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本編
ミリア
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「ねぇ、アリスは今どこにいるのかしら。」
ミリアの様子が少し変だと思っていた男は、彼女の質問に動揺してうまく言葉を返せなかった。だが、彼女の妹であるアリスが話すのはそもそもミリアだけで、彼女が知らないはずはない。
「アリス嬢はミリアが匿っている、と言ったんだよ。あの幼馴染の男とその婚約者が彼女を恨んでいるから、姉である自分が彼女を守らないといけない、って。」
アリスはミリアと違って可愛くない。顔は確かに整ってはいるが、男はアリス嬢に得体のしれない不気味さを感じて、あまり近づく気も起きなかった。
ミリアが妹を可愛がって、色々面倒を見ているのを感謝もせずに当然と受け止めているのも、何だかな、と思うし、またストーカーと化した幼馴染とやらも、男の目にはアリス嬢に恋をしているような表情ではなかった。
寧ろ危険なものを見るような、鬼気迫る表情に見えたのだけど。
ミリアは幼馴染の男を毛嫌いしていたが、男には何らかの誤解が二人の間にあるようで、取り持つべきか戸惑っていた。
アリス嬢のあの目は、周りの人間を残らず全て蔑んでいるような、そんな印象を与える。
男はアリス嬢よりもミリアが彼女にいいように利用されているようで、どうしたら目を覚ますことができるのか、ずっと考えていたのだ。
だけど、アリス嬢の行方を尋ねたミリアは、盲目になってアリス嬢を思っていた彼女とは全く違う人間のように見えた。
「アリスは、きっと王宮ね。」
「王宮?何のために?」
「第二王子と婚約するためよ。イーサンには悪いことをしたわ。」
ミリアが何を言っているのか分からなかったが、あまり良い話ではないらしい。
「ああ、もう、何てこと!話が随分と進んでしまっているじゃない!」
ミリアは悔しそうに、額にパチンと手を当てると男に向き直った。
「ねぇ、悪いけれど私行かなくちゃいけないわ。アリスを止めなくちゃ、大変なことになる。」
「でも、君に彼女を止められるとは思えないんだけど。」
「そんなこと、言ってられないの。アリスを放っておくと、被害者が出てしまうわ。相手が私なら幾分マシだけど、あのクラリッサ嬢に危害が加われば、きっと暴れるのは一人だけではないのよ。それにあの子は、頭が回るから現行犯でないと言い逃れをしようとするじゃない?だから、私が必要なの。
身内だから、忖度するかと言われれば、それは違うと言うわ。寧ろ暴走する彼女とは関係ないとしないと、火の粉が降りかかってくることもあるかもしれないでしょう?」
アリス嬢に会えば、今のままでは利用されて終わりだと思っていたが、どうやらミリアの目は覚めてきているようだ。
「彼女の怒りの矛先が自分に向けられることがあれば、ちゃんと助けを求めてね。」
たまたま隣にいた男が、ミリアと良い関係を築いてきたことに、今のミリアは微笑ましい気になった。
同時に彼が話したアリスは、ミリア以外の人間からすれば、ミリア自身が思い込んでいた彼女像と随分かけ離れている。
「こんなにわかりやすい事実すら、見えていなかったのね。」
急いで荷物をまとめる間に、ミリアは一人でつぶやいた。
どうしてあれほどアリスを愛しい、と思っていたのだか。ミリアは何故かわからないがそんな気持ちが一ミリも残っていない今の自分に、頭を抱えていた。
ミリアの様子が少し変だと思っていた男は、彼女の質問に動揺してうまく言葉を返せなかった。だが、彼女の妹であるアリスが話すのはそもそもミリアだけで、彼女が知らないはずはない。
「アリス嬢はミリアが匿っている、と言ったんだよ。あの幼馴染の男とその婚約者が彼女を恨んでいるから、姉である自分が彼女を守らないといけない、って。」
アリスはミリアと違って可愛くない。顔は確かに整ってはいるが、男はアリス嬢に得体のしれない不気味さを感じて、あまり近づく気も起きなかった。
ミリアが妹を可愛がって、色々面倒を見ているのを感謝もせずに当然と受け止めているのも、何だかな、と思うし、またストーカーと化した幼馴染とやらも、男の目にはアリス嬢に恋をしているような表情ではなかった。
寧ろ危険なものを見るような、鬼気迫る表情に見えたのだけど。
ミリアは幼馴染の男を毛嫌いしていたが、男には何らかの誤解が二人の間にあるようで、取り持つべきか戸惑っていた。
アリス嬢のあの目は、周りの人間を残らず全て蔑んでいるような、そんな印象を与える。
男はアリス嬢よりもミリアが彼女にいいように利用されているようで、どうしたら目を覚ますことができるのか、ずっと考えていたのだ。
だけど、アリス嬢の行方を尋ねたミリアは、盲目になってアリス嬢を思っていた彼女とは全く違う人間のように見えた。
「アリスは、きっと王宮ね。」
「王宮?何のために?」
「第二王子と婚約するためよ。イーサンには悪いことをしたわ。」
ミリアが何を言っているのか分からなかったが、あまり良い話ではないらしい。
「ああ、もう、何てこと!話が随分と進んでしまっているじゃない!」
ミリアは悔しそうに、額にパチンと手を当てると男に向き直った。
「ねぇ、悪いけれど私行かなくちゃいけないわ。アリスを止めなくちゃ、大変なことになる。」
「でも、君に彼女を止められるとは思えないんだけど。」
「そんなこと、言ってられないの。アリスを放っておくと、被害者が出てしまうわ。相手が私なら幾分マシだけど、あのクラリッサ嬢に危害が加われば、きっと暴れるのは一人だけではないのよ。それにあの子は、頭が回るから現行犯でないと言い逃れをしようとするじゃない?だから、私が必要なの。
身内だから、忖度するかと言われれば、それは違うと言うわ。寧ろ暴走する彼女とは関係ないとしないと、火の粉が降りかかってくることもあるかもしれないでしょう?」
アリス嬢に会えば、今のままでは利用されて終わりだと思っていたが、どうやらミリアの目は覚めてきているようだ。
「彼女の怒りの矛先が自分に向けられることがあれば、ちゃんと助けを求めてね。」
たまたま隣にいた男が、ミリアと良い関係を築いてきたことに、今のミリアは微笑ましい気になった。
同時に彼が話したアリスは、ミリア以外の人間からすれば、ミリア自身が思い込んでいた彼女像と随分かけ離れている。
「こんなにわかりやすい事実すら、見えていなかったのね。」
急いで荷物をまとめる間に、ミリアは一人でつぶやいた。
どうしてあれほどアリスを愛しい、と思っていたのだか。ミリアは何故かわからないがそんな気持ちが一ミリも残っていない今の自分に、頭を抱えていた。
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