私の日常を返してください

mios

文字の大きさ
上 下
13 / 19

なりすましではなく

しおりを挟む
なりすましというよりは入れ替わりだと男は言った。エリック・バレットに弱みを握られ、伯爵として自分の代わりに仕事をしてくれ、と言われた子爵家の次男坊は、それが犯罪であることを理解してはいたが、平民になるのを遅らせられるのならば、と安易に引き継いだ。

エリックと入れ替わることは、実は随分と昔から幾度となく行ってきたのだと言い、エリック本人は、義母と義妹が自分の顔すらまともに覚えていないことを逆手に取り、彼に自分の役目を押し付けていたようだ。

「エリック本人は、どこにいるんだ?」
「彼は今義妹が入れられた修道院にいる。」
「何でまた。」

「エリックは、義妹を嘲笑いたいんだ。昔から自分には力など何もないのに、偉そうに振る舞う彼女を楽しんで眺めていた。滑稽すぎて、面白いと言いながら。多分復讐とかではなく、単なる趣味として。」

ランディは彼の話すエリックに、本人らしさを感じた為、その話を信じた。

ランディが聞いたエリックと記憶の中のエリックが一致しなかったのは、別人が演じていたせいだった。

「確かにあいつは、性格が悪いからな。」

エリックになりすましていた男は、フリードと言って、子爵家を継げなかった為に今の身分は平民だ。平民ならば貴族の命令には逆らえないと、なりすましの罪も、現状を考慮される筈である。


フリードによると、エリックとフリードの度々の入れ替わりに気づく者は居なかった。エリックがそもそも表に出る気もなかったし、伯爵家ではエリックはいない者とされていて、侍従や侍女なども最低限しかつけられていなかった。それは義母や義妹の嫌がらせでしかないが、エリックはそれを喜んで受け入れていた。

フリードは最初はエリックに取り入って卒業後、エリックの侍従となって雇って貰おうと企んでいたのだが。

「お前に、エリック・バレットを貸してやる。うまく使えよ?」

伯爵の侍従になる筈が、何故か伯爵になってしまったフリード。そこから先の苦労は同じような立場のランディは、目に浮かぶようである。

若くして当主になる貴族達は、凡人にはない才能を持っている為、当然ながら凡人の気持ちなどは、わからないし、興味もないらしい。

話の途中でふと同情しかけ、ユージーンの顔を思い出して正気を取り戻した。

「リラさんを、囲うのは、エリックの命令か。」
「いや、まあ、リラさんのことは、エリック様も気に入ってはいたみたいだが、違う。私の独断だ。」

リラはランディとフリードの会話を聞いて、きっと聞きたいことがたくさんあるだろうに、黙っていてくれた。

「リラさんは、私達の入れ替わりを目撃している唯一の人だから、口封じの意味も込めて、囲い込もうとしたんだよ。」

「「え?」」

今度はリラとランディの声が重なる。

リラの反応から、勘違いであるとわかったのかフリードはまた体を小さくして謝る体勢に入っている。

さっきの紹介の通り、リラはエリック本人に会ったことはないという。ずっとフリード版のエリックを本人だと思い込んでいた。

「この件は、独断では決められないから、
主人に判断を仰ぐことにする。」

ユージーンにはきっと厄介事を持って来たと叱責されるだろうが、少しは此方とて嫌がらせをしておかねば、ストレスが溜まってしまう。

ランディは力無く俯くフリードとリラを連れて、公爵家に向かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴方にはもう愛されてないのでサヨナラでーす!

ラフレシア
恋愛
 貴方にはもう愛されてないのでサヨナラでーす!

ゲロトラップダンジョン-女騎士は適量とペースを守って酒なんかに負けたりはしない!-

春海水亭
ファンタジー
女騎士ノミホ・ディモ・ジュースノーム(20)は王命を受け、ダンジョンの攻略に挑む。 だが、ノミホの屈強なる精神力を見込まれて赴いた先は、 すえた吐瀉物と濃いアルコールの臭いが立ち込めるゲロトラップダンジョンであった。 ノミホは先人が残した嘔吐マッピング機能を利用して、ゲロトラップダンジョンの攻略を開始する。

もう我慢なんてしません!家族からうとまれていた俺は、家を出て冒険者になります!

