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堕胎薬と恨み

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堕胎薬は、侍女の裁量で使われた。王宮内において、守るべきは陛下の血筋であり、争いの種は無くしておくべきだ。それが非道なことであっても、侍女がやることは主人を守ること。

ミアは、自分の体調が急に悪くなり、高熱を出したことで、信じていた侍女に堕胎薬を使われたことを理解した。

裏切られた気持ちでいっぱいだったが、陛下が来たら、侍女をクビにしてもらおう、と気持ちを切り替えた。だというのに、それから一週間ほど、陛下はミアの元へ来ることはなかった。

ミアは堪らず、気になって、また王妃の元へ向かった。侍女は一応近くにいるが、勝手に薬を盛られて、子供を殺した相手に、ミアは彼女を信じられなくなっていた。

彼女と共にいた陛下は、慈しむような笑顔をお飾りの王妃に向けていた。誰が見ても今の二人は仲睦まじい夫婦に見える。あの場にいたのは、私だったはずなのに。ミアはあれだけ馬鹿にしていた王妃に強く嫉妬した。

陛下の近くには、あの日泣く泣く別れた男爵令息がいる。陛下に見そめられたからと言って、勝手に捨てた男だが、ミアの頭にはそのようなことは既になくなって、自分を取り戻す為に、彼が来てくれたのだと何とも自分に都合の良い想像をした。

陛下と男爵令息に奪い合われる罪作りな私、とすっかり自分に酔っていたミアは自身を取り巻く冷めた目に気が付かなかった。

あの場で要らないのは、男爵令息じゃなくてあのお飾りの女だわ。ミアは自分のお腹をさすり、王妃を睨み付けた。

それから数日経って、漸く陛下はミアの元へ訪れた。ミアは陛下に侍女のことを告げ口したが、「すまない。」と謝っただけで、何もしてくれなかった。

ミアはその態度に、堕胎薬を盛ったのは、陛下の指示だったのでは、と疑いを持った。

「お腹の子は残念だったが、仕方ない。愛妾の子は、王家の子だとは認められていないから。」

体の不調を確かめながらも、彼の性欲の為に抱かれるのも、ミアが愛妾だからに他ならない。ミアの体調を気遣って、いつもよりは早めに帰ろうとした陛下を部屋に引き留めて、ミアは陛下が王妃の元へ向かうのを阻止する。

陛下は、ミアに縋られたのが嬉しい様で、ミアの背を撫でている。ミアはそうまでして引き留めたのにも関わらず悲しくて涙が溢れた。陛下は、ミアが泣いているのに気づかず、ミアの背を撫でながら、目を閉じている。

悔しくて悲しくてミアは、お飾りの王妃に復讐することを決意した。

きっとあの女が侍女を脅したのだわ。お飾りの癖に。愛されない妃の癖に。

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