異世界で嫁に捨てられそう

mios

文字の大きさ
上 下
3 / 9

もてなしを受ける嫁と毒見役の俺

しおりを挟む
「精霊王の娘」と言うパワーワードに釣られて、ちゃんとした人から変な奴までいろんな人に声をかけられる。いくらイケメンでも、中身のない奴やヤバい奴は同族嫌悪と言うのか、割とわかるのだけど、嫁はそう言う特殊なのが、好きなのか?囁かれる言葉に、まんざらでもない顔をしている。甘い言葉に耳を貸すな。しっかりしろ!

嫁の機嫌は引き続きあまりよくない。貴方には関係ないでしょ、とでも言いたい顔をしているが、いや、コイツは俺と同じ匂いがする、と言えば嫁が怯えて、近づかないので、まあ、牽制は出来たと思う。俺の精神は抉れたけど。

とにかく歩いているだけで、いろんな人に食事に誘われている。俺のことは、置物かなにかと思われているのか。見向きもされない。食べ物には、何か毒とか、惚れ薬とか入ってないだろうな。嫁に何かあると思うと、不安で、心配でならない。そう言うと、「あ、じゃあ、宜しくね。」と返されてしまった。え、俺、毒味役なの?

躊躇っていると、「大丈夫、私回復魔法使える、はず。」と言った。まあ、そうか。戦闘の時、散々使ってくれたもんな。うーん、怖い気もするけど、嫁に何かあるよりはマシか。わかった!食うぞー!

異世界の食事って絶対に美味しくない、と勝手に思っていたのだが、意外と美味しいことが判明した。最初に誘われて行った家は、いかにも成金みたいな怪しげなオヤジの招待だったから、偏見で用心してしまったが、取り越し苦労だったようだ。大丈夫だった。美味しくて、毒味だと言うのに、たらふく平らげてしまった。眠くなる。あまりの早い眠気に睡眠薬を疑ったが……

はっ、と飛び起きるが、嫁は無事?みたいだ。いつのまにか自宅に帰っていて、自室だった。念のため嫁の寝てる部屋に行くと、鍵がかかっている。多分大丈夫だろう。嫁は俺より強いしね。いくらたらふくでも、先に眠ってしまったので、申し訳ないと反省する。呆れているだろうな。明日謝ろう。また寝に部屋へ戻る。

次の日、起きて謝ったら、嫁が意外にも優しい。どうやら、昨日の食事に睡眠薬が入っていたらしく、俺が毒味をしたおかげで嫁が助かったらしい。柔らかな笑顔を向けられて、素直に嬉しい。

そうなのか。まあ、嫁が無事ならいいや。次からも、頑張って毒味をしよう。
決意を新たにしたのも束の間。

また変な男に声をかけられている。その男もちょっと……じっとみていると、嫁が気にしてくれて、お断りをしていた。感動してしまう。これだけで感動とか前の自分ではあり得ないな、と考えて苦笑する。あれだけ女遊びをしていた自分には今異世界にいるとはいえ、嫁の行動や交友関係についてとやかく言う資格なんかない。

でも、やばい奴はわかる。俺と同じ匂いだから!異世界では嫁に幸せになってほしい。本当はその場に自分がいたいけれど、出来たらもう一度やり直したいと思うけれど、それはただの我儘になる。

嫁が嫌がっていることをこれ以上強要はできない。

今回は睡眠薬だったけれど、毒とか食べてしまった場合、毒耐性とかつくのだろうか。と言うか、死んだりはしないよな。死んだら、流石に泣いてくれるかな。それか、漸く自由を手に入れたと、スッキリしてしまうのだろうか。

でも、自分は、嫁にとっては一度死んだような存在だと思う。ずっと帰ってこなくて、夫としての責務も果たさず、頼れもしない。いるようないないような。もうはじめから諦めていないもの、としてしまえば、楽な存在。

自分が同じことをされたら、絶対大騒ぎするくせに、自分がしたことに、責任すら取らない。本当に反省しかない。

嫁が今でも見捨てずにいてくれるのを、嬉しく思っている反面、夫婦だから当然とか思ってしまう。けれど、ちっとも当然なんかではない。かなこが、優しいのと、義理堅いだけだ。一度夫婦だった俺に対して情けをかけてくれただけ。

毒味をすることを怖いとは思う。けれどこれで死んだとしても、悔いはないだろう。嫁に迷惑かけてきた少しでも、恩を返せたらいいと思うから。

嫁からしたら、こんな少しの恩では割に合わないと言うかもしれないが。

男達がひと段落したら、女性たちからのお誘いがあった。嫁の危険を考えたら、女性相手の方が、安心だと思うのだが、嫁の視線が気になる。

あれ、何か怒ってる?眉間に皺が凄いけれど。

嫁は断ることに慣れたのか、丁重にお断りを入れていた。疲れたのかな?

よくわからないまま、足早に帰ろうとする嫁の後を追う。厳しい顔をしている。何か言われたのだろうか。いい人そうに見えたけど。

正直、男のやばい奴はわかるけど、女のやばいのはわからない。女の人は嘘が上手いから。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

当て馬の悪役令嬢に転生したけど、王子達の婚約破棄ルートから脱出できました。推しのモブに溺愛されて、自由気ままに暮らします。

可児 うさこ
恋愛
生前にやりこんだ乙女ゲームの悪役令嬢に転生した。しかも全ルートで王子達に婚約破棄されて処刑される、当て馬令嬢だった。王子達と遭遇しないためにイベントを回避して引きこもっていたが、ある日、王子達が結婚したと聞いた。「よっしゃ!さよなら、クソゲー!」私は家を出て、向かいに住む推しのモブに会いに行った。モブは私を溺愛してくれて、何でも願いを叶えてくれた。幸せな日々を過ごす中、姉が書いた攻略本を見つけてしまった。モブは最強の魔術師だったらしい。え、裏ルートなんてあったの?あと、なぜか王子達が押し寄せてくるんですけど!?

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

悪魔だと呼ばれる強面騎士団長様に勢いで結婚を申し込んでしまった私の結婚生活

束原ミヤコ
恋愛
ラーチェル・クリスタニアは、男運がない。 初恋の幼馴染みは、もう一人の幼馴染みと結婚をしてしまい、傷心のまま婚約をした相手は、結婚間近に浮気が発覚して破談になってしまった。 ある日の舞踏会で、ラーチェルは幼馴染みのナターシャに小馬鹿にされて、酒を飲み、ふらついてぶつかった相手に、勢いで結婚を申し込んだ。 それは悪魔の騎士団長と呼ばれる、オルフェレウス・レノクスだった。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】魂の片割れを喪った少年

夜船 紡
恋愛
なぁ、あんた、番【つがい】って知ってるか? そう、神様が決めた、運命の片割れ。 この世界ではさ、1つの魂が男女に分かれて産まれてくるんだ。 そして、一生をかけて探し求めるんだ。 それが魂の片割れ、番。 でもさ、それに気付くのが遅い奴もいる・・・ そう、それが俺だ。 ーーーこれは俺の懺悔の話だ。

処理中です...