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男爵の思惑

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ダレル男爵は床に頭を押しつけて目の前の騎士に謝っていた。四年ほど前に引き取って育ててきた娘があろうことか公爵家に知らない間に借金をこさえていたのを、娘ではなく、取立てにきた者から聞いたのだ。

取立てとは言ってもさすが公爵家。おいそれとわかるならず者ではない。もっと悪い。騎士服に身を包んだ正真正銘の騎士だ。

多数の騎士が訪れた男爵家を物珍しそうに見ている貴族達。真相がどうであれ、これから面白おかしく語られる。貴族の末端に位置しながら、恥ずかしげもなく、男にすり寄るご令嬢がいる、と既に噂は独り歩きをしているからだ。

元々は、クレール伯爵家から借りたお金を中々返さなかったため、公爵家が債権を買ったと言う。また伯爵令嬢の婚約者まで、奪ったそうだ。

相手の男は、伯爵家より劣る子爵家と言うこともあり、令嬢達から多大な批判を受けているらしい。


よりにもよって、クレール伯爵家かと、ダレル男爵は苦虫を噛み潰す。クレール伯爵家は、爵位こそ伯爵位だが、王家との親交が厚く、社交界でも力を持っている。最近、公爵家とは御令嬢を通して、仲良くなっていると言う。

やはり身元のはっきりしない庶子など引き取るのではなかった。実際に血の繋がりがあるのかもハッキリしないのに。

最愛の妻との間には子供が出来なかった。孤児の中に、生前の妻に少し似た女児がいたから、娘として引き取ったにすぎない。妻と似ているのは髪色と目の色だけで、中身は全く似ていなかった。

はじめは可愛かった。けれど、だんだん鼻につくようになった。使用人に対する態度が悪く、何度も説教したが、効果はなく、家庭教師をつけても、何も覚えない。

そのうち、関わりを持つのをやめてしまった。

ああ、あの時、放り出せていたなら、こんなことにはならなかったのだ。

金払いの良い嫁ぎ先を見つけなければ。婚約者のいる男に言い寄り、婚約破棄の慰謝料を払えと、複数の貴族から訴えられているのだ。

まずは、娘を売って、爵位を売ろう。それなら、私一人なら助かるはずだ。屋敷も売れば良い。妻のいない人生など生きていても意味はない。

いっそのこと、死んだら楽になれるのではないか。娘に後を任せて、自分は死ねば、いいのではないか。

借用書には返済期限が書いてあり、その期限までに最低でも一割は返さなくてはならない。全額の借金を伯爵家なら無期限で貸していたと知り、呆れてものが言えない。娘は、無期限を、返さなくていい、と捉えていたらしいが、そんなわけはない。

クレール伯爵令嬢は、大層お優しい方だったのだと、何故わからない。そんなお前だから、見放されたのだ。

娘として育ててきたのが、間違いであったと今なら思える。私はやはり娘を嫁がせてから、死ぬ事にしよう。

帰る場所がなければ、娘だって諦めるだろう。ミゼー子爵家は、前々から娘を御所望だが、中々のゲス 野郎の為踏ん切りがつかなかった相手だ。だが、娘を売れば、借金を全額補えるだけのお金が手に入る。

私は邪魔者を消すことが出来て、借金も返せば、私をこの世に縛るものはなくなる。

やっと、妻の元へ行くことができるのだ。

気がかわらないうちに、ミゼー子爵家へ手紙を出す。

すぐに返事が来て、近日中に貰い受けるとのこと。これであとは、使用人に暇を出し、家を売れば終わりだ。
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