上 下
6 / 16

嘘から出た嘘

しおりを挟む
「ねえ、あのアンジェリカ様にいじめられている、なんて冗談でも言わない方が良いわ。もしお耳に入ったらどうするつもりなの?」

クロエは、見ず知らずの女に声をかけられたが、いつも通り無視をした。確か同じ男爵家の……ブス。クロエは自分以上に可愛い女の子を見たことがない。女は顔が全てだと思っているから、見た目の悪い女の言うことなんて、聞く気はない。唯一美人だと認識したのはアンジェリカ・ハリエ。

彼女を初めて見た時、クロエはあまりの不公平さに震えた。産まれた家が公爵家で金持ちであの美貌。才能もあって、優しい両親に美男美女の使用人。何でもやりたい放題でも褒められる存在。

ズルくない?

クロエは勝手な老婆心から、何でもできる気になっているアンジェリカ嬢に世間の厳しさを教えてあげなければ、と思ったのだ。

有名人なのだから、こんな小さな嫌がらせぐらい耐えなくてはダメよね。

ラッキーなことに、侯爵家の男の恋人になったら、彼の婚約者があのアンジェリカだと言うから、彼女から男を奪うことにした。

あのアンジェリカから婚約者を奪うという行為は大きな自信になった。

その割にアンジェリカ嬢に会う機会は全くなかったのだけど。彼の良さは、よくわからなかった。確かに顔は良かったけれど、ただそれだけだ。どうせ政略結婚だろうから、仕方がないのかもしれないと思ったし、あの女の好きなタイプなのかもしれない、と深く考えなかった。

「アンジェとの婚約は、まだ公にしてはいけないようだ。」と、彼は言っていたが、うっかりと、クロエはその情報を色々なところで小出しにした。

あのアンジェリカ嬢にいじめられている、と話せば、皆そのことを詳しく聞きたがった。クロエは嘘をついている意識はなかったが、さっきの女のように、彼方此方から「嘘はやめなさい。」と叱られた。

「嘘じゃない。」クロエの話を聞いてくれる人はいた。皆がアンジェリカについて悪口を話すときは、気持ちがこれ以上ないほどにスッキリした。

クロエは男爵家の庶子であることで、周りからいつも遠巻きにされていた。アンジェリカの話をし始めてからは、皆クロエの話を聞いてくれる。話しているうちにアンジェリカはたくさんクロエをいじめてきて、クロエは辛い目にあった。

「いくら公爵令嬢でも、そんな非道な行いは許せないな。」

クロエにはそう言って守ってくれようとする男達が寄って来た。アンジェリカの婚約者という理由で興味を持ったジョシュアは、最終的にはクロエを選ばないのではないか、と思っていたことから、クロエは言い寄ってきた男達を、キープすることにした。

皆が私を好きだというんだから、一人だけなんて選べない。

クロエは、アンジェリカの話をするだけで彼女を知り尽くしたような気になっていた。アンジェリカと、クロエはその時、まだ会ってもいないのだが、そんなことはクロエには関係がなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「聖女に比べてお前には癒しが足りない」と婚約破棄される将来が見えたので、医者になって彼を見返すことにしました。

ぽんぽこ@書籍発売中!!
恋愛
「ジュリア=ミゲット。お前のようなお飾りではなく、俺の病気を癒してくれるマリーこそ、王妃に相応しいのだ!!」 侯爵令嬢だったジュリアはアンドレ王子の婚約者だった。王妃教育はあんまり乗り気ではなかったけれど、それが役目なのだからとそれなりに頑張ってきた。だがそんな彼女はとある夢を見た。三年後の婚姻式で、アンドレ王子に婚約破棄を言い渡される悪夢を。 「……認めませんわ。あんな未来は絶対にお断り致します」 そんな夢を回避するため、ジュリアは行動を開始する。

お姉様は嘘つきです! ~信じてくれない毒親に期待するのをやめて、私は新しい場所で生きていく! と思ったら、黒の王太子様がお呼びです?

