悪役令嬢は冤罪を嗜む

mios

文字の大きさ
上 下
12 / 19

正妃のターン①表側

しおりを挟む
改めての話し合いに、側妃様はいなかった。代わりにいたのは正妃様。聞いていなかったのか、陛下の顔色は真っ青を通り越して真っ白になっている。

「何だか面白そうなことをやってるから来ちゃった。」

そんなあざといことを言っても似合ってしまうのが正妃様。

「なーんてね、あの子が来られないって言うから私が代わりに来ただけよ。まあちょっとした悪戯だったんだけど、それを誰かに利用されるなんて思わなかったものだから。本当に呆れるわ。」

顔は笑っているのに、しっかりと怒気は感じられる。陛下の存在感は徐々に薄れていくようだ。

「先の、側妃シルビアと、陛下のやりとりは皆覚えていて?あの真相から、話していくことにするわね。」

正妃様の口から語られた真実は、クラリスの予想通りのことだった。

「私の妊娠中に、陛下がシルビアに手をつけたのは、本当よ。シルビアは私の数少ない友人で、陛下にとっても身近な存在だった。まあ、それは良いわ。彼女が陛下の好きなタイプだって知っていたし、私の側に置くのなら、こうなることもある、と思っていたから。

ただ、それが妊娠中に行われると思っていなかったのよ。知ってるのよ。世の男性方が浮気しやすい時期って言うのは、妻が妊娠中が多いって。ただね、本当にそんなことがある、って実感していなかった。

シルビアが見た男性と言うのはね、お恥ずかしい話、私のことなの。陛下とシルビアがそうなったことを知って、居ても立っても居られなくなって、男性に変装して、部屋に入ったわ。

シルビアに姿を見られて、怖かっただろうに騒ぐと、陛下や私に迷惑がかかるかも、と我慢した彼女を見て、沸々と怒りが湧いたわ。誰にって、その横で呑気に鼾かいてる男によ。

陛下によく似た息子を産んでくれ、人を悪役にしてまで側に置くのを望んだくせに、今になってあっさり自分だけ罪から逃げようとするその卑怯な男に、心底失望したの。

しかも貴方、あの子にお酒を飲ませて、襲ったのよね。あの子はお酒に弱いの、知っていたわよね。意識のない状態で同意の得られない行為をするのは、例え貴方が最高権力者であっても、犯罪ですからね。挙げ句の果てに今になって自分の罪を隠そうとするなんて、お生憎様。貴方とアレクセイは親子である、と既に証明されているわ。逃げることは許されないわよ。」

正妃オリビアが2枚の紙を陛下に突きつける。陛下はご存知でなかったようだが、最近托卵を防ぐ為に親子関係を証明するための道具が開発されたのである。

仕組みはよくわからないが、何種類かの検体を元に親子であるかがわかる画期的な物らしく、托卵だと困る貴族家や王家を中心に世界で売れている代物である。

シモン公爵家は我が国でいち早くその道具を手に入れた。アレクセイの出自が疑われた噂の最初の段階でアレクセイは陛下の子だと結論づけていた。

その結果は正妃オリビアに委ねられていただけのこと。


「アレクセイとシルビアを悪者にして、自分は逃げるなんて、卑怯なことなさらないわよね。陛下はそんな器の小さいことなさらないわよね?ああ、でもアントニオのことを自分の子ではないかもしれないと、漏らしたことがあったわね。あの時と同じかしら。また誰か口説きたい女性でも出来たのかしら。」

正妃様によれば、陛下は女を口説く時に自分の子を否定し、あわよくば自分の子が王位につけるのでは?と勘違いさせて手をつける、謂わば相手の欲を引き出して行為を正当化するタイプらしい。ドン引きだ。

「そんな者はいない。私は少しの可能性を提示しただけだ。」

「そう、ならばご安心なさって。貴方にはアントニオ、アレクセイと言う立派な息子が二人もいるわ。どちらも貴方の息子で間違いない、と出ているから、貴方の後は、安泰よ?」

クラリスは内心アレ?と思った。だが、何も言わずにやり過ごす。ここで無闇な発言をして、混乱を広げるのは得策ではない。

陛下は前回の発言を撤回し、混乱させたことを皆に詫びた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令息の婚約者になりまして

どくりんご
恋愛
 婚約者に出逢って一秒。  前世の記憶を思い出した。それと同時にこの世界が小説の中だということに気づいた。  その中で、目の前のこの人は悪役、つまり悪役令息だということも同時にわかった。  彼がヒロインに恋をしてしまうことを知っていても思いは止められない。  この思い、どうすれば良いの?

