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なるようになった後の
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「陛下ったら、清々した顔をなされているわ。」
王妃クラウディアは生まれたばかりの我が子をあやしながら夫を見る。
追い詰められた結果とはいえ、超えてはならない線を超えた愛妾様と彼女を止められなかった恋人に何も罰を与えないことなどはあり得なかった。
だから、邪魔なものを押し付けるように子爵令嬢との政略結婚を整えた。
彼女は元々陛下の後妻を狙っていたサフェル子爵家のご令嬢だ。彼女自身は陛下より学園で出会った男爵令息に夢中で、それでも爵位の都合で子爵の反対に遭っていた。
それが彼自身が伯爵位を与えられたおかげで彼女の夢は叶った。
嬉々として伯爵家の愛の園に足を踏み入れた感想を聞いてみたいと、マリーは言う。マリーとは、ローズと共にミアに付いていた侍女である。
彼女はミアが宮を去ってから王妃が拾った。
優秀さでクラウディアに負けたサフェル家の令嬢ローズは王宮に侍女として入り込んだものの、仕事は全て同僚のマリーに押し付けていて、マリーは毎日不満が溜まっていた。
伯爵夫人の仕事を彼女がこなせるとは思わない。それはミアも同じ。でも次代はどうなるかわからない。何より伯爵が、ミアにしか興味がないのは明白で、二人の間には誰一人入ることを伯爵自身が許していないのだから、その間に飛び込むなら相応の覚悟が必要だ。
愛されて育った貴族令嬢なら尚のこと、ミアを許すことはないだろう。
マリーと陛下は、どちらも、ローズ嬢が嫌いだという点でとても意気投合している。二人の話では、ミアに私のことを何度も「お飾りの王妃」だと、言い聞かせていたらしい。
クラウディアはそんなことで怒ったりはしないけれど、二人は違う。
「そうして蔑んだ立場に自分が立てば、目が覚めるのではないか。」
クラウディアは、自分の過去を振り返って、陛下が初夜に来てくれなかったなら、自分もローズ嬢と同じ立場に置かれて悲しかっただろう、と何ともいえない気持ちになった。
「あの男は形だけの妻に愛を与える様な奴ではない。だからこそ血筋だけを見るならばアレの子であれど、後継者として認めなければ伯爵家は一代で途絶えるぞ。」
ミアは兎も角、陛下はあの伯爵を随分と買っている。
「罰とはいえ、王命は出していないから、子爵令嬢が嫌がるなら、離縁もできるんだから、中々公平だろう。」
離縁するとなると、また陛下に言い寄るんじゃないかと心配になったが、今はもう陛下の後継となる王子が産まれている。
「もし、愛妾になります、と言われたらどうします?」
「必要ない。」陛下は少しだけムッとして、クラウディアの肩を抱いた。
「あの家は、そんなことを本気で考えかねないから、困るんだ。」
「何故あそこまで……失礼ながらあの家は子爵家ですし、どうしてそこまで王家に拘るのでしょうか。」
「出世欲、と言えばそれまでだが、元はと言えば、ローズとかいう娘の母親が、父の婚約者候補だった。見た目は素晴らしく美しいが、気が多く、怠け者で自分の我儘は叶えられて当然だと思っている。結局、母が選ばれて、悔しさから怪しげな隣国の富豪に嫁ごうとしたが、子爵に助けられたようだ。とはいえ、母親は自分が助けられたとは知らないから子爵を恨んでいるらしい。」
「ああ、でしたら母親の悲願を娘に託した、ということですね?ならば、どなたかどこかの富豪でも探しておきますか?」
王妃クラウディアは生まれたばかりの我が子をあやしながら夫を見る。
追い詰められた結果とはいえ、超えてはならない線を超えた愛妾様と彼女を止められなかった恋人に何も罰を与えないことなどはあり得なかった。
だから、邪魔なものを押し付けるように子爵令嬢との政略結婚を整えた。
彼女は元々陛下の後妻を狙っていたサフェル子爵家のご令嬢だ。彼女自身は陛下より学園で出会った男爵令息に夢中で、それでも爵位の都合で子爵の反対に遭っていた。
それが彼自身が伯爵位を与えられたおかげで彼女の夢は叶った。
嬉々として伯爵家の愛の園に足を踏み入れた感想を聞いてみたいと、マリーは言う。マリーとは、ローズと共にミアに付いていた侍女である。
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愛されて育った貴族令嬢なら尚のこと、ミアを許すことはないだろう。
マリーと陛下は、どちらも、ローズ嬢が嫌いだという点でとても意気投合している。二人の話では、ミアに私のことを何度も「お飾りの王妃」だと、言い聞かせていたらしい。
クラウディアはそんなことで怒ったりはしないけれど、二人は違う。
「そうして蔑んだ立場に自分が立てば、目が覚めるのではないか。」
クラウディアは、自分の過去を振り返って、陛下が初夜に来てくれなかったなら、自分もローズ嬢と同じ立場に置かれて悲しかっただろう、と何ともいえない気持ちになった。
「あの男は形だけの妻に愛を与える様な奴ではない。だからこそ血筋だけを見るならばアレの子であれど、後継者として認めなければ伯爵家は一代で途絶えるぞ。」
ミアは兎も角、陛下はあの伯爵を随分と買っている。
「罰とはいえ、王命は出していないから、子爵令嬢が嫌がるなら、離縁もできるんだから、中々公平だろう。」
離縁するとなると、また陛下に言い寄るんじゃないかと心配になったが、今はもう陛下の後継となる王子が産まれている。
「もし、愛妾になります、と言われたらどうします?」
「必要ない。」陛下は少しだけムッとして、クラウディアの肩を抱いた。
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「何故あそこまで……失礼ながらあの家は子爵家ですし、どうしてそこまで王家に拘るのでしょうか。」
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「ああ、でしたら母親の悲願を娘に託した、ということですね?ならば、どなたかどこかの富豪でも探しておきますか?」
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