13 / 16
本編
舞台裏② ルーカス視点
しおりを挟む
「ルーカス様。いつまで寝てるんです?」
ルーカスは第二王子だった。彼の知っている未来では王太子だったのに、今はしがない第二王子。中身が違う影響かと思ったら知らなかっただけで、元の道筋を歩んでいるのだという。
ルーカスの体に入っている男は、前の人生と比べて勝ち組だと喜んでいたが、これから王太子を此方に移す為に血みどろな闘いが始まるのだろうと予想して嫌な気分になった。
セシリアと恋に落ち、彼女の為に彼女の元家族に復讐をする王太子ルーカス。今更セシリアに欲情することはないとして、彼は出来ればセシリアよりも公爵令嬢とやらに相手をお願いしたいとまで思っていた。
その公爵令嬢は、公爵子息と婚約中だったが、突然子息側の不貞が発覚し、修道院に入ることになったという。
驚くことには、修道院に向かう前に彼女から手紙が一通届いたことだ。出会ったこともない公爵令嬢から、裏切りのお誘いが届いた時、男はその手に縋った。
「ルーカス様を王太子にして差し上げる代わりに、セシリアではなく、私と結婚しませんか。」
ルーカスの名前を知っていることは勿論、セシリアの名前が出た時に、男は彼女が何もかも自分と同じ立場の人間だと気がついた。
頭の中に、ある女の顔が思い浮かぶ。
自分の身の破滅は元はと言えばその女が原因だ。だが、ルーカスはついている。この身体とこの地位なら、前のような悲惨な結末にはなるまい。
一度は愛し合った仲なのだから、きっと今度こそうまく行くはずだと、ルーカスはほくそ笑んだ。
ルーカスが第一王子を蹴散らしたのは、ケイティのおかげではない。単に向こうが勝手に失脚し、勝手に行方不明になったからだ。
騎士の言うことには、「たった一人で生き延びているなんてことはないでしょう」と、悲壮感溢れた表情で落ち込んでいる。
第一王子、第二王子と呼ばれていながら、彼はルーカスの兄ではなかった。
そのあたりはルーカスにはよくわからない。どちらが尊い血かと言われると、圧倒的に向こうでも、ルーカスの方が味方は多かった。
ルーカスは、ケイティが敢えて自ら国外追放になった経緯を知っている。そうしないと、セシリアには一生会えないからだ。だと言うのに、セシリアは話の内容を勝手に変えた。
ケイティは、セシリアの中身がもしかして変わっているのかもしれない、と言っていたが、それもそのはず。ルーカスの中身も、何ならケイティの中身も別人なのだから、あり得る話だ。
だけど直接話した感じ、セシリアはちゃんとセシリアだったと、ケイティは言っていた。ルーカスはそれに違和感を覚える。
セシリアはセシリアではない。ルーカスがわかったのは、偶然の産物だったが、ケイティにはそれがわからないようだった。
彼女を攫うようにして、隣国へ帰る。セシリアはケイティの思惑通りにケイティの侍女になった。
毎日毎日、仲を見せつけるように接するも、大してダメージはないように見えるセシリア。
ケイティは痩せ我慢だと言うがとてもそうには見えない。心底、どうでも良さそうなセシリアに、多分ルーカスに対する愛情が皆無だと思い知らされる。
告白していないうちに振られた、みたいな状況に怒っていいのか、何とも言えない雰囲気になった。
隣国に乗り込んだ時にはゆうに五年が経っていた。それは全て、ケイティの妃教育が進まなかったせいだ。今もセシリアが予備として教育を受けているからケイティとの婚約が叶っただけで、ケイティ自身の教育の成果ではなかった。
侯爵夫人のフレアは中身が違うからか、ちゃんとロバートによく似た息子を産んだらしい。
もしかしたら、あの中身がセシリアなのでは?と思うも、それははっきりしなかった。
ルーカスは昔の自分の顔を見る。同じ顔なのに、どうして前の自分よりも男前に見えるのだろう。
恋愛結婚の妻と仲良さげな自分自身を見て猛烈な嫉妬と、哀しみが気分を盛り下げる。
フレアにいつ言い寄られるか楽しみにしていたと言うのに、その機会は与えられなかった。
若く美しいフレア。
「「私のものだったのに。」」
隣から同じ言葉が聞こえて、ああやっぱりと確信する。
ケイティの中にいるのは「前の妻フレア」であると。
彼女もロバートに会い、思ったに違いない。あれは私のものだ、と。
二人の中身がここにいるなら、フレアとロバートは誰なんだろう。
自分は単なる地方の文官で、今のロバートは、宰相補佐。頭の出来の良さも前とは違う。
「ルーカス様。彼方が仕掛けないのなら、此方から仕掛けますよ。」
そう言って醜く笑った顔は、ルーカスには馴染みの見慣れた笑顔だった。
先程見たフレアの美しい笑顔には到底及ばない。やはり、性格の醜さは顔に出るのだ。昔の自分の趣味の悪さに、ルーカスは大きな溜め息を吐いた。
ルーカスは第二王子だった。彼の知っている未来では王太子だったのに、今はしがない第二王子。中身が違う影響かと思ったら知らなかっただけで、元の道筋を歩んでいるのだという。
ルーカスの体に入っている男は、前の人生と比べて勝ち組だと喜んでいたが、これから王太子を此方に移す為に血みどろな闘いが始まるのだろうと予想して嫌な気分になった。
セシリアと恋に落ち、彼女の為に彼女の元家族に復讐をする王太子ルーカス。今更セシリアに欲情することはないとして、彼は出来ればセシリアよりも公爵令嬢とやらに相手をお願いしたいとまで思っていた。