朱音ゆうひ
恋愛
男爵家の令嬢アリシアは、姉ルーミアに「悪魔憑き」のレッテルをはられて家を追い出されようとしていた。 何を言っても信じてくれない毒親には、もう期待しない。私は家族のいない新しい場所で生きていく!   と思ったら、黒の王太子様からの招待状が届いたのだけど? 別サイトにも投稿してます(https://ncode.syosetu.com/n0606ip/)

無能だと捨てられた王子を押し付けられた結果、溺愛されてます

佐崎咲
恋愛
「殿下にはもっとふさわしい人がいると思うんです。私は殿下の婚約者を辞退させていただきますわ」 いきなりそんなことを言い出したのは、私の姉ジュリエンヌ。 第二王子ウォルス殿下と私の婚約話が持ち上がったとき、お姉様は王家に嫁ぐのに相応しいのは自分だと父にねだりその座を勝ち取ったのに。 ウォルス殿下は穏やかで王位継承権を争うことを望んでいないと知り、他国の王太子に鞍替えしたのだ。 だが当人であるウォルス殿下は、淡々と受け入れてしまう。 それどころか、お姉様の代わりに婚約者となった私には、これまでとは打って変わって毎日花束を届けてくれ、ドレスをプレゼントしてくれる。   私は姉のやらかしにひたすら申し訳ないと思うばかりなのに、何やら殿下は生き生きとして見えて―― ========= お姉様のスピンオフ始めました。 「体よく国を追い出された悪女はなぜか隣国を立て直すことになった」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/465693299/193448482   ※無断転載・複写はお断りいたします。

好きな人と友人が付き合い始め、しかも嫌われたのですが

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
ナターシャは以前から恋の相談をしていた友人が、自分の想い人ディーンと秘かに付き合うようになっていてショックを受ける。しかし諦めて二人の恋を応援しようと決める。だがディーンから「二度と僕達に話しかけないでくれ」とまで言われ、嫌われていたことにまたまたショック。どうしてこんなに嫌われてしまったのか?卒業パーティーのパートナーも決まっていないし、どうしたらいいの?

【完結】地味と連呼された侯爵令嬢は、華麗に王太子をざまぁする。

佐倉穂波
恋愛
 夜会の最中、フレアは婚約者の王太子ダニエルに婚約破棄を言い渡された。さらに「地味」と連呼された上に、殺人未遂を犯したと断罪されてしまう。  しかし彼女は動じない。  何故なら彼女は── *どうしようもない愚かな男を書きたい欲求に駆られて書いたお話です。

初恋に見切りをつけたら「氷の騎士」が手ぐすね引いて待っていた~それは非常に重い愛でした~

ひとみん
恋愛
メイリフローラは初恋の相手ユアンが大好きだ。振り向いてほしくて会う度求婚するも、困った様にほほ笑まれ受け入れてもらえない。 それが十年続いた。 だから成人した事を機に勝負に出たが惨敗。そして彼女は初恋を捨てた。今までたった 一人しか見ていなかった視野を広げようと。 そう思っていたのに、巷で「氷の騎士」と言われているレイモンドと出会う。 好きな人を追いかけるだけだった令嬢が、両手いっぱいに重い愛を抱えた令息にあっという間に捕まってしまう、そんなお話です。 ツッコミどころ満載の5話完結です。

妹ばかりを贔屓し溺愛する婚約者にウンザリなので、わたしも辺境の大公様と婚約しちゃいます

新世界のウサギさん
恋愛
わたし、リエナは今日婚約者であるローウェンとデートをする予定だった。 ところが、いつになっても彼が現れる気配は無く、待ちぼうけを喰らう羽目になる。 「私はレイナが好きなんだ!」 それなりの誠実さが売りだった彼は突如としてわたしを捨て、妹のレイナにぞっこんになっていく。 こうなったら仕方ないので、わたしも前から繋がりがあった大公様と付き合うことにします!

【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。

櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。 夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。 ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。 あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ? 子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。 「わたくしが代表して修道院へ参ります!」 野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。 この娘、誰!? 王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。 主人公は猫を被っているだけでお転婆です。 完結しました。 小説家になろう様にも投稿しています。

処理中です...