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なりきり

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「リディア様、おはようございます。」
「おはようございます。あ、そうだ。後で台本渡すわね。」
生徒会役員の子爵令嬢のカーラ様に挨拶を返すと驚く顔が返ってきた。

「え?もう引き受けてくださる方が現れたのですか?」
「ええ、ちょっと知り合いに良い方がいて。殿下に声をかけていただくの。多分お受けしてくださるわ。」
「さすが、リディア様。仕事が早いです!」

実際にはネタばらしは、最後なのだけれど、まあ良いわよね。生まれついての役者みたいですもの。

私は昨日、殿下に頂いた記録を基に台本を書いた。実際には、生徒会の面々がちゃんと彼女を追い詰められるように流れを書いているのだが、彼女のセリフはアドリブに任せきりだ。

カーラ様に朝から会えるように時間を合わせたのだけれど、会えてよかった。

この学園では、高位貴族と下位貴族は同じクラスになれないので、下位貴族の生徒会役員は必須だ。カーラ様は、お家は子爵だが、領内も栄えていて、お金もあって、下手な伯爵家より家格も高い。本人は、ちょっと暴走するキライはあるけれど、素直でやり手のご令嬢だ。


彼女と同じクラスになれば、良いのだが。一つ心配なのは、学力の差ぐらいだ。カーラ様は、賢いクラスに所属しているため、主役の方が賢くない場合、誰もクラスでのやりとりを把握できない。

あとは、先生に協力してもらうか、である。生徒会の啓発用の映像を撮る為なら、何とか手伝ってくれるかもしれない。

そうね。子ども達だけでは難しいことも、先生がいれば、何とかしてもらえるかもしれないわ。使えるものは、先生だって使わせて貰いましょう。

そんなことを思っていたら、あれかしら。馬車から降りて、キョロキョロしているわ。挙動不審すぎて、誰も近づかないわ。

「随分動き難そうにしているけれど、どうしたのかしら。」
考えていたことが、口に出てしまったみたい。カーラ様が笑ってしまっている。

「ドレスが動き辛いとか?」
学園では、特にドレスとか決まってないですのに?
「ああ、あのドレスは、どう考えても学園用ではないだろう。」

突然、低い声が聞こえて、急いで振り返ると、殿下がニヤニヤ笑っていらっしゃいます。こう言う顔が似合うって、美形は得ですわね。

「あら、どうされたの?」
「見せつけるのだろう。お手を。」

ちょうど、彼女が歩いてくるタイミングで、なんて性格が悪いですわよ。

これで、煽られて罠に飛び込んで来てくれるなら何度でも、お付き合いいたしますわ。

カーラ様が小声で、囁いてきます。
「今ドレスの裾を踏んで、派手に転びましたが、誰も手を取りません。」

それはそれで、気の毒だけれど、相手はしませんの。向こうからこない限りは。反撃のチャンスを与える気はないのですわ。

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