9 / 19
第一部 ダリアとリュード
言葉はいらない
しおりを挟む
あれから、ダリアは探していた人物と再会した。旦那様が折角探してくださったと言うのに、いざ会ってみると、妙な居心地の悪さがあって、ダリアは心の中で苦笑した。
何故かいる第四王子も、助けてくれようとした使用人の男性も、どこか用意されていた感があって、ダリアには面倒事が押し寄せてきたような感覚が芽生えてしまった。つい旦那様ばかり見てしまった気がする。
「伯爵家の悪事に関する資料を集めて下さりありがとうございました。勝手に使ってしまい、申し訳ありません。」
「こちらこそ、ちゃんと説明せずですみませんでした。お嬢様がお気に召すかが、分かりませんでしたので。使っていただけたのなら、集めた甲斐がありました。」
確かに。一度目は用意して貰っておいて使わなかったのだから、彼の行動を咎められない。
挨拶をして、謝罪をしたら、特に会話は続かない。一度目もそうだが、彼との接点といえば、あの一度だけ。他の使用人とは異なる存在ではあるが、嫌いではない、と言うだけで、全く知らない人であることには変わりなかった。
会話が落ち着くと、今までひっそりと様子を見ていた第四王子テオドールが主導権を握る。
「夫人には少し説明させて貰いたいのだけど、モスカント伯爵家を潰すのは少し待って欲しいんだ。実は今回王家から公爵に頼んでいる別件があってね。当初はその件が伯爵家とは関係ないと思っていたんだが、夫人に盛られていた毒と今回見つかったこの新たな毒が、その王家の別件と関与するかもしれないことがわかったんだ。だから、申し訳ないんだけど伯爵家を潰すのと同時に此方も片付けたくてね。特に夫人に頼むことはないのだけど、強いて言うなら、公爵の側を離れないでね、ということぐらいかな。」
「私の義妹がその件に関わっていると言うことですか?」
義妹がダリアに毒を盛っていたことは先程旦那様から聞いた。まさかそこまでして、とは思ったものの、同時にあの子ならやりかねない、と言う妙な信頼もあって、納得してしまった。
自分の命が脅かされていたと言うのに、顔色一つ変えないダリアを、旦那様は心配そうにみていたが、今に始まった事じゃないので心配しないで欲しい。
「毒の入手方法によるけれど、どちらかというと彼女より……とまあ、ここからは少し物騒な話になるから、夫人には言えないかな。ごめんね。」
「いえ、知らなくて良いことは知ろうとは思いません。変な質問をして申し訳ありませんでした。」
下手に薮を突いて、変な横槍を入れられては本末転倒だ。最終的には知ることになるにしろ、今は余計なことで、心を乱されてはかなわない。ダリアが気をつけていてもいつまた悪い方へ向かうことになるかわからないのだ。
彼の側にずっといたいダリアは分を弁えることに重きをおいていた。自分は耐性があるとしても決して強い方ではない。それに初めからそんなに、正義感などは持ち合わせていないので、伯爵家は憎いが、彼らに傷つけられた他人に申し訳ない、という気持ちも然程持ち合わせていないのである。
一度目の自分を、弱かった自分を超えたいだけの自分に、誰かを救う力なんてない。
彼らはその後、すぐに帰っていった。旦那様は以前より心配症になってしまい、先程からダリアの後ろをついてくる。多分ダリアが彼らに言われたことでショックを受けている、と思っているらしい。
何故か旦那様まで心なしか落ち込んでいるように見えて、大型犬をわしゃわしゃしたい気分になってしまった。
とはいえ、人間の旦那様にそんなことができるわけもない。どうしようか迷っていると、部屋に入るのと同時に、旦那様から抱っこの洗礼があった。
座っている旦那様に横抱きにされただけ、なのだが……ダリアの思考が停止したのは言うまでもない。
彼はそのままの体勢で使用人を呼ぶとお茶と甘いものが並べられる。
一つずつ、口元に運んで食べさせてくれるが、その際言葉などはない。
疲れた時には甘いもの、とは言うけれど、それを体現してくれているのだろうか。動こうにも力が強くて動けないけれどダリアは、リュードの優しさが嬉しかった。気恥ずかしくはあるが、折角なので思う存分甘えることにした。
緊張していたからか、リュードの温かさと香りに落ち着く。
「……泣くな。」
「泣いてません。」
何故か泣きそうになっているだけでまだ泣いてはいない。だって泣く理由がない。
それでも泣きそうな顔を見ないように抱きしめ方を変えてくれるリュードに、ダリアは幸せを感じていた。
何故かいる第四王子も、助けてくれようとした使用人の男性も、どこか用意されていた感があって、ダリアには面倒事が押し寄せてきたような感覚が芽生えてしまった。つい旦那様ばかり見てしまった気がする。
「伯爵家の悪事に関する資料を集めて下さりありがとうございました。勝手に使ってしまい、申し訳ありません。」
「こちらこそ、ちゃんと説明せずですみませんでした。お嬢様がお気に召すかが、分かりませんでしたので。使っていただけたのなら、集めた甲斐がありました。」
確かに。一度目は用意して貰っておいて使わなかったのだから、彼の行動を咎められない。
挨拶をして、謝罪をしたら、特に会話は続かない。一度目もそうだが、彼との接点といえば、あの一度だけ。他の使用人とは異なる存在ではあるが、嫌いではない、と言うだけで、全く知らない人であることには変わりなかった。
会話が落ち着くと、今までひっそりと様子を見ていた第四王子テオドールが主導権を握る。
「夫人には少し説明させて貰いたいのだけど、モスカント伯爵家を潰すのは少し待って欲しいんだ。実は今回王家から公爵に頼んでいる別件があってね。当初はその件が伯爵家とは関係ないと思っていたんだが、夫人に盛られていた毒と今回見つかったこの新たな毒が、その王家の別件と関与するかもしれないことがわかったんだ。だから、申し訳ないんだけど伯爵家を潰すのと同時に此方も片付けたくてね。特に夫人に頼むことはないのだけど、強いて言うなら、公爵の側を離れないでね、ということぐらいかな。」
「私の義妹がその件に関わっていると言うことですか?」
義妹がダリアに毒を盛っていたことは先程旦那様から聞いた。まさかそこまでして、とは思ったものの、同時にあの子ならやりかねない、と言う妙な信頼もあって、納得してしまった。
自分の命が脅かされていたと言うのに、顔色一つ変えないダリアを、旦那様は心配そうにみていたが、今に始まった事じゃないので心配しないで欲しい。
「毒の入手方法によるけれど、どちらかというと彼女より……とまあ、ここからは少し物騒な話になるから、夫人には言えないかな。ごめんね。」
「いえ、知らなくて良いことは知ろうとは思いません。変な質問をして申し訳ありませんでした。」