【完結】悪役令嬢はおせっかい「その婚約破棄、ちょっとお待ちなさい」

みねバイヤーン
恋愛
「その婚約破棄、ちょっとお待ちなさい」まーたオリガ公爵令嬢のおせっかいが始まったぞ。学園内での婚約破棄に、オリガ公爵令嬢が待ったをかけた。オリガの趣味は人助け、好きな言葉はノブレス・オブリージュ。無自覚な悪役令嬢オリガは、ヒロインの攻略イベントをことごとくつぶしていく。哀れなヒロインはオリガのおせっかいから逃げられない。

【 完結 】「平民上がりの庶子」と言っただなんて誰が言ったんですか?悪い冗談はやめて下さい!

しずもり
恋愛
 ここはチェン王国の貴族子息子女が通う王立学園の食堂だ。確かにこの時期は夜会や学園行事など無い。でもだからってこの国の第二王子が側近候補たちと男爵令嬢を右腕にぶら下げていきなり婚約破棄を宣言しちゃいますか。そうですか。 お昼休憩って案外と短いのですけど、私、まだお昼食べていませんのよ?  突然、婚約破棄を宣言されたのはチェン王国第二王子ヴィンセントの婚約者マリア・べルージュ公爵令嬢だ。彼女はいつも一緒に行動をしているカミラ・ワトソン伯爵令嬢、グレイシー・テネート子爵令嬢、エリザベス・トルーヤ伯爵令嬢たちと昼食を取る為食堂の席に座った所だった。 そこへ現れたのが側近候補と男爵令嬢を連れた第二王子ヴィンセントでマリアを見つけるなり書類のような物をテーブルに叩きつけたのだった。 よくある婚約破棄モノになりますが「ざまぁ」は微ざまぁ程度です。 *なんちゃって異世界モノの緩い設定です。 *登場人物の言葉遣い等(特に心の中での言葉)は現代風になっている事が多いです。 *ざまぁ、は微ざまぁ、になるかなぁ?ぐらいの要素しかありません。

【改稿版】婚約破棄は私から

どくりんご
恋愛
 ある日、婚約者である殿下が妹へ愛を語っている所を目撃したニナ。ここが乙女ゲームの世界であり、自分が悪役令嬢、妹がヒロインだということを知っていたけれど、好きな人が妹に愛を語る所を見ていると流石にショックを受けた。  乙女ゲームである死亡エンドは絶対に嫌だし、殿下から婚約破棄を告げられるのも嫌だ。そんな辛いことは耐えられない!  婚約破棄は私から! ※大幅な修正が入っています。登場人物の立ち位置変更など。 ◆3/20 恋愛ランキング、人気ランキング7位 ◆3/20 HOT6位  短編&拙い私の作品でここまでいけるなんて…!読んでくれた皆さん、感謝感激雨あられです〜!!(´;ω;`)

貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後

空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。 魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。 そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。 すると、キースの態度が豹変して……?

養父母に家族共々謀殺されましたが、死に戻れたので復讐します。

克全
恋愛
 題名を「双子の姉は聖女、妹は悪役令嬢、二人揃って婚約破棄」から変更しました。  アロン大公国は、豊かで平和な国にだった。  オーラン帝国に属してはいたが、勇猛果敢な騎士団を持ち、半ば独立した国だった。  だがそこに、畜生腹と言われて忌み嫌われる、双子の姉妹が産まれた。  だが大公夫婦は、高齢でやっと授かった娘を殺せなかった。  だから妹の方を、弟夫婦に預けたのだ。  時が経ち、姉の大公公女は聖の魔法使いとななり、聖女と呼ばれるようになった。  一方妹の伯爵令嬢は姉に嫉妬して、捨てられた恨みを晴らすべく、実の親である大公夫婦と聖女に毒を盛って殺した。  そして大公の位を狙ったが、姉の婚約者であった帝国の第二王子に成敗された。  そう歴史書には記されていた。だがそれは真っ赤な嘘だった。

私、悪役令嬢ですが聖女に婚約者を取られそうなので自らを殺すことにしました

蓮恭
恋愛
 私カトリーヌは、周囲が言うには所謂悪役令嬢というものらしいです。  私の実家は新興貴族で、元はただの商家でした。    私が発案し開発した独創的な商品が当たりに当たった結果、国王陛下から子爵の位を賜ったと同時に王子殿下との婚約を打診されました。  この国の第二王子であり、名誉ある王国騎士団を率いる騎士団長ダミアン様が私の婚約者です。  それなのに、先般異世界から召喚してきた聖女麻里《まり》はその立場を利用して、ダミアン様を籠絡しようとしています。  ダミアン様は私の最も愛する方。    麻里を討ち果たし、婚約者の心を自分のものにすることにします。 *初めての読み切り短編です❀.(*´◡`*)❀. 『小説家になろう』様、『カクヨム』様にも掲載中です。

とある令嬢の婚約破棄

あみにあ
恋愛
とある街で、王子と令嬢が出会いある約束を交わしました。 彼女と王子は仲睦まじく過ごしていましたが・・・ 学園に通う事になると、王子は彼女をほって他の女にかかりきりになってしまいました。 その女はなんと彼女の妹でした。 これはそんな彼女が婚約破棄から幸せになるお話です。

処理中です...