その公爵令嬢は、公爵子息と婚約中だったが、突然子息側の不貞が発覚し、修道院に入ることになったという。
驚くことには、修道院に向かう前に彼女から手紙が一通届いたことだ。出会ったこともない公爵令嬢から、裏切りのお誘いが届いた時、男はその手に縋った。
「ルーカス様を王太子にして差し上げる代わりに、セシリアではなく、私と結婚しませんか。」
ルーカスの名前を知っていることは勿論、セシリアの名前が出た時に、男は彼女が何もかも自分と同じ立場の人間だと気がついた。
頭の中に、ある女の顔が思い浮かぶ。
自分の身の破滅は元はと言えばその女が原因だ。だが、ルーカスはついている。この身体とこの地位なら、前のような悲惨な結末にはなるまい。
一度は愛し合った仲なのだから、きっと今度こそうまく行くはずだと、ルーカスはほくそ笑んだ。
ルーカスが第一王子を蹴散らしたのは、ケイティのおかげではない。単に向こうが勝手に失脚し、勝手に行方不明になったからだ。
騎士の言うことには、「たった一人で生き延びているなんてことはないでしょう」と、悲壮感溢れた表情で落ち込んでいる。
第一王子、第二王子と呼ばれていながら、彼はルーカスの兄ではなかった。
そのあたりはルーカスにはよくわからない。どちらが尊い血かと言われると、圧倒的に向こうでも、ルーカスの方が味方は多かった。
ルーカスは、ケイティが敢えて自ら国外追放になった経緯を知っている。そうしないと、セシリアには一生会えないからだ。だと言うのに、セシリアは話の内容を勝手に変えた。
ケイティは、セシリアの中身がもしかして変わっているのかもしれない、と言っていたが、それもそのはず。ルーカスの中身も、何ならケイティの中身も別人なのだから、あり得る話だ。
だけど直接話した感じ、セシリアはちゃんとセシリアだったと、ケイティは言っていた。ルーカスはそれに違和感を覚える。
セシリアはセシリアではない。ルーカスがわかったのは、偶然の産物だったが、ケイティにはそれがわからないようだった。
彼女を攫うようにして、隣国へ帰る。セシリアはケイティの思惑通りにケイティの侍女になった。
毎日毎日、仲を見せつけるように接するも、大してダメージはないように見えるセシリア。
ケイティは痩せ我慢だと言うがとてもそうには見えない。心底、どうでも良さそうなセシリアに、多分ルーカスに対する愛情が皆無だと思い知らされる。
告白していないうちに振られた、みたいな状況に怒っていいのか、何とも言えない雰囲気になった。
隣国に乗り込んだ時にはゆうに五年が経っていた。それは全て、ケイティの妃教育が進まなかったせいだ。今もセシリアが予備として教育を受けているからケイティとの婚約が叶っただけで、ケイティ自身の教育の成果ではなかった。
侯爵夫人のフレアは中身が違うからか、ちゃんとロバートによく似た息子を産んだらしい。
もしかしたら、あの中身がセシリアなのでは?と思うも、それははっきりしなかった。
ルーカスは昔の自分の顔を見る。同じ顔なのに、どうして前の自分よりも男前に見えるのだろう。
恋愛結婚の妻と仲良さげな自分自身を見て猛烈な嫉妬と、哀しみが気分を盛り下げる。
フレアにいつ言い寄られるか楽しみにしていたと言うのに、その機会は与えられなかった。
若く美しいフレア。
「「私のものだったのに。」」
隣から同じ言葉が聞こえて、ああやっぱりと確信する。
ケイティの中にいるのは「前の妻フレア」であると。
彼女もロバートに会い、思ったに違いない。あれは私のものだ、と。
二人の中身がここにいるなら、フレアとロバートは誰なんだろう。
自分は単なる地方の文官で、今のロバートは、宰相補佐。頭の出来の良さも前とは違う。
「ルーカス様。彼方が仕掛けないのなら、此方から仕掛けますよ。」
そう言って醜く笑った顔は、ルーカスには馴染みの見慣れた笑顔だった。
先程見たフレアの美しい笑顔には到底及ばない。やはり、性格の醜さは顔に出るのだ。昔の自分の趣味の悪さに、ルーカスは大きな溜め息を吐いた。
12
お気に入りに追加
223
あなたにおすすめの小説
記憶を失くした婚約者
桜咲 京華
恋愛
侯爵令嬢エルザには日本人として生きていた記憶があり、自分は悪役令嬢であると理解していた。
婚約者の名前は公爵令息、テオドール様。
ヒロインが現れ、テオドールと恋に落ちれば私は排除される運命だったからなるべく距離を置くようにしていたのに、優しい彼に惹かれてしまう自分を止められず、もしかしたらゲームの通りにはならないのではないかと希望を抱いてしまった。
しかしゲーム開始日の前日、テオドール様は私に関する記憶だけを完全に失ってしまった。
そしてゲームの通りに婚約は破棄され、私は酷い結末を迎える前に修道院へと逃げ込んだのだった。
続編「正気を失っていた婚約者」は、別の話として再連載開始する為、このお話は完結として閉じておきます。
【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。
なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。
本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!
