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番外編 幸せな人生に
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私達は互いに公爵家と伯爵家を継いだ。私はアンソニーとの婚姻後、三人の子宝に恵まれた。一番上の長男フレッドはアンソニーに似て、頭の良く回る行く末が恐ろしくも楽しみな子。そして次男ユーリはアンソニーよりも私に少し似た引っ込み思案でお外で遊ぶよりは家にいたい大人しい子。末に生まれた娘エリザベスは二人の兄から少し重すぎないかしら、と思うほどの愛を与えられている。
長男のフレッドは、庭にいたトカゲを、エリザベスにあげると言って、メイドを驚かしている。
「フレッド、トカゲを放してあげて。エリザベスは怖がってしまうわ。」
フレッドは誰に似たのか、色々と贈り物を思いつくも、斜め上のものばかり持ってくる。「これは、社交界までには矯正しなきゃいけないわね。」
私の呟きに、クスッと笑って、アンソニーは執務の手を止める。
「アレは私に良く似ている。昔、庭で見つけた虫を母上にプレゼントして、卒倒されたことがあった。今では笑い話だが、子供達をみていると、思い出すことがたくさんあるよ。」
アンソニーが昔の記憶を思い出して語る中には随分前に失った兄の存在がある。今は道を違えてしまい、もう二度と会うことは叶わないが、最近になってようやく、彼のことを口にする日も増えてきた。私も、幼馴染だから、記憶を消してしまいたくとも、そこにいるのだから、仕方がない。
例えば、ユーリの髪型が風に靡いたときに、ふとクリス様を思い出したり、彼も最初は、引っ込み思案な様子を見せていたな、とその様子を思い、懐かしい気持ちになる。
ユーリは近所にすむ女の子に白くてナヨナヨしていると揶揄われたことをきっかけに最近フレッドにくっついて、外で遊ぶようになった。とは言え、フレッドが持ってくるトカゲやら、虫やらに怯えて、途中で一人だけ戻ってくることもあるのだが。
伯爵家は私が継いだとは言え、屋敷の管理は両親に未だ頼りきりだ。フレッドか、ユーリか、はたまたエリザベスが後を継ぐまでは元気でいたいと、娘にも孫にも甘い両親はどこか嬉しそうだ。
エリザベスはまだ赤子であるから、話すことはできないが、その愛らしさで早くも侯爵家を牛耳るところまできている。気の早いことに、彼女の結婚相手の条件まで出てきたのだから、ここは私が責任を持って、このバカ共を教育しなければならない。婚約者は、エリザベス自身が好きな人ができたら、で良い。ただし、失敗は一度で懲りたから、相手の調査は早めにさせて貰うけれど。
「私も十分親バカだわ。」
子供達を愛おしく見つめるアンソニーに心は温まる。クリス様ならこうはならなかった。きっと、自分大好きなあの人は、子供は放っておいても育つ、と何もしなかっただろう。
あのとき現れたメイスという女性の姿が、あのまま何も起きなかった場合の、自分の将来の姿と重なって、あの時の自分は心底怯えたものだ。もしかしたら、あちら側だったのかもしれない。そう思うだけであの女性に対するモヤモヤした気持ちは、同情に姿を変えた。
今あの親子は伯爵領で面倒を見ている。いつか私達の子がその地を統治する際に、手伝って貰う条件で、住む家と仕事を用意した。
子供同士はいとこにあたるから、仲が良くて何よりだ。
私達にはもう少しだけ、溝があるかな?
子供が成長するまでに、お互いを知っていけば良い。まだ時間はあるのだから。
長男のフレッドは、庭にいたトカゲを、エリザベスにあげると言って、メイドを驚かしている。
「フレッド、トカゲを放してあげて。エリザベスは怖がってしまうわ。」
フレッドは誰に似たのか、色々と贈り物を思いつくも、斜め上のものばかり持ってくる。「これは、社交界までには矯正しなきゃいけないわね。」
私の呟きに、クスッと笑って、アンソニーは執務の手を止める。
「アレは私に良く似ている。昔、庭で見つけた虫を母上にプレゼントして、卒倒されたことがあった。今では笑い話だが、子供達をみていると、思い出すことがたくさんあるよ。」
アンソニーが昔の記憶を思い出して語る中には随分前に失った兄の存在がある。今は道を違えてしまい、もう二度と会うことは叶わないが、最近になってようやく、彼のことを口にする日も増えてきた。私も、幼馴染だから、記憶を消してしまいたくとも、そこにいるのだから、仕方がない。
例えば、ユーリの髪型が風に靡いたときに、ふとクリス様を思い出したり、彼も最初は、引っ込み思案な様子を見せていたな、とその様子を思い、懐かしい気持ちになる。
ユーリは近所にすむ女の子に白くてナヨナヨしていると揶揄われたことをきっかけに最近フレッドにくっついて、外で遊ぶようになった。とは言え、フレッドが持ってくるトカゲやら、虫やらに怯えて、途中で一人だけ戻ってくることもあるのだが。
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「私も十分親バカだわ。」
子供達を愛おしく見つめるアンソニーに心は温まる。クリス様ならこうはならなかった。きっと、自分大好きなあの人は、子供は放っておいても育つ、と何もしなかっただろう。
あのとき現れたメイスという女性の姿が、あのまま何も起きなかった場合の、自分の将来の姿と重なって、あの時の自分は心底怯えたものだ。もしかしたら、あちら側だったのかもしれない。そう思うだけであの女性に対するモヤモヤした気持ちは、同情に姿を変えた。
今あの親子は伯爵領で面倒を見ている。いつか私達の子がその地を統治する際に、手伝って貰う条件で、住む家と仕事を用意した。
子供同士はいとこにあたるから、仲が良くて何よりだ。
私達にはもう少しだけ、溝があるかな?
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