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ロザリアのその後
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ロザリアは修道院に入らざるを得なかった。誰も助けに来ないどころか兄までもが裏切ったのだ。
家族に虐げられた自分を悲劇のヒロインだと思ったが、肝心の助けてくれる人がいない。
修道院にいるのは敬虔な神の僕であって、ロザリアを愛するはずの王子様ではないのだ。年季の入ったお爺さんの司祭様に、厳しい表情のお婆さんがロザリアを出迎える。
どうにかして、同情を誘おうとしても、お婆さんの目も腕も掻い潜れる気がしない。
「さあさあ、それが終わればこちらもまだあるのよ。」
次から次へ労働が待っている。
「私、慣れていなくて時間がかかるから。」
「大丈夫。誰でも最初は初めてなんだから。それに貴女のご実家から言われているのよ。貴女はすぐにサボろうとするから見張ってくださいって。辛くすればするほど力がみなぎる子なんです、って。私なんかは優しく教えて欲しいけどね、貴女とても変わってるわね。」
そんなことを言うのはきっとシスティーナだ、と思うものの、ここには本人がいないし、話を聞いて噂を流してくれる便利な取り巻きもいない。
「ああ、もう意味がないじゃない。」
取り繕う意味すらないのだから、ロザリアはどんどん素の自分に戻っていった。
「貴女、今の方が話しやすくて良いと思うわ。」
若いのにはっきりものを言うロザリアは修道女の中で人気になった。そんなことは全く望んでいなかったけれど、貴族として生き続けるよりは楽に生きられているような気がして、ロザリアは苦笑した。
ロザリアに王子様はやってこない。いるのは老人と神様だけ。
「こんなことなら姉にも媚を売っておけば良かったわ。」
ロザリアの敗因は、システィーナを敵と見做したことだ。アランを奪い、自分が彼女に勝とうとした。その為に必死に足掻いた自分を愚かに思う。
システィーナに勝とうと思わなければ、今でも貴族でいられたとは思うけれど、今こうして、クッキーを焼いて、孤児院の子供と分け合って食べる時間も幸せだ。
子供達を見ていると、我儘がかわいいと思って貰える内に、やめておけばよかったのだと冷静に思うことができる。
「ね。これ読んで。」
何も言わないうちから、子供はロザリアの膝の上に乗って、絵本を広げている。ロザリアの泣きの演技は子供達に好評だ。絵本に出てくる悲劇のヒロインの口調は、以前のロザリアを彷彿とさせる。
「……幸せになりました。めでたしめでたし。」
喜ぶ子供達の顔を見ると、昔の自分も無駄にはならないことを知った。
自分は、幸せのヒロインにはなれなかったけれど、ロザリアは今の状況にもう文句は出なかった。
家族に虐げられた自分を悲劇のヒロインだと思ったが、肝心の助けてくれる人がいない。
修道院にいるのは敬虔な神の僕であって、ロザリアを愛するはずの王子様ではないのだ。年季の入ったお爺さんの司祭様に、厳しい表情のお婆さんがロザリアを出迎える。
どうにかして、同情を誘おうとしても、お婆さんの目も腕も掻い潜れる気がしない。
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「ね。これ読んで。」
何も言わないうちから、子供はロザリアの膝の上に乗って、絵本を広げている。ロザリアの泣きの演技は子供達に好評だ。絵本に出てくる悲劇のヒロインの口調は、以前のロザリアを彷彿とさせる。
「……幸せになりました。めでたしめでたし。」
喜ぶ子供達の顔を見ると、昔の自分も無駄にはならないことを知った。
自分は、幸せのヒロインにはなれなかったけれど、ロザリアは今の状況にもう文句は出なかった。
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