をち。
BL
公爵家の3男として生まれた俺は、家族からうとまれていた。 母が俺を産んだせいで命を落としたからだそうだ。 俺は生まれつき魔力が多い。 魔力が多い子供を産むのは命がけだという。 父も兄弟も、お腹の子を諦めるよう母を説得したらしい。 それでも母は俺を庇った。 そして…母の命と引き換えに俺が生まれた、というわけである。 こうして生を受けた俺を待っていたのは、家族からの精神的な虐待だった。 父親からは居ないものとして扱われ、兄たちには敵意を向けられ…。 最低限の食事や世話のみで、物置のような部屋に放置されていたのである。 後に、ある人物の悪意の介在せいだったと分かったのだが。その時の俺には分からなかった。 1人ぼっちの部屋には、時折兄弟が来た。 「お母様を返してよ」 言葉の中身はよくわからなかったが、自分に向けられる敵意と憎しみは感じた。 ただ悲しかった。辛かった。 だれでもいいから、 暖かな目で、優しい声で俺に話しかけて欲しい。 ただそれだけを願って毎日を過ごした。 物ごごろがつき1人で歩けるようになると、俺はひとりで部屋から出て 屋敷の中をうろついた。 だれか俺に優しくしてくれる人がいるかもしれないと思ったのだ。 召使やらに話しかけてみたが、みな俺をいないものとして扱った。 それでも、みんなの会話を聞いたりやりとりを見たりして、俺は言葉を覚えた。 そして遂に自分のおかれた厳しい状況を…理解してしまったのである。 母の元侍女だという女の人が、教えてくれたのだ。 俺は「いらない子」なのだと。 (ぼくはかあさまをころしてうまれたんだ。 だから、みんなぼくのことがきらいなんだ。 だから、みんなぼくのことをにくんでいるんだ。 ぼくは「いらないこ」だった。 ぼくがあいされることはないんだ。) わずかに縋っていた希望が打ち砕かれ、絶望しサフィ心は砕けはじめた。 そしてそんなサフィを救うため、前世の俺「須藤卓也」の記憶が蘇ったのである。 「いやいや、俺が悪いんじゃなくね?」 公爵や兄たちが後悔した時にはもう遅い。 俺は今の家族を捨て、新たな家族と仲間を選んだのだ。 ★注意★ ご都合主義です。基本的にチート溺愛です。ざまぁは軽め。みんな主人公は激甘です。みんな幸せになります。 ひたすら主人公かわいいです。 苦手な方はそっ閉じを! 憎まれ3男の無双! 初投稿です。細かな矛盾などはお許しを… 感想など、コメント頂ければ作者モチベが上がりますw

【完結】飛行機で事故に遭ったら仙人達が存在する異世界に飛んだので、自分も仙人になろうと思います ー何事もやってみなくちゃわからないー

光城 朱純
ファンタジー
空から落ちてる最中の私を助けてくれたのは、超美形の男の人。 誰もいない草原で、私を拾ってくれたのは破壊力抜群のイケメン男子。 私の目の前に現れたのは、サラ艶髪の美しい王子顔。 えぇ?! 私、仙人になれるの?! 異世界に飛んできたはずなのに、何やれば良いかわかんないし、案内する神様も出てこないし。 それなら、仙人になりまーす。 だって、その方が楽しそうじゃない? 辛いことだって、楽しいことが待ってると思えば、何だって乗り越えられるよ。 ケセラセラだ。 私を救ってくれた仙人様は、何だか色々抱えてそうだけど。 まぁ、何とかなるよ。 貴方のこと、忘れたりしないから 一緒に、生きていこう。 表紙はAIによる作成です。

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

異世界漫遊記 〜異世界に来たので仲間と楽しく、美味しく世界を旅します〜

カイ
ファンタジー
主人公の沖 紫惠琉(おき しえる)は会社からの帰り道、不思議な店を訪れる。 その店でいくつかの品を持たされ、自宅への帰り道、異世界への穴に落ちる。 落ちた先で紫惠琉はいろいろな仲間と穏やかながらも時々刺激的な旅へと旅立つのだった。

【完結】異世界転移パパは不眠症王子の抱き枕と化す~愛する息子のために底辺脱出を望みます!~

北川晶
BL
目つき最悪不眠症王子×息子溺愛パパ医者の、じれキュン異世界BL。本編と、パパの息子である小枝が主役の第二章も完結。姉の子を引き取りパパになった大樹は穴に落ち、息子の小枝が前世で過ごした異世界に転移した。戸惑いながらも、医者の知識と自身の麻酔効果スキル『スリーパー』小枝の清浄化スキル『クリーン』で人助けをするが。ひょんなことから奴隷堕ちしてしまう。医師奴隷として戦場の最前線に送られる大樹と小枝。そこで傷病人を治療しまくっていたが、第二王子ディオンの治療もすることに。だが重度の不眠症だった王子はスリーパーを欲しがり、大樹を所有奴隷にする。大きな身分差の中でふたりは徐々に距離を縮めていくが…。異世界履修済み息子とパパが底辺から抜け出すために頑張ります。大樹は奴隷の身から脱出できるのか? そしてディオンはニコイチ親子を攻略できるのか?

王妃となったアンゼリカ

わらびもち
恋愛
婚約者を責め立て鬱状態へと追い込んだ王太子。 そんな彼の新たな婚約者へと選ばれたグリフォン公爵家の息女アンゼリカ。 彼女は国王と王太子を相手にこう告げる。 「ひとつ条件を呑んで頂けるのでしたら、婚約をお受けしましょう」 ※以前の作品『フランチェスカ王女の婿取り』『貴方といると、お茶が不味い』が先の恋愛小説大賞で奨励賞に選ばれました。 これもご投票頂いた皆様のおかげです! 本当にありがとうございました!

処理中です...