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旅立ち❶妻は夫に怯える
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思いもしない人物が現れ、私の人生がまた変わってしまうのかと、ドキドキした。私は男を見る目がなかった。顔だけが良い、馬鹿な男に青春時代を捧げてしまった。
男は侯爵令息で、顔と家柄以外、何の魅力も持たない男。そう言う私も若い頃は、顔と家柄だけで、フラフラついて行くような頭の悪い女だった。
夫は、伯爵令息で、綺麗で聡明な妹がいる。夫自身はこれといって何の特徴もなく、自分より身分の高い相手かどうかが、何より大切、という人だった。
同じ伯爵令嬢である身としては、可もなく不可もない、普通の人。
ただ、自分に気がある、ということは分かっているから、付かず離れずを繰り返し、キープしていた。
私は強い男が好きだった。明らかに間違いでも押し通したり、強気でいく男に惹かれた。
夫は根はいい人だけど、自分より身分の高い人たちに逆らえないタイプだったから苦労は多いようだった。私は自分のことは棚に上げて、夫を非難したり陥れようとしたりした。侯爵令息に不要だと思われたくなくて、文字通り何でもした。私の同意があるとは言え、きっと大事に思っているとしたら、できないようなことをたくさんされた。
私は家族の中で埋もれて育った。私に注意を向けてくれる人はいなくて、長い間無視されていた。
侯爵令息が、自分を利用しようとしていることは、夫に言われなくともわかっていたし、私では夫の妹にはなり得ないと思った。
侯爵令息ばかり、責められないな、と感じたのは、彼が罠に嵌って、処刑されると、知ったとき、彼の無念や、無実を信じたりすることなく、受け入れてしまった。やりそうだな、と思ってしまった。
あー、侯爵夫人になり損なったわ、勿体ない。
コレが私の本音。
愛していないから、夫人にならなくてよかった。愛していないから、巻き込まれなくて良かったわ。
驚いたのは、私がキープしていた夫が、私を引き受けてくれたこと。一生懸命に私を愛してくれたこと。私は喜びに震えた。私の笑顔はどこか不気味だ、と侯爵令息に言われたことがあり、普段あまり笑わないようにしていたのに、夫にプロポーズをされた時に自然に笑みが溢れた。
夫は驚きを隠さないで、嬉しそうな顔をしていた。私はあの時新しい人生を送る決意をしたのに、亡霊は現れた。
侯爵令息と同じ顔をして、前には聞くことができなかった甘い言葉を私の為に口にして、私の言うことに笑ってくれる亡霊が。
彼はあの酷い男とは違い、私を大切に扱ってくれた。「君は、あんな愚鈍な男で我慢できるのか?」
「愚鈍な男とは誰のことかしら。」
「君の夫のことだよ。ピートだ。」
ああ、夫のことでしたの。
どういうつもりかわかりませんが、ピート様は愚鈍ではありませんわ。
あの方は私を好きすぎるだけなのです。
私の最愛の夫を愚弄した男は、侯爵令息にそっくりな顔をした平民で、私に言い寄ったあと、あろうことか、義妹夫婦に狙いを定めたという。あの男の背後はどれだけガラ空きなのかしら。節穴にもほどがある。義妹の夫は執念深いのよ。そろそろ私だって殺されるかもしれないわ。
妻に執着する点では私の夫といい勝負だと思うけれど、義妹の夫はほとんど病気よ。義妹もいい勝負だとは思うけれど。
男は侯爵令息で、顔と家柄以外、何の魅力も持たない男。そう言う私も若い頃は、顔と家柄だけで、フラフラついて行くような頭の悪い女だった。
夫は、伯爵令息で、綺麗で聡明な妹がいる。夫自身はこれといって何の特徴もなく、自分より身分の高い相手かどうかが、何より大切、という人だった。
同じ伯爵令嬢である身としては、可もなく不可もない、普通の人。
ただ、自分に気がある、ということは分かっているから、付かず離れずを繰り返し、キープしていた。
私は強い男が好きだった。明らかに間違いでも押し通したり、強気でいく男に惹かれた。
夫は根はいい人だけど、自分より身分の高い人たちに逆らえないタイプだったから苦労は多いようだった。私は自分のことは棚に上げて、夫を非難したり陥れようとしたりした。侯爵令息に不要だと思われたくなくて、文字通り何でもした。私の同意があるとは言え、きっと大事に思っているとしたら、できないようなことをたくさんされた。
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侯爵令息が、自分を利用しようとしていることは、夫に言われなくともわかっていたし、私では夫の妹にはなり得ないと思った。
侯爵令息ばかり、責められないな、と感じたのは、彼が罠に嵌って、処刑されると、知ったとき、彼の無念や、無実を信じたりすることなく、受け入れてしまった。やりそうだな、と思ってしまった。
あー、侯爵夫人になり損なったわ、勿体ない。
コレが私の本音。
愛していないから、夫人にならなくてよかった。愛していないから、巻き込まれなくて良かったわ。
驚いたのは、私がキープしていた夫が、私を引き受けてくれたこと。一生懸命に私を愛してくれたこと。私は喜びに震えた。私の笑顔はどこか不気味だ、と侯爵令息に言われたことがあり、普段あまり笑わないようにしていたのに、夫にプロポーズをされた時に自然に笑みが溢れた。
夫は驚きを隠さないで、嬉しそうな顔をしていた。私はあの時新しい人生を送る決意をしたのに、亡霊は現れた。
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彼はあの酷い男とは違い、私を大切に扱ってくれた。「君は、あんな愚鈍な男で我慢できるのか?」
「愚鈍な男とは誰のことかしら。」
「君の夫のことだよ。ピートだ。」
ああ、夫のことでしたの。
どういうつもりかわかりませんが、ピート様は愚鈍ではありませんわ。
あの方は私を好きすぎるだけなのです。
私の最愛の夫を愚弄した男は、侯爵令息にそっくりな顔をした平民で、私に言い寄ったあと、あろうことか、義妹夫婦に狙いを定めたという。あの男の背後はどれだけガラ空きなのかしら。節穴にもほどがある。義妹の夫は執念深いのよ。そろそろ私だって殺されるかもしれないわ。
妻に執着する点では私の夫といい勝負だと思うけれど、義妹の夫はほとんど病気よ。義妹もいい勝負だとは思うけれど。
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(執筆期間:2022/05/03〜05/24)
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
2022/05/30、エタニティブックスにて一位、本当に有難うございます!
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○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。
(作品シェア以外での無断転載など固くお断りします)
○雪さま
(Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21
(pixiv)https://www.pixiv.net/users/2362274
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