下手に薮を突いて、変な横槍を入れられては本末転倒だ。最終的には知ることになるにしろ、今は余計なことで、心を乱されてはかなわない。ダリアが気をつけていてもいつまた悪い方へ向かうことになるかわからないのだ。
彼の側にずっといたいダリアは分を弁えることに重きをおいていた。自分は耐性があるとしても決して強い方ではない。それに初めからそんなに、正義感などは持ち合わせていないので、伯爵家は憎いが、彼らに傷つけられた他人に申し訳ない、という気持ちも然程持ち合わせていないのである。
一度目の自分を、弱かった自分を超えたいだけの自分に、誰かを救う力なんてない。
彼らはその後、すぐに帰っていった。旦那様は以前より心配症になってしまい、先程からダリアの後ろをついてくる。多分ダリアが彼らに言われたことでショックを受けている、と思っているらしい。
何故か旦那様まで心なしか落ち込んでいるように見えて、大型犬をわしゃわしゃしたい気分になってしまった。
とはいえ、人間の旦那様にそんなことができるわけもない。どうしようか迷っていると、部屋に入るのと同時に、旦那様から抱っこの洗礼があった。
座っている旦那様に横抱きにされただけ、なのだが……ダリアの思考が停止したのは言うまでもない。
彼はそのままの体勢で使用人を呼ぶとお茶と甘いものが並べられる。
一つずつ、口元に運んで食べさせてくれるが、その際言葉などはない。
疲れた時には甘いもの、とは言うけれど、それを体現してくれているのだろうか。動こうにも力が強くて動けないけれどダリアは、リュードの優しさが嬉しかった。気恥ずかしくはあるが、折角なので思う存分甘えることにした。
緊張していたからか、リュードの温かさと香りに落ち着く。
「……泣くな。」
「泣いてません。」
何故か泣きそうになっているだけでまだ泣いてはいない。だって泣く理由がない。
それでも泣きそうな顔を見ないように抱きしめ方を変えてくれるリュードに、ダリアは幸せを感じていた。
3
お気に入りに追加
834
あなたにおすすめの小説
最後のスチルを完成させたら、詰んだんですけど
mios
恋愛
「これでスチルコンプリートだね?」
愛しのジークフリート殿下に微笑まれ、顔色を変えたヒロイン、モニカ。
「え?スチル?え?」
「今日この日この瞬間が最後のスチルなのだろう?ヒロインとしての感想はいかがかな?」
6話完結+番外編1話
追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。
婚約者の頭の中にはおがくずが詰まっている
mios
恋愛
言葉が通じないので、多分そう言うこと。
浮気性の婚約者に婚約破棄を持ちかけたところ、溺愛された不憫なご令嬢。
そんなの聞いてないんですけど。
7話完結
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
ヒロインガチャがまた外れました
mios
恋愛
第一王子のサイモンは机に突っ伏したまま動けない。この国に祀られている女神様よりヒロインガチャと言うものを下賜されたものの、未だに当たりが出たためしがない。
何故だ、何故、ヒドインばかり引くのだ!まともなヒロインを寄越せ!と叫ぶ第一王子とその婚約者ミリー。
1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。
尾道小町
恋愛
登場人物紹介
ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢
17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。
ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。
シェーン・ロングベルク公爵 25歳
結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。
ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳
優秀でシェーンに、こき使われている。
コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳
ヴィヴィアンの幼馴染み。
アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳
シェーンの元婚約者。
ルーク・ダルシュール侯爵25歳
嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。
ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。
ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。
この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。
ジュリアン・スチール公爵令嬢18歳デビット王太子殿下の婚約者。
ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳
私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。
一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。
正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?
王子の婚約者の決定が、候補者によるジャンケンの結果であることを王子は知らない
mios
恋愛
第一王子の婚約者は、コリーナ・ザガン伯爵令嬢に決定した。彼女は目にうっすらと涙を浮かべていたが、皆嬉し涙だと思っていた。
だが、他の候補者だったご令嬢は知っている。誰もなりたがらなかった婚約者の地位を候補者達は、厳正なるジャンケンで決めたことを。二連勝の後の五連敗で、彼女はなりたくもない王子の婚約者に決定してしまった。
夫に離縁が切り出せません
えんどう
恋愛
初めて会った時から無口で無愛想な上に、夫婦となってからもまともな会話は無く身体を重ねてもそれは変わらない。挙げ句の果てに外に女までいるらしい。
妊娠した日にお腹の子供が産まれたら離縁して好きなことをしようと思っていたのだが──。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる