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エミリー
図書館
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運命の目の話を聞いたせいか、ルカに会えなくてやることのなくなったエミリーは唐突に本が読みたくなって、図書館にやって来た。
伯爵家にある本棚は、母がエミリーの為に買い込んだ恋愛小説がたくさんあるが、今はあまり読む気にはならないで、他の本が読みたくなっている。
婚約がなくなって特に大きな変化をエミリー自身感じることはない。オリバーと会わなくなったのは、婚約中も同じだし、そのことではルカほどには寂しいと感じない。会わなくて済むことに、ホッとする程だ。
どちらかと言うと精神的には多少変化はあったように思う。
伯爵家のことを思うなら、どこかのタイミングで結婚して、自分の子に後継者になってもらうのが一番良いのだろうが、今では無理して結婚しなくても、最終的に優秀な養子を探して継いで貰えば良いのでは?とさえ、思うようになっている。
オリバーから離れたことで、もう一度煩わしい婚約をすることを嫌に思うようになってしまった。
ただそんなことを、口にすれば父には困惑されるだろうし、母には嘆かれるだろう。
だから、考えを整理する為にも一人の時間は必要だった。
図書館ではおしゃべりな人はいない。皆静かに本を読んでいる。エミリーは前から少し興味のあったジャンルの本を何冊か取ってくると、空いている席に座り、静かに読み始めた。
ぐちゃぐちゃになった思考を一旦落ち着け、読み進めていく。本の内容に集中して、周りの音に気がつかなくなるまでそう時間はかからなかった。
だから、本を一冊読み終わり、顔を上げたエミリーの目の前にいつから人がいたかの正確なことは何もわからない。わかるのは、その人とは全く面識がないことと、それでも名前が想像できるほど、彼は有名人だと言うこと。
「やっと気がついた。すごい集中力だね。エミリー・トラッド伯爵令嬢。」
どうして名前を知っているのかはあまり考えたくない。どうせ碌なことではない。
「少し君にお願いがあって、来たんだが、少し時間をいただけないだろうか。」
真剣な顔で聞かれて、反対など誰ができようか。ましてや相手はあの……カイル・ディロン。彼は次期宰相と言われている、第一王子の側近中の側近。この人に掛かれば、第一王子その人ですら、赤子のように罠にかかってしまう。
だから、エミリーがその問いかけに淑女らしい顔を保てず、顔を歪めてしまったのもある意味仕方がないことだし、彼にとってはそれ自体どうでも良いことだ。
彼はエミリーの表情ことが肯定を意味すると思っているのか、エミリーにお願いとやらを打ち明ける。それは、選択肢として断ることが出来ないものだった。
「哀れな第一王子殿下のために君の親友の力を借りたいんだ。どうにか取り持ってもらえないだろうか。」
それはルカに関することで、ルカにスパイになって貰いたいとのことだった。今ルカは第一王子の婚約者の護衛の任についているらしい。彼女の近況を、ルカの目を通して知りたいのだそうで、その橋渡しをお願いされたのだった。
「君はルカ君に手紙を出せる。会えないとはわかっていても手紙のやり取りで少しは気が楽になるだろう?」
エミリーは、ルカの家族から、彼を甘やかさない為に手紙を出すのを控えるように言われている。だけど、全く状況が飲み込めないのは、エミリーには辛かった。
だから、この申し出はこの上なくありがたいものだった。
ルカからの手紙は、週に一度届けられることになっている。ルカに手紙を書くなんて、子供の時以来のことに、少しだけワクワクした気持ちになる。
そういえば、初めての手紙のやり取りも、何かルカがやらかして、離れ離れになった時ではなかったか。
ルカはあの時も訳もわからず、急に居なくなってしまった。戻って来た時には随分と立派になったように見えていたけれど、ルカはルカだった。
伯爵家にある本棚は、母がエミリーの為に買い込んだ恋愛小説がたくさんあるが、今はあまり読む気にはならないで、他の本が読みたくなっている。
婚約がなくなって特に大きな変化をエミリー自身感じることはない。オリバーと会わなくなったのは、婚約中も同じだし、そのことではルカほどには寂しいと感じない。会わなくて済むことに、ホッとする程だ。
どちらかと言うと精神的には多少変化はあったように思う。
伯爵家のことを思うなら、どこかのタイミングで結婚して、自分の子に後継者になってもらうのが一番良いのだろうが、今では無理して結婚しなくても、最終的に優秀な養子を探して継いで貰えば良いのでは?とさえ、思うようになっている。
オリバーから離れたことで、もう一度煩わしい婚約をすることを嫌に思うようになってしまった。
ただそんなことを、口にすれば父には困惑されるだろうし、母には嘆かれるだろう。
だから、考えを整理する為にも一人の時間は必要だった。
図書館ではおしゃべりな人はいない。皆静かに本を読んでいる。エミリーは前から少し興味のあったジャンルの本を何冊か取ってくると、空いている席に座り、静かに読み始めた。
ぐちゃぐちゃになった思考を一旦落ち着け、読み進めていく。本の内容に集中して、周りの音に気がつかなくなるまでそう時間はかからなかった。
だから、本を一冊読み終わり、顔を上げたエミリーの目の前にいつから人がいたかの正確なことは何もわからない。わかるのは、その人とは全く面識がないことと、それでも名前が想像できるほど、彼は有名人だと言うこと。
「やっと気がついた。すごい集中力だね。エミリー・トラッド伯爵令嬢。」
どうして名前を知っているのかはあまり考えたくない。どうせ碌なことではない。
「少し君にお願いがあって、来たんだが、少し時間をいただけないだろうか。」
真剣な顔で聞かれて、反対など誰ができようか。ましてや相手はあの……カイル・ディロン。彼は次期宰相と言われている、第一王子の側近中の側近。この人に掛かれば、第一王子その人ですら、赤子のように罠にかかってしまう。
だから、エミリーがその問いかけに淑女らしい顔を保てず、顔を歪めてしまったのもある意味仕方がないことだし、彼にとってはそれ自体どうでも良いことだ。
彼はエミリーの表情ことが肯定を意味すると思っているのか、エミリーにお願いとやらを打ち明ける。それは、選択肢として断ることが出来ないものだった。
「哀れな第一王子殿下のために君の親友の力を借りたいんだ。どうにか取り持ってもらえないだろうか。」
それはルカに関することで、ルカにスパイになって貰いたいとのことだった。今ルカは第一王子の婚約者の護衛の任についているらしい。彼女の近況を、ルカの目を通して知りたいのだそうで、その橋渡しをお願いされたのだった。
「君はルカ君に手紙を出せる。会えないとはわかっていても手紙のやり取りで少しは気が楽になるだろう?」
エミリーは、ルカの家族から、彼を甘やかさない為に手紙を出すのを控えるように言われている。だけど、全く状況が飲み込めないのは、エミリーには辛かった。
だから、この申し出はこの上なくありがたいものだった。
ルカからの手紙は、週に一度届けられることになっている。ルカに手紙を書くなんて、子供の時以来のことに、少しだけワクワクした気持ちになる。
そういえば、初めての手紙のやり取りも、何かルカがやらかして、離れ離れになった時ではなかったか。
ルカはあの時も訳もわからず、急に居なくなってしまった。戻って来た時には随分と立派になったように見えていたけれど、ルカはルカだった。
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