お飾りの妃なんて可哀想だと思ったら

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愛妾を選んだのは

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「愛妾、ではなくて側妃と言う道もある。」

陛下はそう私に伝えて、愛妾か側妃か選べと言った。私は男爵令嬢だから、どう転んでも今のままでは側妃などにはなりえない。ただ、私が努力し、側妃になれるほどまでの教育を終えるなら、側妃に相応しい立場を手に入れてやる、と彼は言った。

私は男爵令嬢ではあるものの、勉強は大嫌いで、学園では金持ちの男性に媚びることばかりを繰り返していた。

皆婚約者に愛情など持っておらず、「ミアの方が可愛い」といつも甘やかしてくれた。

彼らの婚約者は皆、愛されてもいないくせにプライドばかり高くて、だから愛されないんだよ、と心の中でバカにしていた。彼らは淑女らしくない私を求めていた。天真爛漫に振る舞えば振る舞うほど喜んでくれた。

だから、淑女教育なんて、面倒だしいらないと思い込んでしまった。だから、側妃になるのはお断りした。

だって側妃だと、難しい公務とかしなきゃいけないんでしょう?愛妾だったら側にいるだけで何にもしなくていいんだもの。


私を妃にしたかったのか、陛下は私の返事に、そうか、と言ったきり、何も言わなかったが、別に不機嫌になったりはしなかった。

ただ、部屋を変わるように伝えた後、元の部屋より少しだけ広くなった部屋に案内される。部屋にはベッドと前の部屋よりも少し小さめのテーブルとソファがあり、内装は好きな様にしていいらしい。

「愛妾様が気安くお過ごしできる様にと、陛下にお聞きしております。」

前の部屋は側妃に当てられる部屋で、其方は執務を行う場合もあり、全てを好きにできると言う訳ではないらしい。

ミアはソファにボフンと音を立てて座ると、その心地よさを気に入って嬉しくなった。子供みたいだからやめなさい、と男爵家では叱られていたが、此処では特に怒られたり、眉を顰められたりしない。

「侍女は……減った?」

後ろについている侍女は、今は二人だけ。側妃となるなら、王宮から予算がつけられる為に王宮の侍女がつけられるらしいけれど、愛妾ならば、陛下の個人予算が使われる為に、侍女は多くは付けられないという。

ただし、ミアについている侍女は二人とも王宮侍女の中でも特に仕事のできる二人だと聞いたので、そういうところでもミアは自分を特別に思っていることがわかって嬉しくなった。

愛妾として王宮に入るのが、彼の正妃となるご令嬢よりも早かったのは、陛下が早くミアを所望したからだと聞いている。

陛下は前の正妃様を病で亡くされている。愛妾となったミアとは少し年齢は離れているが、新しい正妃もミアと年齢は変わらない。前の正妃様と陛下の間に子はなく、だからこそ新しい妃を迎える必要があったのだが、その前に陛下はミアと運命の出会いをしてしまったのだ。

こうなってしまえば、ミアは嫁いでくる正妃様に申し訳なさでいっぱいだ。

正妃様は、公爵家のご令嬢で、ミアの二つ上の二十歳。陛下はミアを愛しているから所謂お飾りの正妃様である。

ミアが正妃様に会うことは陛下の許可が降りなくて出来なかったが、やっぱり気になって少しだけ、とひっそりと彼女を見に行くことにした。

公爵令嬢と陛下の結婚式は壮大で、一見素晴らしくお似合いの美男美女ではあったが、陛下の顔には作った笑顔が張り付いており、ミアに向ける様な熱の籠った笑顔ではない。

「かわいそうな正妃様。」
ミアの呟きは、近くにいた侍女にも聞こえないぐらいの小さなものだった。
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