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あるご令嬢の本音
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「噂の賞味期限ってどのくらいかしら。」
「せいぜい長くても半年もあれば鎮静化するのではないですか。通常なら。」
「うーん。半年ねぇ。もっと早くに鎮静化させるなら、新しい噂を広めるしかないわよね。」
「そうですね。既存の噂よりもより相手に興味を抱かせる話題を提供すれば良いんですよ。」
悩めるご令嬢に言ったことに、嘘はない。だが、真実かと言うと、そうとも言えない。
クラリス・シモン公爵令嬢の初恋よりも社交界を賑わせる話題などないに等しい。学園時代にも十分美しかった彼女が恋によって他の追随を許さないほどに更に美しくなるなんて、誰も思わなかった。
突然、ダニエル・レアードと婚約を発表したかと思ったら、第二王子との婚約時には見せたことのない顔をたくさん見せるようになった。クラリス・シモンと言うと、どんな時でも柔らかい表情を崩さない所謂高嶺の花。それが、今度の婚約者の前ではまるで少女のように、クルクルと表情を変える。
最近のクラリス・シモンの評判は、「美しい」から、「可愛い」に変わりつつある。
社交界の皆は、それが第一王子アントニオの結婚よりも、第二王子アレクセイの病死よりも、ずっとずっと気になる話題らしい。
「いつまでも、噂がなくならないのは、なぜかしら。私のことなんて、もう忘れても良い頃合いでしょう?」
照れて恥ずかしがっているクラリス嬢を好きな一部界隈がいる限り、噂は払拭されないと思います、と言う本音を隠して、話を聞く。
「ダニエル様にも自重していただかないと難しいのではないですか。」
子爵家の三男と言えど、その容姿や実力から、人気の絶えなかったダニエル・レアードがクラリス嬢を愛して甘やかしている様子も噂に拍車をかけている。
お二人がいると、まるでそこだけに、神の加護が降り注ぐように背景に薔薇が散っているように見えて、尊みが増す。
とにかく絵になる二人をこの目に焼き付けたくて、皆が必死になった結果、茶会などでマウントを取れる話題として、人気が上がり、意図せずに噂が広がっていく。
「ダニエルには、難しいでしょうね。」
ダニエル様の名前を発するだけで、顔が緩むクラリス嬢を、ダニエル様は、可愛くて堪らないでしょうから、まあ無理でしょう。
「もう諦めるしかないんじゃないでしょうか。」
「だって、私の身が持たないの。茶会に行っても、夜会でも皆生暖かい目で見てくるのよ。まだ睨まれたりした方がマシよ。ついこの間までダニエルを好きだと話していたご令嬢まで、そうなのよ。居た堪れないわ。」
まあ、そうでしょう。そうでしょう。両思いなのに、ウジウジしている二人を後押ししたくて、皆それぞれが当て馬として動いた結果、なのですから。
「もう、溺れて仕舞えば良いのですよ。
そのうち、ダニエル様のことで頭がいっぱいになればそんなこと気にならなくなりますって。」
「これ以上、彼のことを考えるって……それこそ身がもたないわ。」
あともう一押しだと、ダニエルに伝えれば、クラリスの新たな一面をまた見ることが出来るだろうか。
「せいぜい長くても半年もあれば鎮静化するのではないですか。通常なら。」
「うーん。半年ねぇ。もっと早くに鎮静化させるなら、新しい噂を広めるしかないわよね。」
「そうですね。既存の噂よりもより相手に興味を抱かせる話題を提供すれば良いんですよ。」
悩めるご令嬢に言ったことに、嘘はない。だが、真実かと言うと、そうとも言えない。
クラリス・シモン公爵令嬢の初恋よりも社交界を賑わせる話題などないに等しい。学園時代にも十分美しかった彼女が恋によって他の追随を許さないほどに更に美しくなるなんて、誰も思わなかった。
突然、ダニエル・レアードと婚約を発表したかと思ったら、第二王子との婚約時には見せたことのない顔をたくさん見せるようになった。クラリス・シモンと言うと、どんな時でも柔らかい表情を崩さない所謂高嶺の花。それが、今度の婚約者の前ではまるで少女のように、クルクルと表情を変える。
最近のクラリス・シモンの評判は、「美しい」から、「可愛い」に変わりつつある。
社交界の皆は、それが第一王子アントニオの結婚よりも、第二王子アレクセイの病死よりも、ずっとずっと気になる話題らしい。
「いつまでも、噂がなくならないのは、なぜかしら。私のことなんて、もう忘れても良い頃合いでしょう?」
照れて恥ずかしがっているクラリス嬢を好きな一部界隈がいる限り、噂は払拭されないと思います、と言う本音を隠して、話を聞く。
「ダニエル様にも自重していただかないと難しいのではないですか。」
子爵家の三男と言えど、その容姿や実力から、人気の絶えなかったダニエル・レアードがクラリス嬢を愛して甘やかしている様子も噂に拍車をかけている。
お二人がいると、まるでそこだけに、神の加護が降り注ぐように背景に薔薇が散っているように見えて、尊みが増す。
とにかく絵になる二人をこの目に焼き付けたくて、皆が必死になった結果、茶会などでマウントを取れる話題として、人気が上がり、意図せずに噂が広がっていく。
「ダニエルには、難しいでしょうね。」
ダニエル様の名前を発するだけで、顔が緩むクラリス嬢を、ダニエル様は、可愛くて堪らないでしょうから、まあ無理でしょう。
「もう諦めるしかないんじゃないでしょうか。」
「だって、私の身が持たないの。茶会に行っても、夜会でも皆生暖かい目で見てくるのよ。まだ睨まれたりした方がマシよ。ついこの間までダニエルを好きだと話していたご令嬢まで、そうなのよ。居た堪れないわ。」
まあ、そうでしょう。そうでしょう。両思いなのに、ウジウジしている二人を後押ししたくて、皆それぞれが当て馬として動いた結果、なのですから。
「もう、溺れて仕舞えば良いのですよ。
そのうち、ダニエル様のことで頭がいっぱいになればそんなこと気にならなくなりますって。」
「これ以上、彼のことを考えるって……それこそ身がもたないわ。」
あともう一押しだと、ダニエルに伝えれば、クラリスの新たな一面をまた見ることが出来るだろうか。
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