生まれ変わっても一緒にはならない
小鳥遊郁
恋愛
カイルとは幼なじみで夫婦になるのだと言われて育った。
十六歳の誕生日にカイルのアパートに訪ねると、カイルは別の女性といた。
カイルにとって私は婚約者ではなく、学費や生活費を援助してもらっている家の娘に過ぎなかった。カイルに無一文でアパートから追い出された私は、家に帰ることもできず寒いアパートの廊下に座り続けた結果、高熱で死んでしまった。
輪廻転生。
私は生まれ変わった。そして十歳の誕生日に、前の人生を思い出す。
貴方誰ですか?〜婚約者が10年ぶりに帰ってきました〜
なーさ
恋愛
侯爵令嬢のアーニャ。だが彼女ももう23歳。結婚適齢期も過ぎた彼女だが婚約者がいた。その名も伯爵令息のナトリ。彼が16歳、アーニャが13歳のあの日。戦争に行ってから10年。戦争に行ったまま帰ってこない。毎月送ると言っていた手紙も旅立ってから送られてくることはないし相手の家からも、もう忘れていいと言われている。もう潮時だろうと婚約破棄し、各家族円満の婚約解消。そして王宮で働き出したアーニャ。一年後ナトリは英雄となり帰ってくる。しかしアーニャはナトリのことを忘れてしまっている…!
〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です
hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。
夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。
自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。
すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。
訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。
円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・
しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・
はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?
モブに転生したので前世の好みで選んだモブに求婚しても良いよね?
狗沙萌稚
恋愛
乙女ゲーム大好き!漫画大好き!な普通の平凡の女子大生、水野幸子はなんと大好きだった乙女ゲームの世界に転生?!
悪役令嬢だったらどうしよう〜!!
……あっ、ただのモブですか。
いや、良いんですけどね…婚約破棄とか断罪されたりとか嫌だから……。
じゃあヒロインでも悪役令嬢でもないなら
乙女ゲームのキャラとは関係無いモブ君にアタックしても良いですよね?
わたしは不要だと、仰いましたね
ごろごろみかん。
恋愛
十七年、全てを擲って国民のため、国のために尽くしてきた。何ができるか、何が出来ないか。出来ないものを実現させるためにはどうすればいいのか。
試行錯誤しながらも政治に生きた彼女に突きつけられたのは「王太子妃に相応しくない」という婚約破棄の宣言だった。わたしに足りないものは何だったのだろう?
国のために全てを差し出した彼女に残されたものは何も無い。それなら、生きている意味も──
生きるよすがを失った彼女に声をかけたのは、悪名高い公爵子息。
「きみ、このままでいいの?このまま捨てられて終わりなんて、悔しくない?」
もちろん悔しい。
だけどそれ以上に、裏切られたショックの方が大きい。愛がなくても、信頼はあると思っていた。
「きみに足りないものを教えてあげようか」
男は笑った。
☆
国を変えたい、という気持ちは変わらない。
王太子妃の椅子が使えないのであれば、実力行使するしか──ありませんよね。
*以前掲載していたもののリメイク
結婚記念日をスルーされたので、離婚しても良いですか?
秋月一花
恋愛
本日、結婚記念日を迎えた。三周年のお祝いに、料理長が腕を振るってくれた。私は夫であるマハロを待っていた。……いつまで経っても帰ってこない、彼を。
……結婚記念日を過ぎてから帰って来た彼は、私との結婚記念日を覚えていないようだった。身体が弱いという幼馴染の見舞いに行って、そのまま食事をして戻って来たみたいだ。
彼と結婚してからずっとそう。私がデートをしてみたい、と言えば了承してくれるものの、当日幼馴染の女性が体調を崩して「後で埋め合わせするから」と彼女の元へ向かってしまう。埋め合わせなんて、この三年一度もされたことがありませんが?
もう我慢の限界というものです。
「離婚してください」
「一体何を言っているんだ、君は……そんなこと、出来るはずないだろう?」
白い結婚のため、可能ですよ? 知らないのですか?
あなたと離婚して、私は第二の人生を歩みます。
※カクヨム様にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる