怖い人だと知っていました

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第一部 ダリアとリュード

ダリアの父

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モスカント伯爵が王城に呼ばれたのはつい先程のことだという。伯爵家の庶子が、クルデリス公爵夫人に毒を使い殺そうとした件の参考人として呼ばれたのだった。

伯爵は長女であるダリアを冷遇し、反対に庶子のソフィーを可愛がっていたという証言から、彼はダリアを殺そうと命令を出した黒幕と思われた。

だが、彼がそうではないことはダリアにはわかっている。彼には考える力がない。小悪党にはなれても真の悪党にはなれない。悲しいかな、彼はいつかすごいことをやってやる、と言い続けるだけの凡人だ。

伯爵がダリアの無事を確かめたいと、リュードに願い出たというが、彼は断った。黒幕とは思わないにしろ、ダリアを蔑ろにする人間を屋敷に入れる気はない、と。

「やっぱり貴方には血も涙もないんですね。私は可愛い娘の安否を気にしただけなのに。それとも、娘に会わせられないのには何か別の理由があるんですか。」

「別の理由とは?」

「ダリアはこちらに来てからずっと伯爵家に帰ることも手紙を寄越したことも、碌にありません。昔は家族思いの良い子だったのに、貴方達が、あの子を虐げているんでしょう。」

驚いたのはこの言葉が、ダリアの目の前で発せられたことだ。ダリアの父であるはずの伯爵は、娘の顔を忘れてしまったらしい。困惑しながら、夫を見ると、父は尚も続ける。今度はダリアを睨みつけ、「ダリアを愛せないのは仕方ありませんが、あの子の父の前で恋人との仲を見せつけるのはあまりにも、無礼なのでは?」

「伯爵様、貴方、娘の顔も忘れたのですか?それとも、本当の娘ではないから、覚えなかったのですか?」

ダリアが呆れて問い詰めるも、何のことかわからない様子で呆けている。

「貴方の愛するダリアは、どのような特徴をお持ちですか?髪の色は?瞳の色は?顔の特徴は?好きな色は?瞳の形は?唇は厚いですか、薄いですか?鼻の形は?顔色は良いですか?悪いですか?」

いくら何でも声でわかるかと思ったのに、それもなく。

ダリアはわかっていただけに、ショックは受けなかったが、伯爵には人を見る目が皆無なのだと、受け入れることができた。

彼はダリアだけでなく、誰にもこうなのだろう。一度目と二度目の人生で、ずっと不思議に思っていたことが、ようやく上手く嵌り、答えを導き出した、そんな感覚だ。

「貴方、娘の違いはわかりますか?貴方には三人の娘がいますよね。その違いは?」

「私の娘はルチアだけだ。ヒラリーとかいうメイドには私以外に男がいるし、ダリアの母については、私は押し付けられただけで、手を出してはいない。だけど、ダリアは手元にいて私が育てた女だ。血の繋がりはなくとも、あの子は私のものだ。」

「いいえ、彼女は既に貴方の手を離れています。今は公爵夫人として、愛し愛されています。」

「なら、どうして、あの子がいないんだ。あの子がいたら。全てが元通りになるのに、肝心なところでいつもいない。」

伯爵は急に声を荒げたかと思ったら、ダリアについて淡々と話し始めたりして、何となくおかしい。

「伯爵様は、モスカント伯爵家に伝わる能力についてご存知なのね。」

そう問いかけると、伯爵は急に黙る。

「やっぱり父には隠し事は向かないようですわ。何かあるって、私でもわかりましたもの。」

リュードは残りは何とかすると、ダリアに伝えたが、ダリアは顛末を聞きたがった。テオドールからの了承が取れると、最終的な裁きが行われた。

伯爵は、王城の牢に収監された。
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