私の日常を返してください

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レーナ

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レーナ・バレットは、エリックをずっと虐げて生きて来た。それは伯爵家の常識だったので、咎められ平民として外に出されてからも何が悪いかなんて、わかっていなかった。

エリックが気にかけている、リラとか言う平民の侍女見習いも、何だかんだと理由をつけて、虐めて遊んでいたが、気づけば居なくなっていた。

義兄から元気がなくなっていく様は、見ていて気持ちが良く、リラをいじめる楽しみはなくなったものの、レーナは満足していた。

レーナからすると、義兄は辛気臭く、華のない、冴えない男。伯爵になったとて、その印象は変わることはない。

公爵家に仕事があるかもしれない、と連れてこられた場で、リラの姿を見つけたのはラッキーとしか言いようがない。リラの解雇が間違いだったと知り、焦る係の男を上手く言い含め、リラの身上書と自分のものを入れ替えると、自分はレーナからリラに早変わりをした。

公爵家に入り込んだレーナを、咎めたのはカトリーヌとか言うお嬢様だったが、リラのことを話しただけで、人の良い彼女はレーナを信じた。

「そういえば聞いたことがあるわ。あなたの事をリラさんは、凄く優しいと褒めていたわ。」

あれだけ虐め倒したのに、本気でレーナを良い人だと信じてるなんてリラは馬鹿な子だ。

「宝石を盗んだ犯人にされそうになったのを助けてもらったとか。」

だってあれは狂言だもの。実際には自分で売った後なんだけど、あれ、貰い物なのよね。まさか、人から贈られた物を売っている、なんて知られたらまずいじゃない。

それに、あんなの証拠なんてなくて良いの。そう言う場面で疑われるような人だと知らしめられたらそれでいいし、結局は許す事で、主人である自分の価値も上がるでしょう。慈悲深いとか、お優しい、とかね。

公爵家のお嬢様は騙せても、使用人達は皆簡単には騙されてくれなかった。リラの顔を知らないはずなのに、レーナの仕事ぶりを見て、首を傾げる者がいた。

「貴女、本当に侍女だったの?見習いでももう少しできるわよ?」

レーナが見ているリラの仕事ぶりといえば、エリックを誑かすことぐらい。でも、今のリラは自分なのだから、真実を話すことはできない。

「申し訳ございません。このような業務は慣れてないのです。」

伯爵家とは異なる業務のせいだと言い訳をして、レーナは何とか追及を避けていた。

でも、伯爵家の元使用人のせいで全てがなくなってしまった。

ガイとか言う元騎士の男が何故公爵家に?と思えば、この声のでかい男はハダン公爵家の有する騎士団の指南役としてよく顔を出していたようだ。

まさか、あんな男に企みをめちゃくちゃにされるなんて。ギリギリと、悔しさに震えていると、少しして、先程のルースという男がやってきて、別のこれまた見目のよい男を連れて来た。

公爵様ほどではなくとも、ルースといい、彼といい、見目で選んでいるのかと疑うほどに、彼らの顔は良い。顔の良い男が性格も良いかと言うと、それは人によるものらしい。

レーナは彼を懐柔すれば良いのかと、気色ばんだが、実際にはガイによって修道院に入れられてしまった。

ガイは見当はずれの同情心がある癖に、全然騙されても逃してもくれなくて、レーナは平民として一番下の修道女として働くことになった。




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