルーミス公爵家嫡男の、怒りは相当であった、と聞いている。良くも謹慎で納めてくれたと、感謝するほどだった。
エリクは将来的には対峙しなくてはならない相手に恐怖を感じていた。
その恐怖を現実にしないために、妹の暴走を見ないことにはできなかった。
リリアンヌへの謹慎は、高位貴族に対してからなのか、若干甘いと言われる程の寛大なものであったが、全体がわからない本人からすれば、不当以外の何ものでもない。
侯爵令嬢のリリアンヌの家格に見合う男性は限られる。我が国は公爵家の男子が限りなく少ない。王族には既に空きがない、となれば公爵家の嫡男に人気が集中するのは致し方ないと言える。
エミリー嬢にも気の毒に思うことはある。同じく公爵家のオリバー・ローエルとの婚約が破談になったのだから。その原因は、相手側が平民女に傾倒し、乱心したと聞いている。だからといって、ルーミス公爵令息に狙いを定めるのはやめてほしい。
こういっては何だが、身の程と言うものがある。元々が分不相応な縁組だった。公爵家と容易に縁組が叶ったからと言って、彼方がだめなら、此方などと、一介の伯爵令嬢が考える方がおかしい。完全に、ルーミス公爵令息の優しさに付け込んだ勘違い女に、警告しただけなのに、とリリアンヌは憤っていた。
ルーミス公爵令息に懸想する学生は多い。一度は憧れる皆の王子様。下位貴族の中にも、彼に恋心を抱く女性はいたが、それに関してはリリアンヌがどうこうする気はない。彼女達はちゃんと分を弁えている。下位貴族の自分如きが彼に釣り合う訳がない、とちゃんとわかっているのだから。それでいて、好きで居続けるなんて、何ていじらしい。
「お嬢様にお客様がいらっしゃいました。」
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相手の素性を聞くが、不自然なことはない。一緒に謹慎を食らった下位貴族のご令嬢ではないし、呼びつけられたご令嬢は至極真面目なご令嬢だと言うのだから、心配することはないのかもしれない。だが……
「念の為、監視をつけろ。妹と、その女性の話を報告してくれ。判断はこちらでする。」
妹に婚約者をつけずにいたことを後悔しても遅いのだが、リリアンヌは昔から思い込みの激しい子だった。侯爵令嬢としては、些か地味な面白味のない人間に育ったと思っていたが、そうではなかった。
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ない、と答えると、不思議そうな顔をして、首を傾げている。
「おかしいわね。あの方のお眼鏡に叶うのは私を置いてないはずなのに。恥ずかしがっているのかしら。」
あの頃はその発言に眉を顰めることもなく、無邪気に喜んでいた。
まさか、格上の公爵家のご令息が妹を見染めたのかと。
ところが、待てど暮らせど、婚約の打診などは来なかった。
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可哀想だけれど、公爵家に狙われる伯爵令嬢が凡庸な訳がないと、妹を慰める準備さえしていたと言うのに。
しかも、今回は本当に分が悪い。謹慎の理由を聞きに行った両親が、見るも無残な様子で帰ってきたからだ。
リリアンヌが謹慎だなんて、と憤り、文句を言いに行った二人が、帰ってきた時には虫の息だった。
ルーミス公爵家嫡男の、怒りは相当であった、と聞いている。良くも謹慎で納めてくれたと、感謝するほどだった。
エリクは将来的には対峙しなくてはならない相手に恐怖を感じていた。
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