幼馴染は不幸の始まり

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クラリッサの買い物に、当然のように付き添うヴィクトルにクラリッサはもう何も言わなかった。アルバート様からは何の連絡もないが、父からの絶対的な信頼を無下にはできない。

考えすぎるのをやめて見ると、ヴィクトルは見た目もよく、強そうで人避けにはなる、という結論に達した。

顔が綺麗な為に女性が寄ってくるのはまあご愛嬌で。クラリッサを睨みつけてくるような女性には他の護衛が対処した。

クラリッサは後から知ったことだが、ヴィクトル以外に姿を現さなくとも、クラリッサには常時何人かの護衛がついているらしい。

「アリス嬢からの要請を断ったことで、今後逆恨みされて狙われるかもしれない。」

と言われると、ダニエルは恐れてなくとも、第二王子の配下が彼以外にはどんな人物か分からず、念の為護られることにした。

「同じ護衛でも、役割が違うんだ。」の台詞通り、ヴィクトルは観賞用。ちゃんとした護衛は彼らが担ってくれた。

だから、前からではなく、後ろから襲って来た彼女をヴィクトルではない誰かが止めたことも、クラリッサは特に驚いていなかった。

クラリッサが驚いたのはその人物。

「まさか本当に襲って来るなんて思わなかったわ。」

キエス侯爵令嬢にずっとついていた護衛の彼が、クラリッサの護衛達に捕まった時、あまりに予想通りすぎて、罠かと思ったぐらいだが、ある意味素直すぎる彼女らしい。見つかっても、事実ごと揉み消されるとわかっているのか、ニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべている。

「今までどうだったかは知らないが、お前は牢に入ることになる。」

ヴィクトルは捕らえた男に何かを話していた。男はニヤニヤした笑いを突然引っ込めたかと思うと大きな身体でもがいたが、逃げることはできなかった。

「大丈夫だった?」
突然のことに、心臓が鼓動を早めたのはさっきではなく、寧ろ今だ。狙ってやっているのかわからないが、顔が良すぎる。

「あの、それ、わざとですか?」
「バレたか。そうだよ。……なかなか君は手強いね。」

何と勝負しているかわからないが、彼が「変な人」である評価は強まるばかりだった。

「正直なところ、キエス侯爵令嬢の意思だと思います?」
「うん?違うのか?」
「何となく手口が単純すぎません?」

今までの事件もそうだが、一応人気のないところで行ったり、一応の証拠隠滅があったような気がする。今までは。でも、今回はあまりにも犯人がわかりやすい。

「ああ、これも偽物が手配したってことね。それなら、今アリス嬢は偽と真が分裂して動いているってことになるね。」

「なら、偽アリスを捕まえましょう。それで真を罠に嵌めましょう。」

クラリッサの発言に拒否するかと思われたヴィクトルは見たこともない柔らかな笑みで頷いた。

「真アリスよりかは幾分人間らしいからね、彼女は。そうと決まれば準備をしよう。」

ヴィクトルは待ち望んだ復讐の機会だというのに、クラリッサにばかり気を取られていた。策略などはない。ただ嵌めた奴らに仕返しをするだけだ。自分から始めたのに、やり返されたら怒り出す勝手な人間。思い返してみるに、彼方側からすれば自分達は扱い易い駒だっただろう。だからといって一方的に甚振られる趣味はない。

第二王子の方はダニエルに任せて、キエス侯爵はアルバートに任せ、自分の役割は多分ここだ。クラリッサを守り抜くこと。アリスの狙いは、どのみち彼女なのだから。
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